シブヤ大学
街の先輩訪問街の先輩訪問レポート

街の先輩訪問レポート6(井梅 江美)



訪問日:2010年3月9日(火) 14:00~16:00(雨)
訪問者:田中 万里子 


シブヤ大学しごと課の「街の先輩訪問」で、明治神宮の神宮会館内にあるNPO法人「響」の事務所を訪れました。
「響」は、日本文化の継承を目的とし、明治神宮をフィールドに、緑化推進事業・稲作事業・国際文化交流事業・啓発普及事業を行っています。
今日お話を伺った先輩は、「響」事務局長の井梅江美さん。
 
この日は冷たい雨の降る日で、明治神宮の杜が、いつもよりいっそう「神々の杜」に感じられました。
神宮会館に現れた井梅さんは、ワンピース姿の「きれいなお姉さん」。「森」とか「NPO」という言葉から連想する、ちょっと堅い感じとは、違いました。
初めての先輩訪問で緊張していた私ですが、井梅さんは私と同じ28歳で出身地も東京西部と、意外な共通点があり、話が盛り上がりました。

P1010184.jpg


1.訪問の目的

2月7日にシブヤ大学オモエコ学科で「森とエコ」という授業が行われ、そこで明治神宮の杜を案内する先生として、井梅さんを知りました。(井梅さんには、これまでにも毎年「どんぐり拾い」の授業をしていただいていますが、残念ながらそちらにはまだ参加できていません。)
この授業にスタッフとして参加していて、「そういえば私も、森林について勉強していたな」ということを思い出しました。(大学では「森林資源科学科」というところにいました。)
森林に関する仕事は限られていて、私自身そういう仕事には就きませんでした。でも、NPOとして緑化はじめ稲作、国際文化交流などを行っている「響」についてもっと知りたい、また、どうやってNPOの活動を始めて、ここまで継続してきたのかを知りたい、もっと言えば「自分に何かできることがあるだろうか?」という思いがあり、「街の先輩訪問」に応募しました。


2.今日のお話

「響」立ち上げの経緯、たった一人の専属職員としての苦労とやりがい、今後の活動、などについてお話いただきました。

<熱意>
井梅さんのお話の中で、一番よく出てきた言葉が「熱意」でした。
「響」を始めたのも、ここまで続けてきたのも、すべては「熱意」しかないと、言い切ってくださいました。「響」を立ち上げた学生たちの熱意、ボランティアとして活動に関わる方々の熱意、井梅さんの「響」という団体に対する想い...たくさんの人たちの熱意が、活動を支えています。

<明治神宮>
「響」にとって始まりの場所であり、活動の場であり、スポンサーとして活動をバックアップしてくれる存在。
前身である学生ボランティア団体「YOUTH-CLUB響」設立のきっかけとなったのが、「明治神宮鎮座80年大祭」というイベント。ここに集まった学生たちが、80年前にこの杜を造った11万人の若者たちに倣い、チャレンジ精神を持って立ち上がろう!という熱い思いでボランティア団体を始めました。当時は、7つのプロジェクトを学生が自ら企画し、運営していたそうです。井梅さんは当時18歳。それから今まで10年間、「響」に関わり続けてきました。
「響」がここまで活動を継続してくることができたのは、明治神宮によるバックアップがあったからだといいます。

<サークルからNPOへ>
設立当初は大学生によるボランティア団体だった「響」。もっと社会貢献活動に力を入れていくため、2年後にはNPO法人格を取得しました。
しかし、それが転機になります。
サークル活動のような趣味の仲間の集まりから、事業を行う団体へ。この過渡期に、活動から離れていった仲間は多かったそうです。社会人になり、自分の仕事を持ちながら休みの時間を使ってボランティア活動を行う。使える時間は限られているけれど、クオリティは確保しなければならない。そのために一人一人の負荷が大きくなってしまった時期もありました。
ところが、NPOとして会社的運営を始めてから、再び人が集まるようになりました。サークルからNPOへ、脱皮を遂げたということでしょうか。
以前の井梅さんは、「お金を払えないのに、負荷を与えてはいけない」と思っていましたが、今は、お金に関係なく皆でつくっていこうという意識を、皆がもって活動しているそうです。

<定着>
「コンスタントに活動に参加してくれるスタッフがいることは、ありがたい。」
NPOの活動を続けていくには、定着してくれるスタッフの存在が必要だそうです。
「響」の専属職員は、現在井梅さん一人。他のスッタッフは、役員・ボランティアとも、社会人や学生とのかけもち。休日の貴重な時間を割いて、無償で活動してくれています。そのことに対して申し訳ない気持ちになることもあると、井梅さんは言います。
ただ、事業として続けていく以上、活動を続けられない人に、仕事を任せることはできません。ボランティアスタッフの熱意を「やりがい」に結びつけることが、井梅さんを始めとする役員の仕事でもあるのです。

<「響」あっての私>
「響」がボランティア団体からNPO法人になったとき、仕事の量・質ともボランティアの手だけでは間に合わなくなり、井梅さんのもとに「専属職員にならないか」という話が舞い込みました。そして悩んだ末に、内定をもらっていた会社への就職を辞退し、NPO職員になることを決めます。
職員は自分ひとりだから、NPO法人「響」に関わることは何でも自分でやらなければなりません。例えば、全く知識のなかった法律や会計についても、独学で勉強したそうです。そんな中、社会人とかけもちで活動する役員や、明治神宮の職員の方が教えてくれることもあり、助けてくれる人のありがたさが身にしみたとか。そうやって、大学を卒業してからの6年間を、「響」とともに歩んできました。
ただ、一人で「響」の全てを背負っている現在、「もし私が交通事故に遭ったら、「響」はどうなってしまうんだろう...」という不安もあるそうです。それくらい、井梅さんと「響」とはイコールに近い存在のように感じました。
印象的だったのは、「皆の熱意でつくったこの団体を続けていくために、私が職員になった。」という言葉。
たった一人で職員をやっている人だから、「私がつくった」とか「私がやらなきゃ」という気持ちでやっていると思っていたので、意外な言葉でした。でも、逆に「皆のために」やってきたからこそ、ここまで続けることができたのかなぁと、気付かされました。「自分のため」だったら、人はついて来ないよなぁ...って。今日のお話の中で、一番ハッとさせられた言葉でした。


P1010180.jpg


3.訪問を終えて

井梅さんには、「NPOで働く」ことについて、予定していた時間を超え2時間にわたっていろいろなお話を聞かせていただきました。私自身もシブヤ大学のボランティアスタッフとして活動しているので、シブヤ大学と重なる部分もありました。

<3要素>
そこで、お話の中から私なりに、NPOの活動を続ける3要素をまとめてみました。
(1)熱意
団体をつくった人、活動を続けていく人、新しく活動に加わる人など、そこに関わるたくさんの人々の熱意があってこそ、NPOの活動が成り立ちます。
(2)バックアップ
営利を目的としない団体ではありますが、人材、事務所、フィールド、活動資金、などなど必要なものはたくさんあります。
 そんなとき、例えば「響」にとっての明治神宮、シブヤ大学にとっての渋谷区のように、活動をバックアップしてくれる存在がとても大きな意味を持ちます。
(3)定着
専属職員は限られているため、ボランティアとして関わるスタッフが多数を占めます。ただ、ボランティアは自発的な活動のため、来るのも来ないのも自由。継続的に活動に参加してくれる保障はありません。活動に定着するボランティアスタッフがどれだけいるか、ということも活動継続の鍵になります。

<交流> 
始めにも書いたように、「響」とシブヤ大学は、共同での授業を何度か行っています。そこでの交流が、新しいものを生むきっかけになることもあります。例えば、どんぐり拾いの授業に参加した生徒さんがそれをきっかけに響活動に来てくれ、今度「響」が参加する予定のイベントに、「響」スタッフでも主力メンバーとして参加してくれるそうです。
世の中にはNPOはたくさんありますが、「響」とシブヤ大学のように、他の団体との交流によって活動の幅を広げたり深めたりしていくのは、いいな、と思いました。私も今後機会があれば、「響」の活動に参加してみたいと思います。


「街の先輩訪問」を終えて明治神宮会館の玄関から外を見ると、やっぱり雨。
そこにちょうど、明治神宮の職員の方が、車で通りかかりました。
井梅さんが挨拶すると、「原宿口まで車で送りますよ」とのありがたいお言葉。こういうところからも、井梅さんがこの明治神宮の中で信頼されて定着しているんだな、ということを感じられました。
井梅さん、お忙しい中貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。「NPO」というものについて、以前より少し、像が見えてきた気がします。今日教えていただいたことを、今後の活動に活かしていきたいと思います。