シブヤ大学

授業レポート

2016/4/8 UP

出汁をアバウトでとってみよう!
~お父さんと子供のだし体験~

「出汁をアバウトでとってみよう!~お父さんとこどものだし体験~」


 


並んで座るお父さんとこども。そこにお母さんの姿はありません。


おそらく自宅のリビングでもなかなか見られないであろう珍しい光景が、シブヤ大学の授業で起きています。


 


本日の授業は、


「出汁をアバウトでとってみよう!~お父さんとこどものだし体験~」です。


 


いつものシブヤ大学の授業では、20代~40代の男女が多く、こどもが参加する授業はあまりありません。ましてや、お父さんとこどもの組み合わせはかなり特殊。授業の受付をしていても、お父さんとこどもが連れ立ってやってくる不思議なシーンにすぐに参加者だとわかるほど。珍しい光景でした。


 


なぜ、お母さんではなく、お父さんとこどもでだし体験をするのか?


それは本日のまちの先生が「料理好きの会社員、大谷尚史さん」だからです。


 


シブヤ大学の授業は、授業コーディネーターと先生が二人三脚で作っています。


もともと料理好きだった大谷さんは、父親になったとき安産レシピや、離乳食を作っていました。それを聞いた授業コーディネーターは「父親だってそういうところに目を配ったほうがいいよね」と目からうろこが落ちることに気付きます。今まで父親の立場からそういったエピソードを聞いたこともなく、気にとめたこともありませんでしたが、女性がこどもを産んで母になり、改めて食べ物と向き合うように、男性もこどもと向き合いながら食育を考える。そんな授業を開いてみたいと思い、大谷さんとの授業が生まれました。


 


大谷さんにとっても今回が初めての授業。チャレンジの1日が始まりました。


 


まずは講師となる大谷さんの自己紹介。午前中にこどもの卒園式に出席し、午後からシブヤ大学の授業に参加。3月19日(土)はいくつかの幼稚園で卒園式があったようで、卒園式終りのお父さんが他にも参加されていて一気に場が和みます。大谷さんが「みなさんと同じ子を持つ父で、今日は同じ立場で一緒にやっていけたらと思っています」という挨拶に、先生と生徒の関係ではなく、今日の授業をともにつくっていこう!と雰囲気ができあがっていました。


 


次に生徒さんも自己紹介。お父さんの名前とお子さんの名前と年齢。参加したきっかけを話します。自分で名前が言えず、お父さんに促されて名前を発表する子や、恥ずかしそうにお父さんに抱きついている子もいます。



参加しようと思ったのは、「イクメンになろうと思った」や「奥さんにひとりの時間をあげたい」「家事分担しようと言われたので」などなど。中には「嫁に”行って来い!”と言われた」という方まで。理由はいろいろあれ、結果的にお母さんが不在の状態で、お子さんとふたり、2時間半授業に参加することになったみなさん。


エプロンをつけて、いざ!和食の基本、出汁をアバウトにとっていきます。


 


家庭料理はアバウトが大事!


 


今回はかつお節と、昆布で出汁を取ります。教室の中は、かつお節のいい香りが漂っています。まずは水に昆布をいれてしばらく放置。乾燥していた昆布が少しずつふやけてきました。火にかけて沸騰しそうになったら、次にかつお節を片手で手づかみし、鍋に入れ、火を止めます。そのまましばらく放置したのち、キッチンペーパーをかけたざるに出汁を入れてこしていきます。ざるから出てきた出汁は透き通っていて、いつも見ている出汁とは明らかに異なります。


 


昆布やかつお節の量は、水が500mlなら昆布は"5センチくらいの長さのもの"をひとかけ。かつお節も"5本の指でつかめる量"とかなりアバウト。いちいちはかりを出して量を測ったりなんて、面倒なのでしません(笑)。昆布は寝る前や、朝出かける前に水に浸しておくと出汁もしっかり出て時間短縮になってオススメ!


家庭料理はアバウトでも美味しく、かつ簡単であることが大切です。


 


だしの素との飲み比べ。一口飲んで感じるパンチ力の違い。


 


自分たちで取った出汁を早速試飲。かつお節の香りがふわっとするものの、パンチ力はやや弱い味。次に用意されていた、だしの素も一口。香りは弱いものの、だしの味をしっかり感じます。私は顆粒だしによくお世話になっているので、良く口にする味でした。


 


各自飲み比べをした後、全体で感想を共有します。


 


大人たちがだしの素も美味しいけれど、自分たちでとった出汁は簡単で、優しい味がして美味しいと発言する中、こどもたちはだしの素のほうが美味しい!との声が。


大人が少し遠慮して発言する中、こどもは本当に正直です。


どちらが良いということではなく、まずは味の違いを知ることが大切です。


 


ここから自分たちでとった出汁をもとに、さまざまな料理に変化させていきます。


 


出汁+●●+△△=美味しいお料理 に変化!


 


まずは、出汁+塩+お醤油で、すまし汁をいただきます。透き通った汁にお麩と三つ葉が浮かび、とても上品な一品です。お椀を顔に近づけると、出汁がふわっと香り、次に三つ葉の香りが続きます。一口飲んで「美味しいっ!」と歓声があがり、すぐにもう一口。


香りがよく、何度も顔を近づけたくなる美味しさです。先ほどとった出汁にほんの少し、塩とお醤油を加えるだけでかなり味が締ります。


パンチ力はないけれど、心地よい味。だしの素では味が強すぎでお椀一杯を飲みきることは難しい気がしました。


 


次に、出汁+お醤油+みりんで味付けされた、菜の花のおひたしをいただきます。


こちらも口に運ぶ際に、出汁の香りを感じます。口に入れると菜の花の苦みをまろやかな出汁が包みこみ、みりんの甘さでこどもたちでも食べやすい味になっています。


菜の花は大人の食べ物だと思っていましたが、おかわりを希望する子もいて、みんなでとった出汁は大活躍です。


 


そして最後に、みたらし団子が登場!一口サイズのみたらしは、たれに出汁を使用していて甘すぎずとても食べやすい味付けです。みたらし団子嫌いのこどももぺろりと平らげて、おかわりに並んでいます。


 


出汁料理を食べた後の感想の共有タイムでは、「美味しかった!」「こどもは正直なので美味しくないと本当に食べない。どのお料理もぺろりと大らげていたので、本当に美味しかったんだと思います」と、簡単にアバウトにとった出汁がいろいろな料理に変化していくのを楽しみました。


食べ物から感じる土地の文化


 


出汁を飲んでいた際、大谷さんが言った言葉。


「大阪は喰い味なんです。食べ終わって最後に味が完成する」


だしの素はパンチ力はあるけれど、食べていくと味が強すぎて飽きてしまう。


一方、自分でとった出汁は、はじめ薄いかな?と感じるくらいが食べ進めていくうちに、ちょうど良くなり食べ終わるときに「ちょうどよい味付けだった!」と感じる。


大阪出身の大谷さんにとっては、当たり前の言葉でしたが、関東出身の私は初めて耳にした言葉でした。一口目で美味しい!と思わせるパンチ力が飲食業界では求められやすく、大阪のような喰い味の店は少ないそうです。


 


しかし、同じ関西でも京都は素材の味を活かした薄味の料理が基本とのこと。


「京の持ち味、大阪の喰い味」は関西の料理界に古くから伝わる言い回しです。


素材の持ち味に逆らわないように、素材の「持ち味」を活かすように最小限の味つけにしあげる京料理に対して、食べる人の味覚に合わせて各人が美味しいと感じる味付けに仕上げるのが大阪料理だという意味。


 


こんなにも近いエリアで味付けが変わることも興味深く感じましたが、「京都の人はコッテコテの背油ラーメンを好んで食べる」とTVで観たばかりの私は、薄味好きなのに、そこは醤油ラーメンではなく、背油ラーメンを食べるんだ!と心の中でつっこんでいました。


 


その土地で根付いたものが文化になって、今日まで受け継がれていると思うと、食べ物のもつ奥深さを感じます。大阪の喰い味を知って、一口食べてすぐに調理料を足すのはやめようと思いました。


 


大阪だけでなく、他の土地でもそれぞれの文化があり、その土地の当たり前があると思うと、いろんな土地の当たり前を体験したくなりました。いろいろな人がいて、いろいろな味がある。なにが正解ではなく、どれも素敵。違いがあるから発見があって、共有する喜びがある。


 


お父さんとこどもが笑顔で教室を出ていく姿を見ながら、食育だけでなく、人々の暮らしを考えるきっかけになったら素敵だなと思いました。

(レポート:伊藤扶美子 写真:田中健太)