シブヤ大学

授業レポート

2016/5/2 UP

地元をなんとかしたいけど、何からはじめればいいか解らない時のヒント
〜熱海の地域づくりの事例から〜


今回のthink collegeは株式会社machimori代表取締役 / NPO法人atamista代表理事の市来 広一郎さんを先生に迎え、開催されました。

○熱海にUターン


数十年前、東洋のナポリと呼ばれた熱海は、昭和40年代に起きた伊豆地方の群発地震から、徐々に訪れる人が減り、そこから熱海の町は寂れていってしまいました。
熱海に多く存在していた企業の保養所も市来さんが幼いころは600以上あったものの高校生の頃には150にまで減ってしまい、その時には熱海を「どうにかしたい!」と思うようになったといいます。


そして社会人となって今から9年前、熱海のことを考えていると仕事が手につかなくなってしまって2007年、ついに熱海にUターン。

○熱海をつかって社会を変えたい!
そんな市来さんの『100年後も豊かな暮らしができるまちをつくる』というテーマの起源は、数年前にインドを訪れたことにあるそう。インドでイキイキと生活し、パワー溢れる人たちに出会い、日本に帰ってきたときに「日本人の目が死んでる・・・?」ということに衝撃を受けたそうです。


東京の《都会・満員電車・ストレスフル》
熱海の《廃墟なってしまった街・疲弊しきった街》

それらを目の当たりにして日本を変えたい!そのためにはまずは地方を変えなければ!と市来さんは考えました。○お客さんよりも、まずは熱海のファンを増やす


Uターンして感じたことは熱海の人たちは楽しく暮らしているが、かなり地元についてネガティブな思いが多かったということ。たとえば、観光客の人たちが「熱海でどこか良いところがないか」と聞かれても「何もない」と答える人も少なくなかったようです。
その理由としてそこに住む人たちが熱海について知らなかったことがあると市来さんは言います。

そこでまずは熱海の人たちが熱海のことを知ることが必要と考え、熱海の人たち向けの地元体験ツアーを企画。これが、地域資源を活用した体験交流ツアーを集めた「熱海温泉玉手箱(オンたま)」です。これまで73種類のツアーを開催し、参加する人と地元の人をつなげる役割を果たしています。このツアーを行ったことで


・ツアー参加者が自主的にガイドをしてくれるようになった
・ツアーで行ったお店を利用することになった
・地元の人たちの地元に対してのイメージが「オンたま」に参加することで変わってきた
・観光客が増えた
・地元の人たちが自分から地元のために何かをやってくれる人たちが増えた

という変化にあったそうです。

そしてもう一つ、Uターンの前から熱海のことを書き始めた「アタミナビ(現在はサイトがありません)」というブログがありました。
Uターン後も面白い人がいれば、直接話を聞きに行ってブログに掲載していたもので、そのブログを書いているうちに、熱海には面白い人たちがたくさんいて町には歴史があって面白いということを再認識し、熱海が違って見えるようになったそうです。
そうして市来さんは、熱海のお客さんよりも、まずはたくさんの熱海の町のファンを増やしていくことに取り組んでいきました。

○町の使い道を変える
次に市来さんが取り組んだことは、リノベーションまちづくり。これは空き物件に新しいコンテンツを入れていくということ。当時、熱海には昭和から時間が止まったままのエリア、シャッター街となった商店街があり、リノベーションのための資源はとても豊富だったものの、熱海の物件はとても広く、家賃もとても高かったので大家さんに人伝でお願いしてもらって値段交渉もしたそうです。

そして、リノベーションの過程で罹ってしまったもの・・それは「補助金の病」

この病に罹るとなってしまいがちなのは、気を配る意識が「人」から「行政」にかわってしまうこと。実際に補助金を受けるための条件を実践しても町はなかなか良くはならないことを実感したそうです。
この「補助金の病」から抜け出すために、まちづくりも経営の時代、経営という感覚でまちづくりを行う株式会社を設立。補助金ではなく民間のお金を使うということでその使い方もさらに工夫するようになったとのこと・・

◎リノベーション第1弾
『3年間空家だった物件をCAFÉ RoCAとしてリノベーション!』

開業資金は300万円。お店の備品はいろんなところから集めたり、集まってきたり・・。商売をやったことで町の人たちと同じ目線に立てたと初めて感じたそう。
そして、その商店街でマルシェを開催。これはイベントの集客が目的ではなく、いずれは熱海で同じようなことをやってくれる人たちを見つけるという意味があった。

ここまでは地元の人たちに向けたもの→次は外の人たちに向けて

◎リノベーション第2弾
『10年間空家だったパチンコ店跡の広いスペースをゲストハウスにリノベーション!』
この頃、移住する人たちも増えてきたこともあり、熱海に来た人たちがまちを楽しむ宿がない!ということでゲストハウスを作ることに!泊まってくれた人にはまちとの接点を作ってもらうために夜にみんなでお酒を飲みに行ったり・・というイベントのようなものも行っている。

○2030年「熱海 独立」?
こうして熱海は「観光と移住のあいだの多様な暮らし方」ができる町に変わりつつあります。
そして、リノベーション第3弾の始動(『朝ビル』を仕事づくりの拠点に)、移住したい人のためにリーズナブルな物件の見学会を開くなど、まだまだ新しい取り組みは広がっていきます。
人とのつながりとまちへの愛着が100年後も豊かな暮らしができるまちをつくるという市来さんの次なる密かな目標は「2030年熱海独立。」

これからどんな町になっていくのか、とても楽しみです!
みなさんも変わり続ける熱海を訪れてみては?