シブヤ大学

授業レポート

2013/2/26 UP

最小限の材料で作られるからこそ、作り手によって趣が異なる奥深きバゲットの世界!

天気の良い(でも風が強い!)土曜のお昼、期待と腹ペコのお腹を持ち合わせた22名が集まりました。教室のテーブルには、A~Eまで番号付けされた5種のバケットが既に用意されており、期待感が上がるとともに各々に異なる見た目にわくわくしつつ、授業の始まりを待ちました。

今回の講師は2名。バゲットが大好き、バゲットの魅力とおいしさを伝えるべく「バゲットライフ」を主宰、『硬いパンを食べる会』を定期的に開催されたりもしている平岩さん。バゲットが好き!というバゲット愛は、他のパンには興味無し!という偏愛とも呼べます!

そしてもう1名は、元 パン技術研究所 研究員の田中さん。パン全般における、いわゆるパンの先生です。バゲット愛とパン知識、二つのバランスが取られた絶妙に温かい雰囲気で授業は行われました。授業は、バゲットを知り楽しむことが基本で、5種を食べ比べながら、個人個人で評価(評価は個人の好みに基づき、正解があるものではありません)をしマイベストを見つけるとともに、最後に生徒全員の評価をまとめて傾向を見てみよう、という流れで進みました。

●「クープの耳の立ち上がりが香ばしいよね」

講師陣の自己紹介ののち、授業はまずバゲットについて簡単な解説から。
バゲットの部位の呼び名、クラスト、クラム、クープ‥
クラストとは、外側のパリパリの生地のこと。反対にクラムとは、中の部分。ツヤや色味や気泡など、クラムにも見るべき特徴がいろいろ。そしてクープとはバゲットの表面に入った切れ目のこと。ちなみに切れ目のフチの部分を「耳」と呼ぶそうです。
「クープの耳が~、クラムのツヤが~、とか言えると『ツウ』だよ!」
「クープの耳で口の中を切らないようにするには、クープがある方を下にして食べるといいよ」
「クープを下にして食べると、バゲットの裏側の香ばしさを楽しめるんだよね」
という次の日から使ってみたいワードやウンチクがたくさん!

●ルックスから全然違う

さっそく食べ比べ利きバゲットに。今回授業に用意された5種のバゲットは平岩さんが「違いが分かりやすいように特徴的なものをセレクト」されたとのこと。まずは見た目の評価を。
おそらく多くの人が「フランスパンといえば」と言って思い浮かべるイメージを、裏切っているようなものは無いのですがバゲット自体の細さや、クラストの焼き色や、クープの数や大きさの違いで印象がかなり異なります。
クープを引き立たせるためクラストに小麦粉がふってあって表面が白っぽく見えたりするものもあり、5つを並べて見ることで、こんなに違うんだという発見がありました。(とはいえ、BとEは似ていましたね;写真参照)見た目の評価には、手触りや重さ、ちょっと押したときのクラストの音なども基準に加えます。今まで思ったこともないようなポイントをあらためて見てみることで、自分の好みを逆に発見し易くなります。
「フランスのパン屋では、その日の焼き上がりを見てもらうために、シェフがクラストを指で押して、そのパリっという音をお客さんに聴かせることもあるんですよ」

●切ってみる

当日用意された5種類のバゲットは、平岩さんの手配によって各店舗にその日の朝に焼きあげてもらったもの、というこだわり。切ってみる感覚を味わってもらいたいという趣旨もあり、各テーブルでバゲットを生徒さんたち自らがカット。
バゲットらしいシンプルな香ばしい香りが漂います。食感を楽しむために、1本(約40~50cmくらい)は最大でも5等分(小さくし過ぎてしまうと味わいもかわってしまうので)。クラムの気泡・密度などの見た目の違いももちろん、酸味や香ばしさなどの香りの違いも確認します。
「こねる量によって気泡(ふんわり度)が変わりますし、酵母によっても香りが違います」

●まずはそのまま食べてみる

そしてようやく試食です!味、香り、食感を確認すべくバゲットにかぶりつき真剣に試食。
「・・カニを食べているときのようにこの場面は静かになっちゃうんだよ~!」という平岩さんのコメントに笑いも。ここでも各バゲットに評価を書き込みます。
「食パンは中を食べるもの、バゲットは外(クラスト)を食べるもの、とも言われます」
「そういう意味で、バゲットの両端(クラストが多くなる部分)は、家庭ではお父さん、パーティではゲストに、という慣習もあります。硬いパン好きには端っこはたまりませんよね」

●バター、オリーブオイルで食べてみる

そして、次にバター、オリーブオイル、それぞれをつけてみての試食。ここでも真剣に食べ比べ。はたして、そのまま食べた時と評価は変わるのでしょうか??
締めに、マイベスト3とベスト1を書き込んで評価は終了です。


●いろんな付け合わせで食べてみる

一通りの評価を終えた後は、講師お二人が用意してくださった付け合わせでさらなるおいしさを楽しみます!
今回用意された付け合わせ具材は上記の他に、
ツナマヨ(オニオン入り)/タマゴペースト(マヨ・塩コショウ)/ハム(プレーンとピスタチオ・チーズ・パプリカ入りの2種)/レタス/トマト/カマンベールチーズ/クリームチーズ/ボイルしたエビ/カプナード(オリーブとアンチョビのペースト)/レバーペースト/ピクルス/粒マスタード‥‥以上、とてもリッチです!

おいしさ探検!とでも言えるような喜々とした雰囲気の中、それぞれのバゲットに具材を載せたり挟んだりしていただきます。
「ツナタマ(ツナとタマゴの組み合わせ)がお勧めです!」とは平岩さん。「やっぱりオリーブオイルで。いくつでも食べられちゃいます」とは田中さん。
「バゲットはオーブンで1~2分、温め直すとまた味わい・香ばしさが違っておいしいですよ!」このことを『リベイク』と言えるとこれまたツウとのこと。

●タネ明かし=作り手のこだわり

楽しくおいしい試食が続く中で、今回のA~Eのバゲットについて、店舗や材料のタネ明かしとシェフの解説がされました。

バゲットは、「小麦粉、水、塩、酵母」というパンを作るための最小限の材料から作られます。そのため、材料の産地や種類、製法、酵母の違い、成型時の太さの違いなど、様々な細かい差異によって出来上がりの違いが生まれます。まさに化学です。そしてミニマムな材料からそれぞれの化学でおいしい違いを生みだしているのが、シェフのこだわりです。
たとえば製法で言えばオーバーナイト、液ダネ法、老麺法など・・同じバゲットとは言えいろいろ違うのだというのを改めて学びました。

お店に通ってシェフとお知り合いになり、直接お話しをされている平岩さんだからこそのエピソードが多く、職人気質なシェフのお話にはここでも笑いが。
また、シェフ何人かに共通されていたキーワードに「子供」というのがあり、興味深かったので取り上げてみます。「子供だからってバゲットの硬さやシンプルなおいしさを楽しめないわけではない」「子供の意見は大切にしている。なぜなら大人は見た目から入ってくる。だから見た目が変わらなければ安心して気付けないけど、子供は見た目やブランドの先入観が無いから、大人が気付けない細かい味の変化にも気が付く。」というようなお話です。
そういう意味で、バゲットそのものを、お店のブランドや、価格の先入観なく味わい楽しめた今回の授業は、非常に貴重でした。とは言え、この利きバゲットの会、自分が主催してみても面白いですよね。

●作り手によって、趣が異なるのを楽しんでほしい

平岩さんも「いろいろ試してみて、お気に入りを見つけて楽しんでもらえれば。そしておいしさ・楽しさを皆さんの周りの人にも広めてシェアしてもらえればうれしい」とおっしゃっていました。バゲット愛ですね!

●そのままのおいしさと、オリーブオイルをつけてのおいしさの評価は、違う!?

ちなみに、生徒全員の評価(好み)結果は非常に興味深いものでした。好みなので分散はしましたが、ある程度傾向は見て取れました。特におもしろかったのが「バゲットそのまま」の評価の分布と、「オリーブオイルやバターをつけて」の評価の分布が見事に反転したように違うことでした。「そうですか~!おもしろいですね、こういう結果が見られてうれしいですね!」と平岩さんもニコニコしながらご覧になっていました。そのまま食べるときとそうでないときは、バゲットそのものに対する評価が変わってくるんですね!何がそうさせるのか…まで探るとさらに面白いかもしれません。奥深き、バゲット!!!

●今回、平岩さんがセレクトしたバゲットのお店は以下です。

・VIRON(ヴィロン)
・SAWAMURA(サワムラ)
・nemo Bakery&Cafe(ネモ)
・La Sason(ラ・セゾン)
・La TERRE(ラ・テール)

(ボランティアスタッフ:岩渕美香)