授業レポート
2013/2/21 UP
人の価値観を変えるデザイン
「あなたは「車椅子」にどんなイメージがありますか?」
こんな問いから今回の授業は始まりました。講師は、モビリティデザイナーの磯村歩さん。
「車椅子」と聞くと、ポジティブな印象をもつ人は少ないのではないでしょうか。では、もっとデザインが多様だったらどうでしょう?「かっこいい」と思わせるようなデザイン、「使いやすそう」と感じるようなデザイン、そんなデザインだったら、車椅子もポジティブな印象に変わるのではないでしょうか。福祉用品がファッションのようなものだったら、わたしたちの生活はどんなふうにかわると思いますか?
授業は、磯村さんがデンマークで見たパーソナルモビリティを使う光景、そしてそのことが価値観を大きく変えたという経験から、デンマークでのパーソナルモビリティの潮流、そして日本の今後の課題という流れで授業が進んでいきました。
【デンマークでは、気軽にパーソナルモビリティが使われている】
デンマークでは、日本のように要支援者のみならず、お年寄りがショッピングモールなどの広いスペースでの歩行が少しつらいなと思うくらいでもパーソナルモビリティが使われています。また、種類も多くあります。
デンマークでの、パーソナルモビリティの潮流として、大きくポイントが6つあります。
1.走破性
いかに悪路を走れるか。考え方としてはマウンテンバイクの電動車椅子版。中には、水場や雪原を走れるものも。
2.スポーツ用途
あらゆる人々がスポーツを楽しめるか。例えば「立つ」ということが可能な車椅子だと、体位変換も軽くできるのでゴルフも楽しめます。また、セグウェイで有名になったバランシングテクノロジーを活かして、まるで歩くように動けるモビリティも実現しています。
3.コネクティビティ
車椅子での移動の際、車椅子を使う都市までの接続性を考慮されているか。そのため、軽いものや折り畳めるものなどモバイル性を考慮していたり、車椅子がそのまま運転席に収まるような車も商品化されています。
4.同行者対応
車椅子移動を手助けする同行者への配慮があるか。たとえば、同行者も同乗できる設計だったり、お年寄りでも力をかけずに押すことができるように電動アシストがついていたり。
5.プラットフォーム化
汎用性を上げることでのコストダウン。基幹構造が同じものにオプション付加やパーツ交換で用途を変えられるのもあります。例えば、動力を足漕ぎから手漕ぎに変えたり、方向操作をハンドルから体重移動に変更できたりと、ベースは同様のモビリティでも様々なケースに対応可能です。
6.デザイン性
「乗ってみたいな」と思わせるようなスタイリッシュなデザイン。モビリティそのもののデザイン性にとどまらず、PRの仕方によっても印象を変えることができます。
【これからの日本の課題】
日本でパーソナルモビリティが普及するためのアプローチとしては、例えば自転車と車椅子の間くらいに位置する「健常者と要支援者の両方が使いたいと感じるゾーン」を新たな市場と定め、例えばスポーツ用などの特殊用途のものや、超小型/折り畳みによるモバイル性のもので市場を拡げていく。あわせて、社会保障を充実させつつ、公共交通の環境整備を進めていくことが考えられます。
また、地域との連携も重要なトピックで、例えばイギリスにて地域活性を図ろうと、地域のNPOが、お年寄りたちをショッピングモールまでお連れしたら、お年寄りのお孫さん達も合流して、商業施設内での滞留時間が3倍&売上6倍近くになった事例もあるそうです。
なお、日本の中国地方のある商業施設で、パーソナルモビリティをレンタルできるようにして、お年寄りにお買い物のときに使ってもらうというサービスを実施した事例もあり、その際は、商業施設までの"足"が充分に準備できなかったこと、またお年寄りがパーソナルモビリティを使っていると「おじいちゃん、大丈夫?」と心配され、それに強がって使わないお年寄りが多かったことで、あまりうまくいかなかったそうです。
このエピソードの特に後半は、非常に示唆に富んでいて、磯村さんのおっしゃる「福祉用具のデザインにおいてスティグマ(不名誉)を感じさせないことが大事」を端的に表しているなあと感じました。「カッコいい/カッコわるい」は、「使う/使わない」につながり、ひいては「外出する/しない」につながる。だから、むしろ福祉用具のデザインにこそ、感性的に響くものづくりが大切だ、と。
また、授業の最後には、磯村さんが「自分がシニアになった時に乗りたいと思える"カッコいい"電動カートが欲しい」とデザインされた"gp1"もご紹介いただきました。こちらは現在、製品化へ向けて次の一歩の試作を進めるために、以下のWebサイトにてクラウドファンディング(資金集め)中です。
http://camp-fire.jp/projects/view/548
今回の授業を通して、技術やデザインでハンディキャップを克服する事ができ、また日常の風景に多くの福祉用品がとけ込むことによって、「スティグマ」が払拭されていくのかなと思いました。人の心から問題を解決していく事は実は難しいことで、環境が変化することで我々の価値観が変化することの方が多い気がします。そう考えると安全性に加えたデザイン性は重要だなと感じました。もちろん、それだけで問題は解決されるとは言えずパーソナルモビリティが普及する社会作りというのも同時にやって行かなければならないと思いました。
また、磯村さんが、「日本では歩けるなら、歩こうだけど、欧州では使える道具は使おうなんですよ」という言葉が印象的でした。ある日の家族での会話の中で、祖父が「京都の〜に行きたい」と言ったところ、母が「そんなにいっぱい歩くところはちょっと厳しいんじゃないの?」という言葉を思い出しました。祖父は車椅子を使うほど歩行が困難ではないのですが、90歳ということもあり長時間歩くことや、坂道を歩くことは辛いようです。でも、パーソナルモビリティがあれば、そこは克服できることだなぁと思いました。頼れる技術に頼らないで、家の中に引きこもっているのはもったいないし、きっとそれじゃ生活は楽しくないですよね。日々の生活がもっと楽しくなるような道具が広まったらいいなと思いました。
磯村さん、素敵な授業をありがとうございました!
※授業で使われた資料・動画を、磯村さんが以下に掲載してくれています。
http://isoamu.exblog.jp/18670072/
(シブヤ大学インターン:一藤 英恵)
こんな問いから今回の授業は始まりました。講師は、モビリティデザイナーの磯村歩さん。
「車椅子」と聞くと、ポジティブな印象をもつ人は少ないのではないでしょうか。では、もっとデザインが多様だったらどうでしょう?「かっこいい」と思わせるようなデザイン、「使いやすそう」と感じるようなデザイン、そんなデザインだったら、車椅子もポジティブな印象に変わるのではないでしょうか。福祉用品がファッションのようなものだったら、わたしたちの生活はどんなふうにかわると思いますか?
授業は、磯村さんがデンマークで見たパーソナルモビリティを使う光景、そしてそのことが価値観を大きく変えたという経験から、デンマークでのパーソナルモビリティの潮流、そして日本の今後の課題という流れで授業が進んでいきました。
【デンマークでは、気軽にパーソナルモビリティが使われている】
デンマークでは、日本のように要支援者のみならず、お年寄りがショッピングモールなどの広いスペースでの歩行が少しつらいなと思うくらいでもパーソナルモビリティが使われています。また、種類も多くあります。
デンマークでの、パーソナルモビリティの潮流として、大きくポイントが6つあります。
1.走破性
いかに悪路を走れるか。考え方としてはマウンテンバイクの電動車椅子版。中には、水場や雪原を走れるものも。
2.スポーツ用途
あらゆる人々がスポーツを楽しめるか。例えば「立つ」ということが可能な車椅子だと、体位変換も軽くできるのでゴルフも楽しめます。また、セグウェイで有名になったバランシングテクノロジーを活かして、まるで歩くように動けるモビリティも実現しています。
3.コネクティビティ
車椅子での移動の際、車椅子を使う都市までの接続性を考慮されているか。そのため、軽いものや折り畳めるものなどモバイル性を考慮していたり、車椅子がそのまま運転席に収まるような車も商品化されています。
4.同行者対応
車椅子移動を手助けする同行者への配慮があるか。たとえば、同行者も同乗できる設計だったり、お年寄りでも力をかけずに押すことができるように電動アシストがついていたり。
5.プラットフォーム化
汎用性を上げることでのコストダウン。基幹構造が同じものにオプション付加やパーツ交換で用途を変えられるのもあります。例えば、動力を足漕ぎから手漕ぎに変えたり、方向操作をハンドルから体重移動に変更できたりと、ベースは同様のモビリティでも様々なケースに対応可能です。
6.デザイン性
「乗ってみたいな」と思わせるようなスタイリッシュなデザイン。モビリティそのもののデザイン性にとどまらず、PRの仕方によっても印象を変えることができます。
【これからの日本の課題】
日本でパーソナルモビリティが普及するためのアプローチとしては、例えば自転車と車椅子の間くらいに位置する「健常者と要支援者の両方が使いたいと感じるゾーン」を新たな市場と定め、例えばスポーツ用などの特殊用途のものや、超小型/折り畳みによるモバイル性のもので市場を拡げていく。あわせて、社会保障を充実させつつ、公共交通の環境整備を進めていくことが考えられます。
また、地域との連携も重要なトピックで、例えばイギリスにて地域活性を図ろうと、地域のNPOが、お年寄りたちをショッピングモールまでお連れしたら、お年寄りのお孫さん達も合流して、商業施設内での滞留時間が3倍&売上6倍近くになった事例もあるそうです。
なお、日本の中国地方のある商業施設で、パーソナルモビリティをレンタルできるようにして、お年寄りにお買い物のときに使ってもらうというサービスを実施した事例もあり、その際は、商業施設までの"足"が充分に準備できなかったこと、またお年寄りがパーソナルモビリティを使っていると「おじいちゃん、大丈夫?」と心配され、それに強がって使わないお年寄りが多かったことで、あまりうまくいかなかったそうです。
このエピソードの特に後半は、非常に示唆に富んでいて、磯村さんのおっしゃる「福祉用具のデザインにおいてスティグマ(不名誉)を感じさせないことが大事」を端的に表しているなあと感じました。「カッコいい/カッコわるい」は、「使う/使わない」につながり、ひいては「外出する/しない」につながる。だから、むしろ福祉用具のデザインにこそ、感性的に響くものづくりが大切だ、と。
また、授業の最後には、磯村さんが「自分がシニアになった時に乗りたいと思える"カッコいい"電動カートが欲しい」とデザインされた"gp1"もご紹介いただきました。こちらは現在、製品化へ向けて次の一歩の試作を進めるために、以下のWebサイトにてクラウドファンディング(資金集め)中です。
http://camp-fire.jp/projects/view/548
今回の授業を通して、技術やデザインでハンディキャップを克服する事ができ、また日常の風景に多くの福祉用品がとけ込むことによって、「スティグマ」が払拭されていくのかなと思いました。人の心から問題を解決していく事は実は難しいことで、環境が変化することで我々の価値観が変化することの方が多い気がします。そう考えると安全性に加えたデザイン性は重要だなと感じました。もちろん、それだけで問題は解決されるとは言えずパーソナルモビリティが普及する社会作りというのも同時にやって行かなければならないと思いました。
また、磯村さんが、「日本では歩けるなら、歩こうだけど、欧州では使える道具は使おうなんですよ」という言葉が印象的でした。ある日の家族での会話の中で、祖父が「京都の〜に行きたい」と言ったところ、母が「そんなにいっぱい歩くところはちょっと厳しいんじゃないの?」という言葉を思い出しました。祖父は車椅子を使うほど歩行が困難ではないのですが、90歳ということもあり長時間歩くことや、坂道を歩くことは辛いようです。でも、パーソナルモビリティがあれば、そこは克服できることだなぁと思いました。頼れる技術に頼らないで、家の中に引きこもっているのはもったいないし、きっとそれじゃ生活は楽しくないですよね。日々の生活がもっと楽しくなるような道具が広まったらいいなと思いました。
磯村さん、素敵な授業をありがとうございました!
※授業で使われた資料・動画を、磯村さんが以下に掲載してくれています。
http://isoamu.exblog.jp/18670072/
(シブヤ大学インターン:一藤 英恵)