シブヤ大学

授業レポート

2011/2/16 UP

プロボノという働き方~プロボノワークの経験者から話を聞いてみよう~



はじめに

こんなことを言うと、誤解を招くかもしれませんが、プロボノの授業をやることに、当初は少し躊躇していました。正確にいうと、プロボノに対する伝え方の中に、違和感がありました。それは、プロボノでは活き活きと活動して、普段の仕事では鬱屈としている印象でした。

しかし、実際にプロボノ活動をしている人に会って、話を聞いてその印象が変わりました。変わったのは、プロボノを通じて、活き活きとした働き方、生き方を実践している人がたしかにそこにいる、ということです。
そこで、プロボノを通じて、活き活きとした働き方、生き方を実践している人の話を他の人にも聞いてもらいたいと思い、「プロボノという働き方」の授業を行うことに決めました。



プロボノという働き方~嵯峨さんからのお話~

経験者の話を聞く前に、プロボノについての参加者の前提を一旦整理したかったので、一般的な話として、プロボノという働き方について語れる、サービスグラントの嵯峨生馬さんにお話してもらいました。

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プロボノとは、正式にはラテン語のプロボノプブリコ(Pro Bono Publico)に由来する言葉で、日本語に訳すと、プロ=~のために、ボノ=善いこと、プブリコ=公共。あわせると、公共善のために。
「社会的・公共的な目的のために職業上のスキルを生かすボランティア活動のこと」

そして、内閣府「国民生活選好度調査」、内閣府「社会生活基本調査」のデータを用いて、60.8%の方がボランティアには興味があるけれども、26.2%の方しか現状はボランティア活動を行っていない。プロボノは、一見高度なスキルを要求する難しいボランティアと思われがちだが、自分が日ごろ仕事でやっていることを活かせばいいという点において、参加しやすいボランティアかもしれない。しばしば、ボランティアについて「できることから始めよう」という掛け声を聞く。これはもちろん正しいが、ここでいう「できること」の中には、「誰にでもできる簡単なこと」という意味と「あなたができる特別なこと」という意味の両方があっていいと思う。ボランティアには今以上にもっと多様な参加のスタイルがあったほうがいい。プロボノはその多様なボランティアのしかたの一つになると思う。

その後はサービスグラントさんの紹介、事例、参加者の声など。
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嵯峨さんのお話は、以降の経験者と比べると実体験というよりも一般的なことを話していただいたので、より固めな印象になってしまうかと想定していましたが、当日、嵯峨さんのお子様も一緒にいらしていて、とても場の雰囲気が和みました。ありがとうございました、嵯峨さん。



プロボノ経験者のお話~石塚さんの場合~

石塚さんは、IBMのプロボノプログラムで、2010年からシブヤ大学にプロボノとして関わっています。大変お世話になっています。
自分も途中からではありますがIBMさんとの打ち合わせには参加しているのですが、はじめにの章で書いた、活き活きとした働き方、生き方をしていると感じた人とは石塚さんのことです。

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元々個人でもプロボノ活動をしていたが、会社としてプロボノプログラムを実施することになり、その初期メンバーとして、参加。2010年2月からプロジェクトのパイロット版として、シブヤ大学に関わるようになりました。

プロボノの内容は、本業のコンサルティングスキルを活かした活動です。
取り組み課題を明確化し、施策を立案、施策の実行の支援を行います。シブヤ大学さんとは財務基盤強化の課題に取り組み、企業との連携強化施策と個人サポーターの強化策を立案し、実行に向けての支援をしています。

今回社内のプロボノプログラムを行ったことで、3つの変化があったと思っています。一つ目は社長賞をいただいたことで、プロボノ活動自体の認知度が向上し上司や同僚の理解を得やすくなったことです。二つ目は、自らのスキルの向上です。普段の仕事ではひとつのプロジェクトの中のある一部分を自分の範囲として取り組んでいますが、今回のプロボノではプロジェクト全体を考えるプロジェクトマネージャーの役割を経験することができたため、普段の仕事では味わえない面白さを経験できました。最後の変化は、自分の興味の幅が広がったことです。シブヤ大学さんと一緒に活動することで「地域コミュニティ」「生涯学習」といった分野へ興味を持つようになりました。
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IBMは会社としてプロボノを推進しているとはいえ、まだまだ関わっているのは一部の方のお話。こうして、少しずつ、他の社員の方々に浸透し、理解し、ときに支えが必要になったりもするのでしょう。自分にも、ぐっとくる言葉でした。



プロボノ経験者のお話~小川さんの場合~

小川さんとは、プロボノの授業を行うことが決まってから、人の紹介で会いました。
最近プロボノを始めました、という方ではなく、プロボノという言葉が流通する前から、取り組んでいる方の話を聞いてみたかったので、お願いしました。

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経緯は、運命の1冊『マイクロソフトでは出会えなかった天職』の出会いです。
就職活動時期、マスコミ志望から、一転、総合電機メーカーへ入社しました。入社当時の憧れは、二足の草鞋で、たとえば、新井満さんや小椋佳さんなど。仕事を始めて、順調な出世をしましたが、一転、左遷・降格人事などで、絶望状態になりました。
現状の、そしてこれからの仕事や働き方について、いろいろと疑問がわいたり、家族、子どもとの生活を重要視していきたいなど、考え方が変わってきました。そのようななかで、運命の1冊『マイクロソフトでは出会えなかった天職』に出会いました。
Room to Read(以降、RtR)を選んだ理由は、「子どもの教育が世界を変える」という理念への共感です。また、数値目標の設定と達成度評価や低コスト運営、迅速な事業スピードなどビジネスモデルへの共感もありました。

RtRでのプロボノの内容は、企業パートナー開発委員会を牽引したり、企業とのアライアンスを推進、イベントの企画、運営、セミナーでの講演などです。具体的には、銀座松屋とのクリスマスチャリティバッジや社会貢献婚活イベントなどを実施しました。また、番外編として、学校を寄付しました。これには家族もとても喜んでいました。

プロボノを経験した感想は、充実感や多幸感、豊かな人生を送れています。新しい出会い、モチベーションアップ、スキルアップ、楽しさといった個人の充足から、本業への好影響などもありました。
また、アラン・マッコーネル教授が提唱する「いくつかの多面的自己を持っていた方が身体的にも健康で毎日を楽しく過ごすことができる。鬱にもなりにくい」などの事例も紹介。
最後に、「みなさん、プロボノを始めましょう!」
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小川さん、ありがとうございました。
個人の成長、幸福はもちろんのこと、本業へも好影響がでているというお話が聞けて、とても安心しました。小川さんのようないわゆる大企業と呼ばれる会社で働いている方もプロボノが普通のこととして、生活に入ってこれるようになる、素敵なことだと思います。


プロボノ経験者のお話~日高さんの場合~

日高さんとは、サービスグラントさんを通じて紹介していただき、今回の授業にいたる。
打ち合わせのときから、あまりプロボノによって何か変化したことについて聞けなかった。
ただ、日高さんの働き方や生き方について、触れることができました。

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きっかけは、「おもしろそう」。ただ、それだけ。
最初は、会社のチーム内で独自にNPOにコンタクトをとって仕事にしたりしていたのですが、あまりカタチにはならず、そんなときに同僚が、サービスグラントっていうのがあるよ。と教えてくれたので、入ってみることにしました。

わたしが関わったプロジェクトは、「日本アレルギー友の会」という団体のウェブサイトをリニューアルするというもの。正直なところ、最初は、医療系かあ、難しそうだなあ。という印象でした。
ウェブサイトのリニューアルというのが、今回の目的だったのですが、私自身は、主に紙媒体の広告コピーを書くという仕事をしているコピーライターなので、ウェブ制作の経験がほとんどありませんでした。
そんなこんなで、ウェブに関しては、まったく初心者なわけでしたが、コピーを書くのは本職なので、まあ、ちょっとは慣れています。
じんときた。なんて言われたりしました。直接こういう言葉を聞けるって、やっぱりうれしいなあと思います。余談ですが、そういえば、テレビにでたりしました。

そしてまた、ふつうの日々。
プロボノをやってみて、何か自分が変わったかなあ?と考えてみたのですが。新しい経験をしたので、その分得たものはいろいろあると思うんですけど。プロボノで人生変わりました!みたいなそういうものじゃないなあと思いました。仕事は仕事、趣味は趣味、プロボノはプロボノ。仕事での不満をプロボノで解消とか、プロボノが趣味になるとか、そういうことではないかんじがします。
別にここで、プロボノの勧誘をしろなんて頼まれてないんですけど。ここに来ているみなさんは、きっとプロボノに関心があるんだろうなあと思うので。もし、やってみようか迷っている人がいたら、やってみたらいいと思います。
と、人にすすめてみたところで。もし、またプロジェクトに参加しないか?と声がかかったら、わたしはやるかなあと。。どうでしょう?実際問題、けっこうハードな時期もあったりしたので。あれがもう一回あると大変だなあ。と思ったりもするのですが。
また違うメンバーで、違うNPOのお手伝いをする。っていうおもしろさに、また参加しちゃいそうな気はします。
んー。でもわかんないですね。そのとき趣味に熱中してるかもしれないし。もしかしたら大恋愛とかしてるかもしれないし。

プロボノって、ふつう。
で。最後にまとめると、プロボノって、ふつう。って感じでしょうか。人の役にたつとても意義のあることなんだ。とか、逆にちょっと偽善っぽいんじゃないの?とか、なにかわかりやすい目的を持って取り組むとか、そういう大げさなことじゃなくって。ちょっとやってみようかな。ってふつうの人がふつうにやってみる。そんなかんじでいいんじゃないかなあと。思っています。

おしまい。
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日高さんの話を聞いて、そして、またあらためてこのテキストを書いてみて、今回の授業の目的に自分の働き方、そして、生き方を考えると言えるな、という確信が持てました。




さいごに

参加していただいた方のアンケートともに、先生方からいただいた声も掲載させていただきます。

【参加者の声】
◎関心のあったプロボノについて、事例や思いに触れることができ、また様々な人と共有できて、本当に楽しかったです。
◎おもしろいお話と、参加者の方との交流があり、とても有意義でした。今まで参加したなかで、1番おもしろかったです。
◎三人のお話をきいて、三者三様でした。とくに三人目の方の話をきいて、(プロボノの)参加にあたってのハードルが下がったように思う。仕事との関わり方、生き方そのものを考えるきっかけになった。
◎プロボノを受け入れる側としてお話を聞かせていただきました。様々なプロボノワーカーの方のお話で参考になりました。ありがとうございました。
◎3人の体験者の抽出が絶妙でした。自分としてどう参加すればいいか、関わればいいかについて、とても参考になりました。自分の仕事・人生・働き方について考えるきっかけになりました。
◎本当に素敵なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。3名の方々のお話により、“プロボノ”という中でも、色んな形が、あることを知りました。そして、自分なりにどのように関わっていくことができるかと、考えるきっかけになりました。
◎プロボノというと、バリバリとモチベーションの高い人があつまっているイメージがありましたが、日高さんのお話で、少し“しきい”が下がりました。私もリサーチャーとして、なにかできればと思いました。


【先生たちの声】
◎私も、あんなに多くの人数の方々の前でお話するのはめったにないことでどうしようかと思いましたが、結果的にとても楽しい経験でした。また、他多くのプロボノ経験者と知り合え、嬉しかったです。
◎ただただ楽しませてもらってしまいました。プロボノが特別なものじゃなく、ふつうになっていけばいいなというのが、伝わったみたいで、よかったです。
◎貴重な機会を与えて頂き、ありがとうございました。抽選に外れた方を対象にもう1回やりたいぐらい、楽しかったです。


プロボノというと、社会の役に立つ、ボランティアなど、一見、固くなってしまいそうな内容でもありますが、とても温かい場になったとあらためて思います。それは、先生のみなさま、そして、参加者していただいたみなさまのおかげです。
みなさま、本当にありがとうございました。