シブヤ大学

授業レポート

2011/1/24 UP

自然に学ぶ 〜森林が教えてくれること〜

三回目となる、おとな学科の授業テーマは「自然に学ぶ」。このテーマと、先生の携わる仕事「林業」という言葉だけ聞くと、皺に人生を刻んでる髭の生えたおじいちゃんのような人が先生なのかと思いきや、そのイメージとはとてもかけ離れた若い女性の方です。森林組合で働き、自然の中でお仕事をされている先生と森林との関係、林業とは何か、そしてそれに携わる職人の方たちについてのお話などをプロジェクターで先生の撮ってきた写真を紹介しながら、お話していただきました。

興味深いたくさんのお話の中でも、特に印象に残ったお話を少しだけ紹介したいと思います。

■先生の携わっている林業について

林業と聞くと、びしっと作業着を着て、木を切ったり、植えたりする仕事というイメージがありますが、森の所有者の管理をしたり、木の年齢の資料を作成したり、森林地図と言われる特殊な地図を作ったり、秋にはまつたけの販売をしたり、その仕事は多岐に渡るそうです。そして、その中で、遠藤先生のお仕事は、指導企画係という仕事で、「長年森に触れてきた職人さんたちから話を聞いて、為になる情報をほかの人に伝えるような仕事です。」とのこと。

そして、木は植えてから生産製品化されるまでに50年もかかるそうで、そこがすぐに結果の見える工業と林業の大きな違いとのこと。秒や分などの単位ばかりの東京にいると、ちょっとクラクラしそうな年月ですが、自分の代で植えたものが製品になったことを現役の頃には見えないからこそ、先人の方たちとコミュニケーションをとることが大切だというお話をされていました。先生の紹介してくれた写真には、みかんの置いてあるコタツに、みんなが入って温まっている風景があり、それが実は、組合員の会議風景だったりして、とてもほのぼのした雰囲気でしたが、実はその会議では、ほんとにたくさんの先輩たちの良い話がたくさん転がっているそうです。

■森林との関わりについて

先生の住んでいる長野県飯田市は、森林率(地域における森林面積の割合)が86%で、反対に渋谷は0%なんだそうです。驚いたのは、日本の森林の中で人工林(簡単に言うと人の手を加えられた林)の比率は30~40%で、反対に人の手がまったく加えられていない天然林はものすごく少ないということでした。そのひとつの原因は、「戦後日本は何も無くなって復興のために木をたくさん使って天然林が減り、その代わりに人工林をたくさん植えた」ということもあるそうですが、基本的に、ほとんどの森は人間がちゃんと管理してあげないと駄目になってしまうそうです。「天然林が少なく、人工林が意外に多い」と聞くと、少しネガティブな印象を受けてしまいますが、人工林=「管理された森」=「守られた森」ということに繋がっているんだと思いました。

■狩猟免許をとったことについて

農作物を盗られたり、育てている家畜を殺されたり、そういう悲しい目にあっている人がいて、森の中で資源をもらっている関係者なのにその動物を殺すことは屠殺をされる方にお願いしていて、そうではなく自分でもやってみようという想いで免許をとったそう。ただ、軽い気持ちで踏み込んだら意外に深くて抜けられなくなったということをおっしゃっていました。「動物を殺すこととは?」という深いテーマに対して自分なりの考えをまとめようとして、まだ自分でも結果が出ていないということをおっしゃっていました。

最後に、おとな学科ということで、今回の授業コーディネーターから「大人とは?」という質問をされ、「みんなで相談して、正しい、そしてみんなにとって良くなる方向に向かってつき進む人」という回答をしていました。そして、無口だけどたくさんの知識と経験の職人さんに代わって、林業や森についてのことをほかの人に知ってもらう。その橋渡しをこれからどんどんやっていきたい。もし次回やれるなら、ぜひ職人さんを長野から連れてきて授業をしたいという、熱い言葉を残してくれました。

先生はとても自然体で、自分で感じたこと、思ったことに対して真摯に向き合っているなという印象がありました。「話合いをして決めていく」当たり前のことだけど、個人で何でも済んでしまうと錯覚をしてしまいがちな昨今、とても印象的な言葉でした。

そして、そういう仕事をしている人がいて、人間と森の係わり合いを知っているか知らないかで、森や自然への考え方も大きく変わってくるし、そういったことを知った上で自然と向き合うことが「大人な自然との付き合い方」なのではと、考えさせられた授業でした。

(ボランティアスタッフ:斉藤淳一)