シブヤ大学

授業レポート

2010/10/27 UP

みんなの「今」を持ち寄ってZINEを作ろう

■楽しいZINEの制作体験

授業の先生は、北尾トロさん。魅力的な著書を多数持つライターさんだが、今回は先生の紹介もそこそこに、生徒さんの宿題チェック。どんな記事素材を用意したか1人30秒くらいで発表。こういうときは30秒つッてんのに5分も話す人が出現しがちだが、この日は自然と時間キープ。スタッフとして感動した。全員が発表すると、先生が決めた5人を中心にグループ分け。いよいよZINE制作がスタート。

まず各グループで編集会議。メンバーの記事順を決め、ZINEのタイトルを決め、当日与えられたお題目「恵比寿の今」の内容を話し合う。A4の紙にページ番号を書いて、素材を貼って、文章書いて、記事ができたらカッターで半分に切って、面付けをして、運営スタッフにコピーを取ってもらい、折って、たたんで、切って、貼って、完成だ!……乱暴なレポートに思われるかもしれないが、実際、こういうスピードで授業は進んだ。(素材をハサミで切り始めたところで「残り5分で記事は完成させて」と言われ、徹夜前の5分休憩のつもりですっかり眠ってしまった期末テスト当日の遠い空気を思い出した)
ZINE完成は目前である。


■これが、ZINEだ!

記事原稿をシブ大のスタッフがコピーしている間は、先生のお話タイム。「ZINEとは何か」ということを改めて教えていただいた。
先生によるとZINEとは「書き手の思いが強烈に表れたモノ」。一部の音楽ファンが、自分が大好きなアーティストの魅力を他人に伝えたくて、その思いをぶちまけた小冊子が原型にある。ふだん、私たちが目にする雑誌(Magazine)から「大きい」(Mag)が取れた、個人的な雑誌。それがZINEだという。
誰かに伝えてぇーッ!という押さえきれないの気持ちが根底にあるのだから、カッコ良さは関係ない。もちろん、伝える行為である以上、独りよがりではない、読み手への配慮は必要だ。でも、だからといって、クールでファッショナブルなものを目指してもダメ。いや、ダメというか、広告もつかず、読み手も少ないことが前提のZINEで、外面ばかり演出してもむしろ惨めではないか。目指すのはあくまでも中身を伝えること。そんなお話もあった。なるほどー。
私自身は、ZINEという言葉をアート系の雑誌で知った。「今、ホットな表現ツール」みたいな紹介を読み、フリーペーパーのオシャレな呼び方?くらいに思っていたが、間違っていた。ZINEはそんなんじゃねえと叫び出しそうなくらい熱のこもった説明が、スッと胸にはいり、腑に落ちる。


■製本作業のポイントは「面付け」

製本作業で特に難しいのは、「面付け」と「折り畳み」だ。幸い、シブヤ大学がその手順をプリントに、まとめてくれていた。「世にあるZINEのノウハウ本も、煎じ詰めればこの1枚になる」と先生が絶賛したほどわかりやすいプリント。それに従うだけなのに、なお迷ってしまう。難解だからこそ実体験できた価値は大きい。
今回はこの素晴らしいプリントのPDFを公開していただいた。ダウンロードは、レポートの下部へ。興味のある人はぜひ体験してみてみよう。
ただし、ページ数が変われば面付けも変わってしまう。より詳しくはググってほしい。並べ方を計算してくれるフリーソフトもあるらしい。日ごろ、我が子には「自ら考え判断する人になってほしい」と願う私ですら、「面付けは従え」と教えたい。


■今、このときだけのZINE

そんなこんなで駆け足の制作が終わり、5つのZINEが完成。
「本来は、こんな短時間で作るものじゃないし、しかも互いに初めて会ったメンバーでの作業。良い物を、などと考えなくていい。まずは作り方を覚えてもらえばOK」と先生。「逆に言えば、これから各自がZINEを作ったとしても、今日のこのZINEは二度とつくれない」。おぉ、いきなり飛び出た素敵なフレーズ、思わず胸にジンと来……。とにかく、最後はそれぞれのZINEを手に飲みに行く生徒さんたちの姿もあり、みんなが心から楽しめる授業だった。めでたしめでたし!

最後に、この授業に興味があった人は、ぜひ北尾トロさんが発行する『レポ』を読んでほしい。通信販売されるこの雑誌は、定義上ZINEではない。が、その文章にはZINEに近い熱があるように思う。オモシロおかしい筆致のなかに店長へのただならぬ敬意を感じさせるコンビニ勤務体験や、心配になるほど赤裸々な奥崎謙三のラブレター紹介。日本三大M男という妙なトップランナーたちの対談は、いよいよの部分で次号へ続くのが腹立たしいほど。着眼点も面白いが、それ以上に心底正直な文章で、書いている人と出会った感じがするのだ。

(ボランティアスタッフ 松本浄)