シブヤ大学

授業レポート

2010/2/19 UP

森とエコ 〜人が森にできること〜

オモエコ学科の第5回にして最終回の授業は、「森とエコ~人が森にできること~」です。

「森」って、都会で暮らしていると、あまり縁のない場所だと思っていませんか?

実は、渋谷区にも立派な森があるのです。



【第1部 明治神宮の杜】

今回の教室は「明治神宮の杜」。東京ドーム15個分の境内に17万本もの木々が茂る、都心で最大の森です。
第1部の先生は、「どんぐり」の授業でもお世話になっている、「NPO法人響」の井梅江美さんです。
井梅さんから最初の提案は、「アタマは使わず、カラダで感じよう」でした。
早速、五感を働かせるためにちょっとしたゲームを行いました。

1.目をつぶって、太陽の方向を当ててみよう。
2.目をつぶって、何種類の音が聞こえるか、数えてみよう。


やってみると…
どうでしょうか?
ぜひ皆さんも、やってみてください。

感覚が開いてきたところで、いざ、明治神宮の杜へ。
参道を歩いていきます。
今まで何気なく歩いていた参道ですが、実は、トリビアがいっぱい。

「春の小川」
参道にかかる橋をくぐるように流れる小川は、実は童謡「春の小川」のモデル。
また、源流は今話題の「清正井」です。

「代々木」
昔、この場所にとても大きな木があり、東海道を旅する人々の目印になったり、黒船の観察にも使われたそうです。


<人工林である証拠>

そして、大鳥居の横に、一つのポイントがありました。
実は、この杜は、人が造った森です。
その証拠に、ここには、自然界では一緒に生えることのない5種類の樹木が並んでいます。
アカガシ・シラカシ・アラカシ・スダジイ・クスノキは、生育する土壌や気候が異なるため、自然にはこのような森はできないのです。
御社殿の門のところで振り返ると、参道に覆いかぶさるように、緑のトンネルができていました。
ここまで来ると、入り口で聞こえた電車や車の人工音もなく、気温は2~6℃も下がるため、すっかり森の中です。
こんな鬱蒼とした森が、90年前に人の手によって造られたなんて、信じられるでしょうか。

<100年後を考える>

当時、「永遠の森を造りたい」という願いのもと、最先端の技術をもって100年後を見越した「林苑計画」が立てられました。
ポイントとなるのは「天然更新」です。
生長の早い木の層と生長の遅い木の層をつくることにより、やがて極相林(安定した状態の林)になっていきます。
明治神宮参拝の後、「響」の活動場所であるどんぐり畑を見学させていただきました。
この杜が90年前の人々の熱意で造られたように、これからの森をつくるのも、人の力です。
この畑には、集めたどんぐりから作られた1~3年ものの苗木が一面に並べられていました。
これらの苗は、植樹祭などで使われるそうです。
明治神宮の杜を堪能した後は、表参道を通ってKDDIデザイニングスタジオに移動です。



【第2部 原宿KDDIデザイニングスタジオ】

ここでは、学級委員であるエイジアエンジニアのZROさんとともに、more Trees (モア・トゥリーズ)事務局長の水谷伸吉さんのお話「都市の生活と森とのかかわり」を聞きました。
森林には、私たちを支える、たくさんの役割があります。
例えば、木材として、水源として、CO2吸収源として、鎮守の森として、生物の宝庫として…
そして、私たちが森にできることとして、次のような例をあげてくださいました。

<カーボンオフセット>
私たちが生活の中でどうしても排出してしまう二酸化炭素を、植林やグリーンエネルギーなどによってオフセット(相殺)することを、カーボンオフセットといいます。

<間伐>
日本の国土面積のうち、森林が占める割合は、なんと2/3にもなります!
その中には天然林と、人の手で造られた人工林が含まれます。
実は、人工林は、メンテナンスをしていかないと、十分な機能を発揮することができません。
人工林は、木材を得ることを目的に造られた森であり、まっすぐな材を育てるために過密な状態で植林されているからです。
メンテナンスの中でも重要なのが、「間伐」です。
これは木を伐る作業であるため、一見すると環境破壊のように思われがちですが、森を育てるために必要な作業です。
過密に植えられた木は、周りの木との競争でまっすぐに育っていきますが、ある程度大きくなると、光が不足して、生長できなくなってしまうのです。
そこで、密度を減らすために、間引くことを、間伐といいます。
間伐を行わないと、すべての木がひょろひょろになってしまい、結果的に森林全体が不健康な弱弱しい森になってしまうのです。
しかし、間伐を行うには、費用がかかります。
間伐された木材(間伐材)を売って収益を得なければ、とても作業を続けていくことはできません。
実際に高知県の森林で間伐作業を行う、21歳の女性からのビデオレターが放映されました。
そこでは、木をチェーンソーで伐採する姿、プロセッサという重機を使って枝払いをしていく姿、架線を用いて集材する様子…などが映し出されました。
森を育てるということは、どれだけ大変な作業か。驚かれた方も多いと思います。
「間伐材を使おう!」というのが水谷さんのメッセージ。
会場には、間伐材で作られたというサイコロが、全員に配られました。
最近、エコ関係のイベントなどに行くと、森林組合などの出展品として間伐材を使ったユニークな商品が出ていたりしますので、興味のある方は足を運んでみてください。

<森ガール&ボーイ座談会>
最後に、今日の先生を務めてくださった、井梅さん、水谷さん、ZROさんの3人で、森についての対談を行いました。

ZROさん
 高校時代を木更津の森の中で過ごしたり、高尾山に遊びに行ったり と、森は身近な存在。
 森にゴミが落ちていないのを見たとき、ここを訪れる人の自然を大切にする気持ちを感じた。
 高尾山は、半日あれば行ける場所なので、皆さんにも森を楽しんでほした。
 
水谷さん
 森に対して、都市の人にできることは「カーボンオフセット」。
 何かを我慢するのがエコではなく、「カーボンオフセット付」の商品を買うことでもエコを実践できる。

井梅さん
 明治神宮の歴史は、この地域に森と関わる文化をつくってきた。
 「響」の事務所は明治神宮内にあるため、森が当たり前の存在になりがちだが、ドングリの生長や森の息吹を感じ、考える時間を大切に
 したい。

3人の先生方には、それぞれの森との接し方がありました。
「エコ」というと、何か身構えてしまうという方。休日のひと時を明治神宮の杜で過ごしてみたり、ちょっと足を伸ばして高尾山に登ってみたりしてはいかがでしょうか?きっと何か気付くことがあるはずです。

(ボランティアスタッフ: 田中 万里子)