シブヤ大学

授業レポート

2009/5/12 UP

スコットランド、おかわりください。

ウイスキーって、とっつきにくい。

匂いも強いし、アルコールもキツい。
それに、何だか「オジサンの飲み物」って雰囲気だよね。

って、私も、隣に座った生徒さんも思っていました。

…授業前は。

今回の先生はフードコーディネーターの福留さんと、「イニッシュモア」の姉妹店、「ヘルムズデール」のオーナーの村澤さん。
ウイスキーのあらましについて福留さんのお話を聞きながら、
合い間合い間に5種類のウイスキーを飲み比べます。

ウイスキーの語源はゲール語の「uisge beatha(ウシュクベーハー)」。これは「生命の水」という意味。
そして名前のモトになっているくらい、「水」はウイスキーにとって大切な存在。
ウイスキーを半分の量の水で割ってみる。
すると途端に香りがふくよかに、舌触りがまろやかに。それまでとは違った味わいに変身しちゃいます。
「水」は仕込み水としてだけじゃなく、飲むシーンでも一役買っているんですね。

面白かったのは3杯目、「マッカラン12年」の試飲の時でした。

「ウイスキーのロールスロイス」と呼ばれるこのお酒、
華やかで上品な香りに仕上げるためにシェリー酒を仕込んだ樽で熟成されるそう。
それまでの2杯に比べると、「端正」で美しい印象。
とくに女性の生徒さんに好評で、「今までの中でいちばん好き」という意見も出ていました。


しかしこの授業、さらに興味深いのはここからです。

「正露丸の匂いがする!」

誰かがそう叫びました。
鼻をひくつかせてみると、確かに、強烈な薬草っぽい香り。
4番目のウイスキー「ラガヴーリン16年」の登場です。

おそるおそる口をつけてみると、味も強烈。
薬っぽいような、泥っぽいような。ウォッカの「ズブロッカ」みたい。
この味わいの正体は「ピート」なんですよ、と先生が説明を始めてくれました。

「ピート」というのはエリカの枯れ木などが堆積して泥炭となったもの。
モルトウイスキーでは原料の大麦麦芽を乾燥させる時、このピートを燃やして出た煙で燻すことで特有のスモーキーなフレーバーを付けるそうです。
そして、「ラガヴーリン」の産地・アイラ島はピートの宝庫。
この地では醸造にピートの層をくぐり抜けてきた水を使用するため
ピート風味の強い、「ピーティ」な味わいのウイスキーが生まれるんだそう。

先生は説明しながら、実際に「ピート」を燃やしてくれました。くんくん。
うん、確かにスモーキーで、ちょっと心地よい香り。

で、意外だったのが生徒さんたちの反応。
この「ピーティ」なウイスキー、とっても好評だったんです。
「クセがあるけど、これがいちばん好き」って意見、たくさん出てました。

これは私の憶測なのですが、
もし、いちばん初めに「ピーティ」なものが出されていたら
「ウイスキー」全部を受けつけられなくなる人もいたんじゃないかって思うんです。
それくらい、この「ラガヴーリン」はクセが強い。

けれど、なじみやすいウイスキーから入って行って
マッカランの端正な味わいを楽しんだ後なら、
ちょっと舌が慣れてきたから「ピーティ」なものも受け入れられる。

この辺りのナビゲーション能力は
さすが味覚とウイスキーのプロの先生方だな〜。

なんて、僭越ながら感動しちゃいました。
今まで飲まず嫌いをしてたけど、
この先生達に教えてもらえてホントによかったって思いました。


「ウイスキーの味がわかるようになるには、
何度もお店に通って舌に覚えさせなければならない。
人間の舌というのは、繰り返すことで学習していくんです。」

村澤さんが授業中に何度も口にしていたこの言葉が、
私には深く印象に残りました。

ウイスキー通の道も一歩から。
これから少しずつ、自分の舌を食育していこうと思います。

(ボランティアスタッフ 松本典子)