シブヤ大学

授業レポート

2008/7/7 UP

『文字に想いを込めて』

大切な人から、ある文書が届きました。

片一方は、ワープロで打たれた正確な文書(いまどきワープロはないか・・・)
もう一方は、文字が滲んだりかすれてはいるが、その人の味が表れた文書

もらって嬉しいのはどちらでしょう?

文書と聞くと、真っ先に正確に書かれた形式ばったモノと考えてしまうのは、現代人の特徴かもしれません。現実、作り手を写し出し、文字に個性を宿した文書というのは最近減ってきています。

そんななか、活版印刷の灯を絶やさぬよう立ち上がった人たちがいます。
活版印刷のごとく自然体で、穏やかな方々が今回の先生。

社会見学ということで、途中移動を交えての授業。
あいにくの天気でしたが、11名の生徒からワクワク感が溢れ出ていました。
早速スタート!

「活版印刷」
文字にすると何やら難しいもののように感じますが、小さいころ、消しゴムを彫ってハンコを作った経験が皆さんにもあるはず。
そう、まさにアレです。
実際「型」として使われているのは金属ですが、おおまかにいうとその金属の「型」を組み合わせて印刷するのが活版印刷。当然、文字は反転しますので、「こんにちは」と印刷したはずが、「こんにさは」となってしまうこともあり得るわけです。型を理解しないとちゃんと刷れない。愛嬌ですね。

この授業で特に考えさせられたのは、「文字」と「個性」との関係。
毎日のように「文字」に触れている私たちは、空気のようにそれらを処理しています。
(しかも無意識のうちに記号であるかのように)
ちなみに私が綴っているこの文字達。これらは私でなくても同じカタチになりますし、それを制御する術もありません。何の個性もなく、前述の様にただの記号のように処理されてしまいます。
もちろんフォントを変えることで見栄えや印象は変わりますが、それでも捉え方は同じです。誰が書いても同じ、よく考えてみるとこの衝撃的な事実のうえで、私たちは生きています。
特に最近の印刷事情は、「性格」よりも「正確」を求めているとのこと。
確かに正式な文書であれば「正確」さは必要でしょう。実際の生活を考えてみても、誤字脱字のある印刷物は好意的には思われません。
ただ、「正確」さだけに重きをおくのは悲しすぎないですか?
作り手(書き手)が刷った意味、状況、想い・・・これらは読み手にとって重要な判断基準と成りうるはずです。そこに記された文字は単なる記号としてではなく、作り手自身として認識されるのです。「温かさ」や「力強さ」は、文字に性格があってこそですね。
効率だけを求めて、大切なことを忘れているような気がします。

この授業で特に「個性」を垣間見た瞬間があります。
各グループで印刷するインクの色を決め、自分の名前を刷っていきました。
金、銀、蛍光ピンクなど、普段あまり目にしない鮮やかな色が教室を彩りました。
なかでもユニークだったのが、白のインクを選んだグループ。
よく考えてみてください。白い紙に白いインクを刷るとどうなるでしょう?
一般的なプリンターであれば、おそらく文字は消失するはずです。
ところが、出来上がった作品を見てビックリ!

一同「!!」

なんと印刷されているではないですか!
頭で考えていることと全く別の結果になり、教室の中が「!?」でいっぱいになりました。
なぜだろう?刷りあがった紙を見せてもらうと、なるほど納得しました。
印刷する際にかかった圧で、紙が凹みます。
凹んだ部分に白いインクが乗ることで立体的になり、文字として認識出来たんですね。
使う側の個性も作品に込められるという楽しさ。
デジタルプリントでは考えられない。

私も実際にこの手で活版印刷を味わいました。
型は「Thank you」。なんとなく感謝の念を込めて、力いっぱいに印刷してみました。
(印刷機はスロットマシーンの様な形をしており、レバーを引くことで型と紙が接触し、文字が写るという仕組み)
「Thank you」と印刷されたカードの力強いこと。
文字を制御出来るし、圧がかかる分力強い印象や、かすれた感じ、敢えてにじませた感じなど、作り手の感情をそのまま表現出来る素晴らしいツールだと感激。皆、口を揃えて「これは一家に一台だわ」と言っていました。勝手ながら3種の神器に認定しましょう。

生徒が皆刷り終わって、先生方から一人ひとりに先ほどの印刷物が手渡されました。
その瞬間、どこからともなく拍手が。まるで卒業式のよう。
第1期活版印刷体験修了生、まさにそんな感じでした。
(ちなみにオールライト工房さんも、この工房でのワークショップは初めてのよう。)

最後になりましたが、活版印刷ってどこか人間に似てますよね?
にじんだり、はみ出したり、崩れたり。
そう思うとこれらの文字、この技術がいとおしくてたまらなくなりました。

さて、出来上がったカードをみんなは誰に送るのかな?

(ボランティアスタッフ 松森拓郎)

【参加者インタビュー】
1.菊池さん(女性)
感想:「自分が考えていた以上に楽しかった。
白が好きだから白いインクで刷ったけど、綺麗に仕上がって良かった。
出来たカードは友達に送ります。」