シブヤ大学

授業レポート

2008/6/4 UP

「日本が知らない日本の思想」

教科書でしか知らない日本。
義務教育でマニュアル化された知識を疑わず、僕らは今の常識を作っている。
そう感じた授業でした。

「アイヌから学ぶ自然と生きる知恵」というタイトルから、最初のイメージは自然界を克服するための何かの話が聞けるのかと思っていました。しかし、まったく予想とは異なる内容だったのです。

なにより先生が面白い。手振り身振り全身を使った活力溢れる話し方。
子供のように無邪気に、かつ、「がははは」、と豪快に笑う。とても65歳には思えません。
もちろん話の内容も魅力的。時間があっという間に進んでいきました。

しかしながら、アイヌの歴史は当時の日本人に迫害され教育を受けられなかったという暗い過去を知らされます。アイヌ語は話せても日本語を学ぶ機会がなかった。かつ、読み書きをする教育体制が整ってなかった。当時のことを明るく話す先生に生徒はどんどん惹きつけられていきます。

アイヌ文化から見る思想はとても興味深いものでした。
この授業で学んだのは、「命の大切さ」。
食糧、マナー、教育、コミュニケーション、様々な問題が日本国内にあると思いますが、アイヌ独自の思想はいまこの日本で通用するとも思いました。

例えば、赤ちゃんの接し方。アイヌでは赤ちゃんはカムイ(神)と崇められ、
コタン(村)全部のものと考えられています。「赤ちゃんは、親のものではない。」というのです。

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なぜなら、赤ちゃんは所有物ではないから。
カムイと呼ばれる所以は、泣けばすべてこと足りてしまうから。
泣けば、オシメを代えてくれるし、ご飯も与えてもらえる。笑えば、みんなを笑顔にしてくれる。
…なるほど。
だから大切にするのは当たり前!という考え方なのです。

では、Q.いつ赤ちゃんはカムイ(神)を卒業して、人になるのか。
成人したら?ご飯を一人で食べられるようになったら?
生徒が次々と答えていきます。

正解は、……A.人間の言葉を喋ったら、だそうです。
というのも、泣いているだけで全て事足りるのに、
人間の言葉が話せるようになったらさらにわがままになってしまう。
…たしかに。

ではQ.アイヌの人々は、赤ちゃんがカムイから人間になったら何をするのか。
A. 躾(しつけ)だそうです。
…なるほど。
わがままになる前に、きちんと人としての礼儀やマナーを教えるといいます。
ですから、言葉が分からないのに躾だといって、子供を叩いたり、食事を与えない親が増えているのは嘆かわしいことだと先生はおっしゃっていました。また、赤ちゃんは神であるから外に持ち歩かないこと、できれば家に一緒にいて顔を見てあげることが大切だとおっしゃいました。かわいいから見せたいという気持ちはわかりますが、カムイは所有物ではありません。家に呼んで顔を見に来てもらいましょう。そして、ずっと見守ってあげましょう、と。

人間と人間がどう向き合うか、ということがアイヌの真髄と先生は語ります。
そして、それは人間に限ったことではありません。

蚊もハエも、殺すな。

蚊やハエが来る前にヨモギを焚いて、人間の周りに来ないようにすればいい。
もし刺されても、薬を塗ればいい。
祖母の教えだと言います。
生きるために、なんでもかんでも「殺す」というのはあまり良くないということです。
そして、動物や自然と共存するためにはある程度のルールは必要だということです。
その思想を裏付けるアイヌの儀式を教えて頂けました。

熊奉り。

生まれたばかりの熊の赤ちゃんを親熊から盗み、人間が熊の赤ちゃんを育てるというのです。
育てるのは3年。熊の赤ちゃんは人間が親だと思っていますから何処に行っても付いてくるそう。
とても可愛く、飼主は、ペットではなく家族としてこの子は人間!と錯覚するそうです。
しかし、3年後別れの儀式がやってきます。皆で食べるために。しかもとどめをさすのは飼い主。熊の顔と向きあわせられながら。残酷なようですが熊を神として奉る大切な儀式から逃げられません。その儀式を通して、人は命に感謝して、命について見つめ直すと言います。アイヌは命を体で教わっているのです。
ここで先生から質問が。「あなたの飼っている愛犬を食べましょう。」なんという問いかけ!
しかし生徒たちは驚きながらも沈黙が…。
動物と暮らす、当たり前のようにスーパーで豚肉を買う。
その日常に命の尊さは薄れていることを改めて教えられた気がしました。

そのような話を聞いた後、いよいよ刺繍の時間。
とその前に、紋様を折り紙で作ってみる時間。一枚の折り紙を4つに折り、指定された形を鉛筆で書いてはさみで切って、広げてみる。
! なんとも、独創的な形。生徒たちも楽しみながら紋様を作っていきました。
さて刺繍ですが、前記にあるように、刺繍にはアイヌの自然との関わり方・思想を表現しています。
渦はモレルといい、パワーを表し、トゲはアイウシといい、身を守ることを表しています。
また花をモチーフにした模様は無いそうです。なぜなら種を残す前に花をちぎってはいけないという思想があるから。自然と共存するということが、きちんと自分たちの民族衣装に反映されているのです。
そんな尊敬の意を表しながら、黙々と刺繍をしていきます。男性も女性も黙々と。
刺繍が久しぶりの人、初めての人、戸惑いながらも集中して作業をしました。
全部は仕上げられませんでしたが、その体験ができただけでも十分楽しめました。

歴史、民族問題。普段の生活から遠ざかっている問題も、このようなスタイルで話が聞けると、もっと身近に感じられると思いました。いまの僕の日本の価値観、それは断片的なものでしかないと思えた授業でした。また、秋辺先生の授業を受けたい。そう思った生徒も少なくないでしょう。

(ボランティアスタッフ 鈴木高祥)