シブヤ大学

授業レポート

2008/5/22 UP

「教育を受けた私たちは、すぐに行動できる。」

プロジェクターに映し出された映像。

「お父さん。学校に行かせて。」
ビデオカメラに涙ながらに訴える少女は10歳位だろうか。
貧困が原因で教育を受けられないタイ山岳民族の少女。
子供たちが売買される。自分の娘を2000バーツで売ってしまう親。
しかしその親も数字・文字がわからなく、実際は200バーツでやりとりされているのに気がつかない。
そういった子供たちが国境を越え孤児院にたどり着く。
タイ・アユタヤにあるワットサケオ孤児院にはそんな孤児が2000人いる。
驚くのは、その子供たちの面倒を見るのが大人5人だけという事実。
3~16歳の子供たちが暮らしているが、学校があるわけではない。病院があるわけではない。
だから、ケガをした子供がいても、血を流して倒れているだけ。
誰も手を貸そうとしない。というより、どうしていいか分からないのだ。
国籍がない彼らは、その国の国民として認められず、山岳民族として暮らすことを強いられていた。

その状況を打開するため、メートー学校という山岳民族の学校を支援しているNPO代表が今回の近田先生。
貧困の原因が、教育が無いことによる負の連鎖、という考えの元に1991年から活動をしていらっしゃるそう。広告代理店、テレビ局、…NPO国際協力団体という経歴から、話し方も意見も真っ直ぐな方という印象だった。

映像の最後に、先生からこんな質問が
「もし、あなたが学校に行くことができていなかったら、今のあなたはどんなあなた?」
※ 小学校1年生に入学したときの自分の姿を思い出してください。というもの。

みなさんも思い出して欲しい。
嫌々に学校に行った思い出はないですか?当たり前のように学校に通っていませんでしたか?
もちろん、私もそうでした。学校は行くもの、学校はあるもの、だと。
そして、もし教育を受けていなかったら…。いまこうやってインターネットを見ることもできなかったし、働くこともできていないかも知れないし、今社会で生きていないかもしれない。

学校に行きたくなくて自殺をする子。勉強なんてしなくてもいい、という歪曲した教育が行われ自由を履き違える子。一方で、学校に行けなくて死んでしまう子。勉強をしたくてたまらないのに、学校が無い子。そんな子供たちがいる世界が、いま同じ地球上にある。

世界の20%の人が世界の80%の食料を食べてしまっている事実。初等教育を受けられない子供が1億人いる事実。飢餓が原因で無くなる子どもが5秒に一人。飢餓人口が8億5000万人に対し、肥満人口は10億人いる事実。日本の生活は輸入に頼っている事実。20億人が2ドル未満で暮らしている事実。250人の孤児院で食事の前に手を洗う水は桶2つだけという事実。
声がでなかった。

世界一貧困な国シエラレオネは、皮肉なことにダイヤモンドの生産国。しかしながら500万人の人口のうち100万人がホームレス。平均寿命は男性32.95歳、女性は35.90歳(1995)。外国でお金になるとも知らされない「ただの石」のために手足をなくす人がいる。この事実は、フェアトレード以上に先進国の皆に知ってほしいと思った。「結婚指輪は給料の3か月分」。そんな広告のキャッチコピーに踊らされる日本人にはなりたくない、そう思った先生のイヤリングはずっとガラスだという。

貧困をなくすためにはどうすればいいか。それは、何か「物資を提供する」のではなく、自立支援できる教育をすること。魚の取り方、網の作り方、植物の育て方、計算の仕方。一日で終わらない、持続的な何かを現地に残すことが大切だと先生はおっしゃっている。

青空教室だったメートー学校も困難を乗り越え、徐々に大きくなり高校進学率も0%が80%になった。卒業生2人が大学に行き、教師として戻ってきてくれるという嬉しいサイクルもできた。現地の校長が自力で日本大使館に申請し助成金を頂いて新校舎ができたそう。学校ができることで、教育体制が整うことで、明らかに事態は好転している。先生の説得力あるリアルな話を聞いて素直にそう思えた。

最後にグループにわかれ、“もし、自分が海外協力するならば何ができるか”というグループワークを行った。SWOT分析といわれる内部的な「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」と、外部環境の「Opportunities(機会、チャンス)」「Threats(恐れ、脅威)」の4つのカテゴリーに分けて自己分析を行い発表した。その中で、私の一番の発見は「日本人であり教育を受けていること」だった。今の仕事の能力を生かせることもあるが、それができるのも教育を受けてこられたから。特別なことではないが、日本に生まれたことが幸せなことだと思え、意識していなかった分、発見だった。
だからこそ、海外協力を難しく考えることはない。
募金をすること、フェアトレード商品を買うこと、海外旅行の一回を途上国にして現地を知ること、情報収集をして就職先に国際協力団体に関わること。教育を受けた私たちは、自分のレベルに合わせてすぐに行動できる。そのことを知ることができた授業だった。

最後の先生の言葉は、「無関心を捨ててほしい」。
日本人の私たちにどれだけ届くだろうか。

(ボランティアスタッフ 鈴木高祥)