シブヤ大学

授業レポート

2008/5/21 UP

箱膳がつなぐ日本の元気

今回は「NPO法人えがおつなげて」主催の「全国箱膳食育ネットワークシンポジウム」に特別枠を頂いての授業です。箱膳とえがおつなげてについての復習は、2007年2月に行われた『日本のココロを、いただきます。~「箱膳」スタイル~』の授業レポートをチェック!

授業の前半は、食環境ジャーナリストとして日本各地で取材や講演会をおこなっている金丸弘美さんによる、地元の伝統食を見つめることが地域活性化に繋がるという「地域伝統食の重要性」をテーマにした講演です。

各地の伝統食は、その地域では昔から伝わっている、ごく当たり前のものですが、
都会やその他の地域の人から見ると、とても珍しいものに映ります。地元独自の価値として「食」を発信すると、それが「観光」にもなり、経済を上げる効果へ結びつくのだそうです。
また、伝統食を見直すことで引き起こされる効果として挙げられるのが、おじいちゃんおばあちゃんが元気になるということ。家族からは「また同じことを言っているよ」と言われて煙たがられてしまうような話も、観光をしにきた人たちには、初めて聞く新鮮なものでとても喜ばれる。それが嬉しくて、おじいちゃんおばあちゃんが生き生きしてくるのだそうです。
地元の伝統を見直すことは、経済だけでなく、人も元気にさせるのですね。

ところで、ただ昔の料理をつくることが伝統食になるかと言えば、そうではありません。
伝統食を考えるとき、考えなくてはいけないのが「種」や「素材」。
日本の食材の自給率は低く、海外からの輸入に大きく頼っています。
市場に流通している安価なものは、大量生産を目的に海外から品種改良されたもの。
本当の伝統食に大切なのは、「食材」と「地域性」。
その食材がどこでつくられたものなのか、「種」・「素材」を知り、見極める目が必要なってくる、と金丸さんはおっしゃっていました。

さて、授業の後半は、現代社会における「食育」の必要性というテーマについてのパネルディスカッションです。

ここでは、各地でその地域の特色を活かした箱膳体験イベントに取り組んでいる方たちのお話を伺っていきます。
山梨県北杜市にある「えがおつなげて」の箱膳のメニューは、全て北杜市で採れた無農薬の野菜でつくられています。ただ箱膳を味わうだけでなく、「食の原点は農」と農業体験をおこなっていると、代表の曽根原さん。
山形県鶴岡市では、イタリアンを取り入れた箱膳に挑戦。地元のお米、食材を、イタリアンスタイルで調理。主催者の庄司さんは、イタリアン箱膳に取り組んだ皆が笑顔になって童心に帰っていたと語ってくださいました。
主婦のアイディアがふんだんに散りばめられた箱膳がつくられたのは、福島県三島市。実際に献立を考えられた森田さんは「三島市の木から箱膳の箱までつくられ、全部地元のもので出来ることに感動した。」とおっしゃっていました。
東京銀座にある「茶子溜り」は、地方に行かずとも大都市で箱膳体験ができるお店。
地域資源をビジネスとして成立させるためには、流通がうまれ継続することが大切。それによって各地の人々が元気になるのではないか、とオーナーの大和田さんは地域色を出すために調味料や、味付けや飾りつけといったしつらえ、「日本の本物」にこだわったのだそうです。

箱膳を通し、地元の食文化という内側を見直すことが新しい交流をうみ、それが人々を元気にする。今後、日本各地の伝統食を箱膳メニューにし、ネットワークとして繋げる仕組みをつくっていきたい。そして、全国47都道府県の箱膳サミットを開催したいと箱膳食育ネットワークの今後についてお話をしてくださいました。

箱膳は、日本が持っていた良い文化。
それは、ものや食べ物を大事にする心。健康であることや、伝統を慈しむ心。
箱膳に詰まっているのは、食材、調味料だけでなく、人々が紡いできた歴史や文化です。
食べることは生きること。食を考えることは、生き方を考えることなのかもしれません。
私たちが、食という文化を考え、見直し発見するのは、時間を越えて受け継がれてきた大切なものたち。それは、人から人へ、全国各地の地域から地域、過去から未来へ繋げていく日本の元気の源なのです。

(ボランティアスタッフ 中里希)