シブヤ大学

授業レポート

2026/8/10 UP

正しさで疲れがちな今の、対話を深めるコツ ― 問いを立てる編

本授業のコーディネーターを務めた山口さんのご挨拶から、授業は始まりました。クリティカルシンキングをテーマに話し合う機会がなかなか無いため、今回はみんなで対話そのものを見つめ直し、深めるような時間にしたい——そんな企画の背景が語られました。
今回の先生は、考える力を育むために学校や企業、地域で哲学対話を行っているNPO法人こども哲学・おとな哲学 アーダコーダで講師を務められている大前みどりさんです。大前さんが最初に、参加者の中に哲学対話の経験がある方がいるか尋ねられると、ちらほらと手が挙がりました。経験者も交じるそんな顔ぶれの中、哲学対話をする上で、以下のような注意点があげられました。

1. 知識や情報よりも、感じたことや経験を話す
2. 空気を読まずに、思ったことを話そう
3. 相手が嫌だなと思うことは言わない(これで合っていたかな……)
4. 意見を否定しない(なぜそう思ったのか? と考える)
5. 「人それぞれ」で終わらせない——人それぞれ違うのは当たり前。その違いを深めることこそが哲学対話とのこと

注意点の説明を終えた大前さんが、質問はありますかと参加者に投げかけます。すると、ある参加者から。
「2と3は相反しているけれど、どうすれば良いのでしょうか? 相手のことを知らないので、うかつに思ったことを話せないのですが……」
「たしかにおっしゃる通りですね。そうしたら、どうすればよろしいでしょうか?」
返ってきたのは、答えではなく問いでした。一瞬の沈黙のあと、ある方が口を開きます。
「発言したあと、様子をうかがう……」
それを機に、ちらほらと声が上がりました。
「もし嫌なことを発言されたら、それを伝える」
気づけば、注意点の説明を聞いていたはずが、先生と参加者の間で哲学対話がもう始まっている。……恐るべし。


そんな一幕を経て、大前さんの説明が再スタートします。ここからのテーマは「問い」です。
「問い」は、聞く方も答える方も答えを知らないものです。
では、そもそも哲学対話とは何でしょうか。
哲学者が「〜と言っていた」という知識をなぞるのではなく、自分たちで問いを立て、その問いについて自分の考えや経験をもとに考えることです。答えは一つではなく、答えのない問いについて考え、対話を深めていきます。
ちなみに、子どもたちとこの哲学対話を行うときには、

• 「好きと推しは何が違うのか」
• 「やさしいってどういうことか」

などを考えるとのことです。
意外にも、子どものときに素朴に考えていた「○○ってなんだろう」を対話するのだなぁと思いました。もしかしたら、子どもの方が哲学対話に向いているのかもしれません。大人も頑張らないと!
そもそも、問いとは何なのでしょうか。

• 当たり前を疑うツール
• 対立仲間を探求仲間に変える橋
• コントロールできない生き物

たしかに、「対立仲間を探求仲間に変える橋」は、仕事で意見が対立したときにも使えそうです。「あなたと違って私はこう思う」と言われると少しムッとしますが、「なぜあなたはこう思ったのですか?」と問われると、なんでだろうと自分を見つめ直す機会になりますし、冷静に話すことができます。なるほどなぁ……
正解のない世界で、他者とともに考える。問いについて対話すること——それが哲学対話。
次に、問いを立てるには具体的に何をするのか、という説明に入ります。

問いは、
• なぜ、あんなことを言ったり、やったりしたのか?
• ずっと忘れられない体験
• これを考えたい!
といった、当事者性や体験からスタートするとのことです。こうした体験や感情からであれば、誰もが自分事として考えることができます。
ということで、自分の体験を思い出すところからワークがスタートしました。

1. 自分の体験を思い出す
身近で困っていることや、普段から疑問に思っていることなど、些細なことで良いので書き出していきます。
思い詰めてしまうとなかなか出てこないので、ほんの些細なことを書くのが重要とのことです。
大前さんは、映画館に行った際に、後ろの席の人がずっとビニール袋をガサゴソしていてうるさかったことを挙げられていました。そこから、「なぜ、あの人は音を立てるのか?」「そもそも私は、なぜ音に対して苛立つのだろう」と、いろいろな問いが出てくるとのこと。そんなこと、日ごろは考えませんね……

2. 一般的な話題を自分事化する
葛藤、もやもや、嫉妬、劣等感、承認欲求、やましさなど、100近いキーワードの中から3つを選び、そこから連想される体験を書き出します。
1では内側(自分の体験)から考えましたが、次は外側(ピンときた単語)から考えや体験を書き起こしていく。別の角度から見つめる作業は、意外と楽しいものでした。なぜ楽しく感じるのでしょうか。

3. 絞り込んだ体験を共有する
1と2で書き出した体験の中から一つを選び、そこから一つの問いを立てるために深掘りします。
その体験にどんなことを感じたか(問題意識や願い、ものの見方など……)。また、体験を客観的に説明するために、「いつ」「どこで」「何をした」「何が起きた」「どのように感じた/考えた」を書き出し、グループで共有しました。
皆さんいろいろな体験をお持ちで、和気あいあいと、時には真剣に話されていました。

4. 選んだ一つの体験を、7つのさまざまな角度から問うてみる
意味を問うたり(〜とはどういう意味か?)、原因や目的を問うたり(なぜ〜なのか?)と、その体験をいろいろな角度から見て問いを作ります。
ちなみに、その中で「課題解決のために問う」(〜を解決するためには何が必要なのか?)は、日ごろから仕事で使っている問いなので、非常に考えやすかったです。逆に、それ以外の問いは日ごろ使っておらず、考えていると頭が疲れてきます!

5. 最後に「他者とともに考えたい問い」を発表
これまでの作業で作った問いを書き出し、グループで5分間話し合います。その問いが完璧でなくても構いません。批評せず、思ったことを話し合います。

5分間だけでは足りないほど、いろいろな思いが交わされ、対話が行われました。
そんなこんなで、長いようで、まだまだ対話の時間が足りないと感じる3時間の授業が終わりました。
本当に疲れましたが、日ごろはAIに答えを聞いて回答を得たり、解決策を考えたりしていて使われていない、「問い」(なぜ? なに?)を考える時間となりました。

(レポート:豊田大河、写真:沼尻淳子)