シブヤ大学

授業レポート

2026/8/9 UP

「かるた」の新しい遊びかた ~一枚の札から「ことば」をつくろう~

シブヤ大学の教室に集まったのは、年齢もバックグラウンドもさまざまな参加者とスタッフたち。一見、子どもの遊びのようにも思える「かるた」を通して、自分たちのリアルな経験をことばにし、社会や街とのつながりを考えるユニークな授業が開催されました。
「日常のモヤモヤ・ハッピーをことばに」
体験からまちを紡ぐ、オリジナルかるたワークショップ!

■バラエティ豊かなメンバーで紡ぐ「30秒自己紹介」
授業の冒頭、教壇に立った佐野先生から「多文化共生論」や「日本語教育」「生涯学習」が専門であるというバックグラウンドが明かされ、一気に教室の興味が引きつけられます。さらに、本日デビューを迎える大学生や記録係を含む個性豊かなスタッフ陣が紹介されました。

シブヤ大学恒例の「30秒自己紹介タイム」では、タイムキーパーが厳しく(?)見守るなか、参加者の皆さんが次々と自己紹介をリレーしていきます。

「大学の生涯学習の課題で見つけて、一番面白そうだから参加した」という現役大学生たち。
「普段の日本語教育の新しい教材や遊び方を探しに来た」という日本語教師の方。
「論語かるたを子ども食堂や外国人と実践していて、さらに勉強したい」という目黒区からの参加者。
さらには「来年の大河ドラマに向けて『小栗かるた』で盛り上がっている横須賀から、かるた作りのヒントを得るために来た二拠点居住者」や、言葉遊びによる「脳トレ」を目的に千葉からやってきたという男性など、実に多彩なメンバーが集結しました。

■先生からのメッセージ
「ことばは社会を作るし、社会はことばを作ります。一見やっていることは普通のかるたですが、
自分の経験をことばにし、それをどう自分たちのまちに繋げていけるのか。
最後には『実はこういうことだったんだ』と皆さんと一緒に考えていきたいです」


■「かるた」の歴史と文化
まずは、「かるた」の語源からどのように遊具「かるた」になっていったのかをうかがいました。
「かるた」ということばが、ポルトガル語で「四角」または「カード」を意味することだったり、日本古来の遊び「貝あわせ」と融合して「百人一首」となったなど、興味深いお話をうかがいました。
 その後、文字(ひらがな)と絵を組み合わせた「いろはかるた」が生まれたそうです。
当時のまちの人々の生活習慣や「あるある」といった共感が読み札に反映され、その地域独特の「いろはかるた」になりました。
 たとえば「い」について、江戸かるたでは「犬も歩けば棒にあたる」が、京都や上方(大阪)では「一寸先は闇(やみ)」(京都)、「一を聞いて十を知る」(大阪)となります。

先生は、「私は専門的な歴史研究者ではありませんが、『その時代を生きるまちの人々が、
自分たちの生活を反映させて主体的にかるたを作ってきた』という文化の独創性にこそ、強く惹かれているのです」と熱く語りました。

◾️「社会実践型かるた」への進化
このように文化や遊びとして継承されてきた「競技かるた」や「百人一首」ですが、現代においてはその枠を超え、かるたを地域課題の解決やコミュニティ形成に役立てる手法(社会実践型かるた)へと進化させることができます。
教育かるたとして挙げられたのが、1947年に群馬県で誕生した郷土かるたの代表格『上毛(じょうもう)かるた』です。

ここには「い」=『伊香保温泉日本の名湯』のように、群馬の歴史、文化、名所がふんだんに盛り込まれています。
子どもたちは「地域を学ぼう」と思ってやるのではなく、「かるたで勝ちたい!」という純粋な遊びの動機から夢中になります。
しかしその結果として、自然と幼少期から地域の歴史や地名を身体的に記憶していく仕組みになっているのです。

「この、遊びを通じて地域を学び、コミュニティをつなぐ仕組みを、現代の文脈で新しく実践していきたい」という言葉と共に、いよいよグループワークへと移りました。

■日常の感情を書き出す
日常の「モヤモヤ」や「ハラハラ」を付箋に書く
ここからは、参加者がグループに分かれてワークシートを作成しました。
「最近の生活でモヤッとしたこと」「心がザワついたこと」「クスッと笑ったこと」など、
自分自身のリアルな感情を付箋に書き出していきます。

先生のホッコリしたエピソードを皮切りに、各テーブルでは次々と体験談が飛び交いました。
「京都の山奥でバスを寝過ごし、終点から猛ダッシュ」
「ベトナムで搭乗口を間違え、出発直前に気づいた」
「駅前の歩きタバコにモヤモヤする」
「飛行機が予定の5分前に出発していた」


■グループごとに広がる対話とことばの生成
ここからは、各テーブルでどのような対話が生まれていたのか、ファシリテーターの視点からもその様子を見ていきます。

あるグループでは、最初はどんな話題を出そうかと探るような空気がありましたが、
「ワールドカップの勝利を街の音で知った」というエピソードをきっかけに、一気に会話が広がっていきました。

「近くでやっている花火も、音が一番最初に感じるよね」
この一言から、記憶が連鎖し、体験が重なり合っていきます。
また、「道の植え込みに小さな鳥居が立っていて気になった」といった、日常の中の小さな違和感も共有されていきました。

読み札づくりでは、「短い言葉でどう表現するか」「どの言葉がしっくりくるか」を探りながら、付箋を書き換え、試行錯誤が続きます。

ファシリテーターはこう振り返ります。
「ひとつひとつは、小さなエピソードで、こういった機会がないと誰にも話されずに忘れ去られてしまうような小さなことが、みんなに共有され、そこからカルタという形で形になり、そこに共感が生まれていくのが、とても面白いと感じました。日常の小さなストーリーを言語化して形にすることで、日々の彩りがより豊かになるような気がしました。」

別のグループでは、「ヒヤッとしたこと」や「焦った体験」を中心に話が進みました。
一人の発言に対し、「そういえば似たような経験がある」という声が重なり、対話が自然と広がっていきます。

「飛行機が予定の5分前に出発した」というエピソードでは、語り手は驚きとして伝えたものの、
他の参加者からは「それは怒りも湧くよ!!」という反応もありました。

同じ出来事でも感じ方は異なる。その違いをどう言葉にするのか。
試行錯誤の末にたどり着いたのが、「え”」という一文字でした。

ファシリテーターはこう語ります。
「同じエピソードに対してもそれぞれの感じ方があり、言葉で表現することの難しさを感じました。
その中で、そのような感情の違いをどうやって表すか試行錯誤して、
『え”』という一文字が一番伝わるのではないかという結論に至りました。」

また、このグループは大学生が多く、生活スタイルが近いことで「あるある」と共感できる場面が多く見られました。一方で、他のグループでは異なる年代ならではの共感も生まれていたことが想像されます。

さらに、読み札づくりの中では、違う文脈から出てきた言葉同士がつながる場面もありました。
「話し合いの中で違う文脈から出てきた言葉同士でも繋がることがあり、とても面白かったです。」

■読み句をつくる時間
付箋に書かれた言葉は、編み直されていきます。
バラバラだった体験が、誰かの言葉と重なり、新しい意味を持ちはじめる瞬間が、あちこちで生まれていました。

■熱狂の「大カルタ大会」
後半は、自分たちで作った読み札を使ったカルタ大会へ。札を取った人が、その背景にあるエピソードを語るルールで進行しました。

言葉だけでは見えなかった風景が、語りによって一気に立ち上がっていきます。

「カルピス一気飲み、夏の午後」
喉が渇いた夏の日、思わずカルピスを一気に飲み干したという、シンプルで爽快なひとコマ。

「嫌なこと、やめてほしくても言い出せず」
歩きタバコをやめてほしいと思いながらも、見知らぬ相手には声をかけられない葛藤。

「干し葡萄は、褒め言葉?」
「若いフルーツもいいけれど、私たちはドライフルーツ」という会話から生まれた一枚。

「爆アセリ、寝て起きてすぐ走る」
寝過ごしてしまい、起きた瞬間に全力で走った体験。

「無駄ルール、いくら作れど、意味はない」
喫煙所の廃止によって路上喫煙が増えたという矛盾へのモヤモヤ。

「ちょっと待て、手に、目にハイリスクなこのマーク」
植え込みに設置された小さな鳥居に込められた工夫への気づき。

「ドドンで押す、都会の花火」
音から花火に気づく都会ならではの感覚。

「ペットは家族って考え方、昔からあるけど」
古い詩と現代の感覚が重なった気づき。

「折りたたみ傘で、髪が抜けるあの感覚」
誰もがうなずく、あの瞬間の違和感。

「ガリガリ君、ラッキー、ラッキー、ダブルラッキー」
当たりが続いた、思わず嬉しくなる体験。

笑いが起きる場面もあれば、「わかる」と静かにうなずく場面もありました。
一つひとつの札が、その人の時間や感情を背負いながら、場の中で共有されていきます。

それは単なるゲームではなく、「語り」と「受け取り」が交差する時間でもありました。

■名前をつける
最後に、このかるたに名前をつけます。

「ひねり」「せいかつ」「あせ」「え”」「にちじょう」など、さまざまな候補が挙がる中で、投票によって選ばれたのは「え” かるた」。

言葉にしきれない感情を象徴するこの一文字が、今回の体験全体を象徴する名前となりました。

■授業を終えて
今回のワークショップで印象的だったのは、「ことばにすること」によって、日常の見え方が変わっていくプロセスでした。
誰にも話さずに過ぎていくはずだった小さな出来事。
言葉にならずに留まっていた感情。
それらが、付箋に書かれ、声に出され、他者と交わることで、「共有できるもの」へと変わっていきます。
さらに、その言葉がかるたという形になることで、記憶され、繰り返し語られ、場の中で循環していきます。
郷土かるたが地域の名所や歴史を伝えるものであるとすれば、この「ことばかるた」は、「わたしの体験」から始まり、「わたしたちの関係」を編み直していくものだと言えるでしょう。
言葉は、社会をつくる。
そして社会の中で、新しい言葉が生まれていく。
その循環の中に、自分自身がいることを実感する時間でもありました。
日常の中にある小さな違和感や喜びに目を向けること。
それを言葉にし、誰かと分かち合うこと。
その積み重ねが、街を、そして社会を、少しずつ豊かにしていく。
そんな確かな手応えとともに、授業は締めくくられました。

(授業レポート:吉田 尚弘、グループレポート:小林 大祐、永田 優、写真:小林 大祐、吉田 尚弘)