シブヤ大学

授業レポート

2008/3/11 UP

原宿駅徒歩三分の『異世界』で過ごす一夜。

今回の授業「夜・間・参・拝」の教室は、日没後の明治神宮。
日の入りとともに閉門する夜の杜(もり)、普段なら入ることは許されません。けれど普通じゃできない体験をして、皆さんに改めて日常を見つめ直してほしいという想いからお話を受けてくださったそう。

神様がいらっしゃる社殿にお邪魔するため、今回の授業はドレスコード付きでした。
デニムやスカート、ハーフパンツは禁止。
授業中はケータイの使用や出された食事以外の飲食もNG。
ケータイさん、しばらくの間おやすみなさい。。。

研修所へ向かう参道の、夕日を浴びて琥珀色に染まった常緑樹。その木陰には雪。
雪!一週間前の雪がまだ残っているなんて、夜の寒さが思いやられる…。

研修所に着いたらまずはオリエンテーション&「神道」についての座学です。
まずは今回お世話をしてくださる神職さんのお話。
そして次は博士号を持っていらっしゃる神職さんから「神道」や明治神宮についての解説を受けて、古事記についてのVTRを観賞。

「神道」についての理解を深めた後はお待ちかねの夕食タイムです。
どんな豪華なディナーかと期待に胸を膨らませている生徒さんもちらほら。
さて、そのメニューは…

・ごはん
・おみそ汁
・焼鮭
・厚焼き卵(一切れ)
・ひじきの煮物
・たくあん
・お茶

神職さんたちの宿直時のお食事だそうですが、非常にシンプル。。。
食事の前には感謝の気持ちを込めて、みんなで唱えごと&『いただきます』。

食事中の話題は、神職の方々の日常生活。
一日のスケジュール、さらには休日の過ごし方まで。神職さんのご結婚はOKだそうで、お子様がいる方もいらっしゃるとか、さまざまな質問が飛び交い、みなさん興味津々にお話を聞いています。普段神職さんたちとお話しする機会ってなかなかないですからね。

食後の唱えごと&『ごちそうさま』を済ませたら、ついに夜間参拝。防寒着を着込んだ上から白い割烹着みたいな上っ張りを重ね着して、みんな腕もお腹もパンパンです。
ここで、神職さんから一言。
「神様に会いに行くので、マフラーをしている方は外してください。」
…ホントですか!?冬ですよ!寒いですよ!!と驚嘆の声を上げつつも、みなさん大人しく従います。
ちなみに神職のお二人は白衣・袴一枚。寒いけど、もう慣れてしまったそうです。す、すごい。

参拝の間はおしゃべり禁止。二列に並んで、前の人と足の運びをそろえて歩きます。
玉砂利を踏みしめる音がじゃらじゃらと闇に響きます。
参拝路に玉砂利がしいてあるのは、“玉”は“魂”に通じていて、歩くうちに魂が清められるからだそう。これまで何気なく歩いていたけれど、ちゃんと意味があるんですね~。

手水と榊でお清めを済ませたら、いよいよ参拝。本殿に上がってござの上に正座します。暗がりの中、数メートル先の神様が祀られている場所に灯籠の光が四つ揺らめいていて、何とも幻想的です。けど、本気で寒い。

うっすらと目を開けての鎮魂。
どのくらい経ったのかも判らなくなってきた頃、しだいに寒さが和らいで…いや、気のせいかも。やっぱり寒いです。でもこの寒さに比べたら、日常の嫌な出来事なんてちっぽけな気がしてきました。

鎮魂の後はみんなで大祓詞(おおはらへのことば)と教育勅語を朗読。おしゃべりの時とは違う、厳かで真剣な声が響きます。

朗読が済んだら参拝終了です。ふたたび列をなして研修所へ。
みんなの足並みが帰りはぴったりと揃って、玉砂利の音がひとつになって聞こえます。静寂の中に響く、清らかな音。玉砂利が魂を清めるって、思わず納得です。

いったん研修所に戻ってマフラーを巻き、神職さんの案内で夜の境内をお散歩します。明治神宮の木は下から見ると、枝同士の境目がはっきり分かります。これは木々が、枝の先からガスを出してお互いに自分の存在を知らせ合い、ぶつかり合わないように成長するからだそう。木々にまで息づく和の精神に驚きです。

境内の照明はところどころに灯籠があるだけ。この日は月明かりだけで充分明るかったけれど、曇りや新月の晩は真っ暗だとか。東京の真ん中にいるとは信じられない、暗くて静かな『異世界』が広がっているそうです。

ひとしきり境内を歩き回ったら宝物殿の前の芝生でひと休み。ゆっくりと新宿の夜景を眺めます。あまりの気持ちよさに寝転がってしまう生徒さんまでいました。

研修所に戻って順番にお風呂に入ったら、一日目は終了です。
みなさん、しばらくの間おやすみなさい。。。

二日目の朝は六時半に起床。希望者のみ六時過ぎから境内を早朝散歩…のはずが、女性は全員六時前に起床して散歩に出て行ってしまいました。
ちなみに男性の参加者はいなかったそうで…。女性陣、パワフルです!!

七時からは朝の参拝。白い上っ張りを着て本殿に向かいます。雲ひとつない青空と冷たい空気、白っぽい日射しの中、皆さんの表情が前日よりスッキリしているように見えます。
爽やかな朝の参拝の後はお掃除です。一人一枚ずつ雑巾が配られ、唯一本殿の清掃を許されている掃除のプロ・鴨下さんの指導のもと、御社殿を囲う木の塀を水拭きします。
指先が凍りそうなほど冷たいバケツの水に最初は震えていた生徒さんも、汚れが落ちてきれいになっていくのが実感できるせいか、だんだん念入りに掃除するように。周りを清めているはずなのに、同時に自分も清められているような、不思議な感覚。

午前八時からは本殿で行われる御日供祭(おにっくさい)を見学しました。神様にご飯をお供えするこの儀式は1920年の建立以来朝夕の二回、毎日欠かさず行われてきたそう。

その後は荷物を整理して朝ご飯。おかゆに梅干し、ごま塩ととってもシンプルなご飯も、お腹ぺこぺこだとおいしい。食べ物が『ある』ってことがありがたいな~、いろいろなモノに恵まれた中で日々暮らしているんだな~、としみじみ感じながら授業は終了、閉校式となりました。

ケータイもおやつも賑やかさもない非日常な空間での一夜。感謝したり自分を見つめ直したり、自然を愛でたりするココロにあらためて気づかせてくれました。
授業に参加した皆さんが、神宮で感じた気持ちや寒さに耐えた強さを忘れずステキな毎日を送られていることを願います。

(ボランティアスタッフ 松本典子)