シブヤ大学

授業レポート

2008/2/15 UP

表参道ヒルズにこんな場所があったのか!!そんな驚きの広~いスペースの中で、大勢の大人が、今まで学校の授業では見たことのないような大きな紙を目の前に正座し、姿勢を正す姿がなんだか不思議で、皆さん授業が始まる前から期待に胸を膨らませているよう。

授業開始。
紫舟先生の自己紹介の後、今回のテーマである「名前」を書くということについて一言。
「美しい文字というより、文字そのものを表現しましょう。名前を書く中で、その名前とどう向き合うか考え、自分だけの表現で、自分の手で生み出していってほしい。その中で、自分の今までの人生に合ったタッチを探していってほしい。」と。
なんだか難しいそうだけど、やっぱりなんだかワクワクする・・・・。

今まで新聞に定期掲載された紫舟先生の作品を見せて頂いた後、書の始まり。

といっても、すぐには書けません。
今回使用された紙は“画仙紙”といって、元々絵を描くものなのだそう。そのため、墨汁ではなく、墨を摺った方がきれいに書けるということで、静寂の10分。
やはり墨を摺る時は皆さんピシッと背筋が伸びていて、心も静かに。
久しぶりに墨を持った方も多く、周りの人のやり方を確認しながら、ただただ無心で手を動かす
――― 「無」の時間ですね。

そしていよいよ書の始まり。まず、自分の名前の中でどの文字を表現したいかを決め、通常の書き順で書くことから始めます。その後、

●横に太く
●縦に細長く
●強弱をつけて
●全体的に丸く
●激しく見えるよう、叩きつけるように
●書き順を逆にして              

等々、次々に変化する書き方に対し、すらすらと書く方もいれば、う~んと悩みながら一呼吸おいて書く方も。書いている生徒さんの様子は、静かな中にも熱気が溢れていたように感じました。途中、利き手とは逆の手で書く方法にも挑戦しました。皆さん持ち方から戸惑いながらも、必死に書く姿が印象的で、どの字もどんどん味のある字になってきていました。
また、文字の「へん」と「つくり」を分けて書く方法や、「へん」だけを大きく、逆に「つくり」だけを大きく等と、漢字そのものを変化させて書く方法もあり、1つの文字でもこんなに様々な手法で変えて書くことができるのかと驚き、また同時に原型や書順にとらわれない書の深さを感じさせられました。

書いていくにつれて、大きな紙も2枚目に突入される方が続出!!
どれが一番自分に合った表現方法であるかを試行錯誤しながら書き進めていく中で、どんどん自分の名前に対する印象を、良い意味で変えていった方も多かったのではないかと思います。

書く時間が終わった後に、次はどれが一番自分の伝えたい事と合っていたか、沢山の表現方法の中から1つの文字を探す作業へ。
先生曰く、「上手く書けたということではなく、表現したいことと表現物が同じ物を選んでください。」とのこと。簡単なようで難しい。。。ここが一番の悩みどころだったのではないでしょうか。

選んだ後はお隣同士で名前の由来や、こう表現したかったという自分の想いを話し合う時間です。
初対面の生徒さんが多い中でも、とても盛り上がってお話されている姿がたくさん見られ、今までの静けさとは打って変わって和やかなムードに。嬉しそうに自分の名前のことから、自分はこんな人なんです、といった深い話までされている方もいらっしゃいました。

最後に先生から「名前は人生で一番最初に与えられたもので、多くの場合一方的に贈られてくるもの。今日自分で考えて難しかった以上に、ご両親や周囲の方がもっともっと考えてつけてくれたものなんです。今日はそのことと向き合う時間にしてほしかった。」というお話がありました。

たしかに名前は大切な自分にしか与えられなかった贈り物。
私自身、小学校の時に生い立ちの記を書いた時くらいしか自分の名前についてじっくり考えたことがなかったので、改めて向き合うことのできたこの時間がとても貴重で、もう一度深く考えてみたい気にさせられました。

授業終了後に、大事そうに画仙紙をしまう生徒さん達の表情がなんだか晴れやかだった気がするのは、きっと何か新しい発見に少なからず心が躍った証拠なのではないでしょうか。

また是非お家で広げて、ご家族と語らうことも素敵なのでは、と思ってやみませんでした。

(ボランティアスタッフ 森川祐美子)