シブヤ大学

授業レポート

2023/5/25 UP

「継承の場面」 その7
社会活動のちから~NPO法人ザ・ピープルの場合~

シリーズで開催している「継承の場面」、今回は第7回目です。
今日の授業は「社会活動のちから~NPO法人ザ・ピープルの場合~」、社会活動の継承と聞くとどんなことを思い浮かべるでしょうか。先生は福島県いわき市から2名、NPO法人ザ・ピープルの吉田恵美子さんと温泉旅館16代館主・里見喜生さんです。

雨の降る代々木上原の社会教育館に生徒の皆さんも集まってきました。今日は、お母さんに連れられて小学2年生の双子のお子様たちも生徒として参加してくれます。
最初に自己紹介で授業に参加した動機を聞いてみると、「教育系の活動をしている」「住んでいるところで活動をひろげたい」など、それぞれがNPOに近い活動に関わっていたり課題を感じていたりする生徒さんもいました。

第一部では先生の活動をお聞きします。まずは里見さんのお話からです。福島県いわき市で長く続く温泉旅館の16代館主であり、東日本大震災以後はNPO法人を作りながら様々な社会活動を続けてきました。
震災当時の津波被害や原発事故を通して、避難所での生活や障害を持つ方々とその家族の方々の課題と向き合いながら地域で活動を拡げ、障がい者の居場所づくりを行うNPO法人を作っています。
旅館だけではなく地域での活動を拡げてきた里見さんですが、始めた当初から「こんな活動をして行こう」と考えていたわけではなかったとのことです。目の前にある課題を地域の人たちと協力しながら進めていく中で、結果的に現在の形になったとお話がありました。大きな災害を受けて、地域の方々とのつながりを強めながら続けてきた活動を里見さんはやさしい語りで伝えてくれました。

次に吉田さんの活動紹介です。吉田さんはNPO法人のザ・ピープルの活動を30年以上続けてきています。ザ・ピープルでは地域での古着リサイクル活動を行っており、チャリティショップでの売上をNPO活動の資金源にしており、自分たちの活動資金を自分たちで生み出しながら様々な活動を続けてきました。
また、東日本大震災以後は農家の人々が原発事故を受けて耕作放棄を余儀なくされるなどの状況から、ふくしまオーガニックコットンプロジェクトを始めました。コットンから派生するものづくりすべてをNPO法人の中で実施していくのは難しいため、栽培等はNPO法人の市民活動で、そのコットンを使用したものづくりは起業をして利益をとる、といった形ですみ分けをしています。ただ、そんな吉田さんも課題を感じているようです。

吉田さんが市民活動の中で感じている課題は、「想いの伝達」「財源の枯渇」「次世代の育成」の3点でした。
長く続けているからこその悩みや様々な変化への対応など、活動をつないでいくために知恵が必要だと思っているが、生徒のみなさんの声も聴きたい、と吉田さんは締めくくりました。

休憩をはさんで、第二部は対話の時間です。
里見さんや吉田さんのお話を聞いて、感じたことや聞いてみたいことを共有していくのですが、生徒さんたち・先生たち・スタッフも一緒になって一つの円になり意見を交換していくと、自然と「課題をもって社会活動に向かっていく人たち」の集まりとなってフラットに相談や質問が交わされます。
それぞれ活動の分野や地域はバラバラでも、共通する課題や想いがあり、共感することも多く出てきます。

対話の中で出てきたテーマを挙げていくと、
・さまざまな事業の始まりは内側から?外側から?
・集まる場所などの確保が難しい
・若い人たちがどのように入って来てくれるのか
・財務と想いの両立、それを次世代につないでいくこと
などなど。一つの話題からほかの生徒さんや先生の課題につながり、さらに別の生徒さんから意見が出るなど、活発な対話になりました。

様々な課題が出てくる中でも共通していたのは「人とのつながりのなかから周りと連携することで次につながる」「外側の目を入れることも重要」といったことでした。

先生や生徒さんたちの対話の中からは、社会活動の中で課題も持ちながら前に向かっていきたいという確かな気持ちを感じました。
対話を通してたくさんの視点を受けて、生徒さんも、先生も、スタッフも、次につなげるヒントをもらったように思います。ここで作られた人と人とのつながりも今後のそれぞれの活動につながっていくのかもしれないと思うと少しわくわくしてくる、そんな授業になりました。

(レポート:菅井玲奈、写真:竹田憲一)