シブヤ大学

授業レポート

2023/5/18 UP

考える虫になろう〜身近な疑問を大切にするには〜

今回の授業は、「考える虫になろう~身近な疑問を大切にするには~」と題して、アメリカに住む講師の矢島祐作さんとオンラインでつなぐかたちで始まりました。

授業に先立って、授業コーディネーターの大澤さんから授業を企画した動機について説明がありました。きっかけは、ロシアとウクライナの戦争だったと言います。ニュースを見てまず頭に浮かんだのは、「なんで戦争が起こってしまうのだろう?」という素朴な疑問だったという大澤さん。
戦争という遠く感じてしまう出来事も、身近な疑問から考えられることがあるはずだと思い、矢島さんに講師を依頼したそうです。

授業は、参加者の皆さんの自己紹介から始まりました。
「そもそも疑問の持ち方がわからなくて参加した」
「子どもに”なんで?”と聞かれるけど答えられないことが多い」
「疑問に思ったことを勇気出して口にしたら感謝された経験から、疑問を持つことについて考えたいと思った」など多様な参加動機が印象的でした。

前半は、矢島さんとコーディネーターの座談会スタイルで行われました。
矢島さんは、現在アメリカルイジアナ大学に所属し、イェール大学などでも教鞭をとりながら、日常に埋もれている疑問を、科学、哲学などの学問から複眼的に研究されています。
矢島さんの研究には2つの研究があるそうです。
1つは、短絡的な問いをベースにした研究。「どうして勉強しなくてはいけないの?」「偏差値が高い学校=良い学校なの?」など、普段考えないまま思い込んでいる問いを、複数のデータをもとに統計的にファクトを証明する研究です。
もう1つは、長期的な問いをベースにした研究。「アメリカは人種差別が多いか?」という問いは、事実としてのデータと人々の感覚にズレがあるそうです。人種問題は過去の話であるという感覚は実は白人的な思考で、データを見ればまだまだ多いのが事実。人々が自然と持ってしまう感覚は、実は白人の視点で出される教科書によってつくられたイメージであることを証明するなど、アメリカに住むアジア人としてのリスクも背負いながら研究されていると言います。

授業のタイトルにもある「考える虫」という言葉についてもお話ししてくださいました。考える虫とは、一言で言うと子供目線で常識を疑うこと。大人になるにつれ、頭が常識でいっぱいになり逆に見落とすことがたくさんある。大変だし疲れるからと考えることをやめずに考え続けると、自己理解が進み、自分らしくプラスの感情を持てるようになるというお話もありました。
また、人はついストレスを感じることから逃げて一時的な快楽(お酒や愚痴)でごまかしてしまうこと、深く考えられる人が増えてしまうと国にとっては実はマイナスでもあることなどについてもお話があり、参加者の皆さんも深く頷きながらお話を聞いていました。

興味深かったのは、戦争と渋滞は似ているというお話。40m間隔を開けると渋滞は起きないというデータがあるのにも関わらず、どうしても人は早く前に進みたいと間隔を詰めてしまうそう。戦争によって生まれる被害についてのデータがいくらあっても、人は戦争をしてしまう。どんなにデータがあっても、人はデータ通りには動かないこと、数字を見ながらも心理的な部分を忘れてはいけないというお話が、データによって様々な現象を証明している矢島さんの口から話されていたことが印象的でした。

参加者からの質疑応答の時間を挟んで、後半はグループでの対話の時間です。
1つ目の「日常で感じるネガティブな感情(モヤモヤや違和感)とどう向き合ってる?」という問いには、「ノートに書き出すようにしている」「人に話して自分でも気付かなかった感情を言語化する」などが出て、皆さんそれぞれの方法で向き合っていることが分かりました。
2つ目の「日常で感じる疑問を大切にするために、どんな時間や機会がほしい?」という問いには、「自分の気持ちを話せる今日のような時間」といった声が多くある一方で、「自分のことばかり考えていても自分の中に閉じこもってしまう。あえて自分以外のことに頭を使う時間を増やしている」という方もいらっしゃいました。

最後に、講師の矢島さんから、ネガティブケイパビリティについてお話がありました。ネガティブケイパビリティは、「正解のない問いや状況に対しすぐに答えを出そうとせずに、問いを抱え続ける能力」のこと。私たち一人一人がネガティブケイパビリティを鍛えて、1つの答えを出したくなってしまう気持ちを抑え、大事に問いを持ち続けることができれば、もっと自分らしく生きられる社会になるのではないか、というお話で授業は終了しました。

来年矢島さんが帰国された際には続編としてワークショップも企画したいとのこと。ぜひ楽しみにしたいと思います!

(レポート:遠藤香&大澤悠季、写真:菅井玲奈)