シブヤ大学

授業レポート

2023/2/1 UP

能楽エクササイズ~声と体幹の鍛錬をしよう〜

今回教わるのは、能楽エクササイズ。恵比寿社会教育館の和室に集まります。 先生は能楽師・シテ方宝生流の小林晋也さんです。

はじめの一時間は座学。まず参加者がひとりずつ自己紹介をして、今日参加した動機を一言ずつ話していきます。能楽の舞台は見たことない、学校の芸術鑑賞で見たくらい、というような参加者が多そうです。
伝統文化に興味がある方、アニメ『犬王』がきっかけで来た方、足腰を鍛えるのに参考にしたい方・・・、それぞれの思いを話すことで授業への熱が高まったようでした。 自己紹介のあとは、能楽の歴史や用語について学びました。
能楽の演目には「神・男・女・狂・鬼」の5種類があること。能と狂言は別のものではなく、能楽のなかにシテ・ワキ・囃子・狂言があり、それぞれに役割をもっていること。
小林さんがホワイトボードに書き出しながら説明します。みんな頷きながら熱心にメモを取っていました。

さて、休憩をはさんで、後半は謡(うたい)と仕舞(しまい)の体験です。全員で協力して座卓と座布団を片付けたら、配布されていたレジュメを手に説明が始まるのを待ち構えます。
張り切って正座している人が多いのを見た小林さん、話のあいだはラクにしていいですよ、無理しなくても大丈夫、とリラックスさせてくれました。
正座は、おしりが床面にじかにつかず足の上にあって、腰から背中が伸びるのが良いのだそう。
足がつらいようならあぐらでもいいし、椅子に座ってもかまわないので、座布団をはさんだりしておしりを上げて、背筋が伸びれば大丈夫。正座に慣れていない身にはありがたいアドバイスでした。

謡体験は、はじめに小林さんがレジュメにある『高砂』の「待謡(まちうたい)」を一度詠み上げました。ぐっと力強く抑揚のある声が響くと、聴き洩らすまいとみんなの意識が集中します。
字の読み方を確認して、サシ・詞(ことば)・拍子合の違い、緩急の付け方、息を止めるところなど丁寧に教わります。
文にすると3行ほどの謡ですが、書かれていない情報がたくさんありました。みんなで何度か練習し、リズム感をつかみます。
鼻濁音や拗音、生字(うみじ=母音)に気をつけて発声するのが、ふだんの話し方とはまったく違って新鮮でした。


最後は仕舞体験です。『高砂』の、さきほどの謡とは別の部分を使い、動作を学びます。
腰を入れて立つ基本の姿勢から。両足をそろえ、おしりを突き出してからクっと背をのばし、手指は丸めて腰の横に。


小林さんが一人ずつ見て回ります。それを待つ数分でも姿勢を保っているのが長く感じて、「体幹が鍛えられている・・・!」と思いました。

膝は伸ばしたまま。足のつま先は閉じましょう。背中もっと立てて。小林さん、顔はニコニコされていますが、手にした扇子でピシっと指摘しながら参加者の姿勢を直していきます。
全員の立ち方をチェックしたら動きの説明です。左足から歩を進めて、小林さんのカウントにあわせて前へ、後ろへ下がって、それから腕を曲げて、しゃがんで。
1分にも満たない短い動作なのですが、腰を入れてゆっくり摺り足で動くのはとても緊張感があり、ふだんとは違う筋肉や力を使っていることがわかりました。
最後はカウントを取らずに、小林さんの謡にあわせて通しました。
 
終わるとみんな緊張がほどけて大きなため息、そして笑顔がこぼれました。
謡も仕舞も一通り覚えるだけであっという間に時間が過ぎて、参加者からはもっとやりたいという声が上がっていました。
頭も身体もじっくり使って、いい運動になった一日でした。

(レポート:武田 環)