シブヤ大学

授業レポート

2022/6/7 UP

小説のカタチ~日本語で書くこととは?~

初夏の香りのする晴天の土曜日。 代々木上原にある社会教育館に、小説家のグレゴリー・ケズナジェットさんにお越しいただき、お話を伺いました。


前半はケズナジャットさんが日本語を学び始めたきっかけや、学び始めたときに感じた日本語の印象について、日本語と英語の違いや、学習方法、日本語で小説を書くことを決断したきっかけ などについて、お話いただきました。


先生は、日本語を高校生の時から学び始めたそうです。まるで未知の世界がその奥にあるように感じられたと語ってくれました。


学ぶ過程では、1人称の多様さ(英語だと " I " しかないが、日本語だと「私」「僕 」「俺」「吾輩」などの様々な言い方がある)、丁寧な言葉使いの違い(敬語、タメ口、謙譲語)など、日本語特有の特性を感じていたそうです。


そんな戸惑いがありつつも、村上春樹などの、英語ですでに読んだことのある小説を日本語で読み始めつつ、精読していく習慣をつけていきました。次第に文学誌を読むようになり、日本語を母語としない、現代作家たちの活躍をしり、日本語で小説を書いてみようと思われたそうです。


ケズナジャットさんのお話のなかで、「日本語で書く時に、自分の中に表現のストックや語彙力がまだあまり無い分、言語・言葉に、より真摯に向き合うことができました」「全ての創作活動において、みんなと違うことをやる勇気がとても大切です」という二つの言葉が印象的でした。


自己紹介の後は、グループワークに移ります。


例文をもとに「1.どのような文章が翻訳しやすいのか?」「2.翻訳しにくいところは?」「 3.翻訳しやすくするために、どのように書き換えるのか?」についてグループに分かれて、ディスカッションを行いました。


皆さん初対面ながらも打ち解けた雰囲気で、ディスカッションを楽しんでいました


みなさんが翻訳について考えた内容としては、このようなものがありました。


「チカチカ」等の擬音語や擬態語や「ほっこりとお寛ぎください」などの日本語独自の言い回しやニュアンスのある言葉を使わずに表現するには?


「馬脚を現す」などのことわざを言い換えるには?
詩の中で言葉のリズムや行間を表現すること 、曖昧性が含まれている文章を書き換えるポイントは?


改めて、翻訳するというのは、ただ言語を置き換えるのではなく、その文章のもつ背景や文化、何を表現したいのかなどを理解し、もう一度文章に起こす想像力(創造力でもある)が必要なんだな、と感じました。


グレゴリーさんのあたたかな雰囲気と言葉に包まれて、なごやかに進んだ本日の授業。


授業を通して、言語に対しての向き合い方や、日本語と英語それぞれの表現の魅力や違いについて考える時間を持つことができました。


また普段触れることの多い日本語ですが、意識してみると、自分なりの表現のくせがあったり、 惹かれる言葉に特徴があったりして面白いな、と感じました。


それらの癖を一度整理して、言語や表現の仕方の違いを受け入れること、そして理解を深めて新たに生み出すこと、そんなところに第二言語で表現することの魅力があるのかもしれないな、と考えました。


小島知佳