シブヤ大学

授業レポート

2022/1/28 UP

【オンライン開催】「知らない」から「知っている」へ
~ そしてどうする? ~シブヤ大学版『ごみの学校』

「そもそも、ごみって何なんだろう?」
他人から見るとごみに見えても、自分にとっては大事なモノ。
ずっと家の中にあったモノなのに、断捨離するとごみに変わってしまう。

今回は、ごみに関するデータや史実を広く知り、現在のごみ処理の課題を自分事として考えてみるオンライン授業でした。

講師は、廃棄物処理業者の社員として、ごみ処理の現場をずっと観察してきた寺井正幸さん。

「まだ使えるのに大量に捨てられるモノやリサイクルシステムが全くできていないモノがたくさんある。このままだと、ごみの実態について知られることもなく、何が問題になっているかを理解している人が少ないまま、月日だけが過ぎていってしまう。」

自分にできることは何だろうか?と考えた寺井さんは、個人で「ごみの学校」を立ち上げて、ごみの実態を知ってもらう活動を始めたそうです。

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最初に、全国から集まった参加者から、ごみのどんなことに興味を持っているかをお聞きすると、「分別方法を知りたい」「ものづくりの視点から考えたい」「引越しで大量のごみを出したことで興味を持った」「どうすればごみを出さずに生活できるかを探求したい」等、様々な観点をお持ちだと分かりました。

『ごみ』とは何か? ここから講義が始まりました。

日本では、ごみは廃棄物処理法という法で定められていて、その判断基準は、所有している人が使ったモノで、他人に有償で譲り渡すことができないモノ。 要は、人がお金を支払って手に入れたいとは思わないモノを捨てるとごみになる。

近年では、フリマアプリを使って個人間でモノが売買されていますが、これらは所有者が他人に有償で売買できることから、ごみではなく有価物になるのだそうです。

また、私たちは、家や職場でごみ(生活ごみ)を出していますが、1日あたりの生活ごみの量はどれくらいだと思いますか?

なんと1人が出す生活ごみの量は、1日920g、年間で336kgにも及びます。





もう少し詳しく、統計データから自治体別の発生量を見ると、不思議なことに47都道府県の中で人口が1番少ない鳥取県の1人が出す生活ごみの量が最も多く、家庭ごみは下から5番目、事業系一般廃棄物は1番多いことが明らかです。

種類別の統計によると、平成30年度に発生したごみの量は、生活ごみが4,277万トン、民間企業から出る産業廃棄物が3億7,883万トンで、産業廃棄物が生活ごみの9倍です。



ごみ処理の流れや世界との比較などの統計を用いた寺井さんの解説は、初めて聞く内容ばかり。


次のテーマは、日本のごみ処理の歴史についてです。

遡ること200年前、江戸時代の東京は、大都市のパリやロンドンと比べてかなり清潔で、ごみ処理に関する法律はありませんでした。というのも、城下町に店をかまえる業種の上位6種が、資源の有効活用に関わるものだったからです。提灯の張替えや下駄の歯入れなど修理する道具屋や古着屋、古銅鉄商、質屋、貸衣装屋、くず屋といった業種によってリサイクル型社会が形成され、修理しながら繰り返し使い続ける生活習慣の中では、使えるものは、ごみだと思うことが少なかったようです。



明治時代の1900年になると、感染症の予防対策として「汚物掃除法」が制定され、土地の所有者が汚物を掃除し清潔に保ち、自治体が汚物の処分を行う義務が定められました。

このように120年前においても、ごみ処理の問題はほとんど見受けられませんが、戦後、1970年以降の高度経済成長期から、公害問題の発生や、プラスチックや食品くずなどの生活ごみの激増で、1990年以降になって、各種リサイクル法が制定されていきました。

現在、資源として再生できるごみ、燃やせるごみ、燃やせない埋め立てごみに大きく選別され、資源ごみとして出す、瓶・缶・紙・ペットボトルのリサイクル率は85%を超えています。そんな中でも、ごみの問題があるそうです。ここから、寺井さんの授業の本題です。

どういった問題があるのでしょうか?

それは、再生利用されないまま社会的に 価値を見出せず取り残されているごみの多くが、
「焼却・埋立・海外輸出」されており、そこに問題が見え隠れしているとのことです。



日本は、国土が狭いので、燃やして、ごみの体積を10分の1に減らして埋め立てています。しかし、あと20年程度で埋め立て処分場が満杯になると試算されており、都市のごみの一部が地方で処分されています。

また、回収しても様々な素材が混ざったプラスチックごみは再資源化できず、海外へ輸出して埋め立てられています。しかし、そこで放置されたごみが、風で飛んでいき環境汚染の一因になっています。

さらに、古着は76%が焼却されています。異素材でできた衣服は分別に手間がかかり、繊維原料の消費過多の状態で、衣服になっても再生利用されずに焼かれてしまい、価値を生み出す仕組みが今のところありません。



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最後に参加者の皆さんと一緒に、授業を通して感じたことや何を変えていけばいいか意見交換をしました。
以下はご意見の一例です。

・ごみは、物価の低い地方や海外に流れていくことを知り、経済と切り離せないものだと気付いた
・買うときにも捨てるときにも、もう少し考えてから行動に移したい
・企業も先のことまで考え生産販売することが必要だと思う
・国内外において、ゴミを出す側と受け入れる側の両者が、利益を得られるフラットな関係性が必要なのでは?
・もしも、リサイクルできないゴミの受け入れ先がなくなったら、どうなるんだろう?

知ることが学びのきっかけになる。

なぜなら、知ることによってモノの見え方が変わってきたり、更に興味を持ったり疑問が浮かんできて、もっと知りたい・考えたいって思うから。

身近にあるごみから、知ることの大事さを学んだ授業でした。



(授業レポート:ゴトウ ナオミ)