シブヤ大学

授業レポート

2021/3/23 UP

【オンライン開催】「100年続く仕事、700年続く伝統」新しさを生む担い手の"ふつうの毎日"

今回の授業は、セルリアンタワー能楽堂から直接生配信。昨年夏に開催した授業「となりの能楽師から学ぶ、古くて新しい考え方」と同様に、Bunkamura「渋谷能」とシブヤ大学とのコラボ授業です。

しかし!今回はまたひと味ふた味違います。
今回能楽堂にいるのはなんと、岐阜の老舗和菓子屋「田中屋せんべい総本家」の6代目、田中裕介さん。
更に、「彩雲堂」(島根)6代目の山口周平さん、「乃し梅本舗佐藤家」(山形)8代目の佐藤慎太郎さんの老舗和菓子屋跡取りのおふたりと、能楽師シテ方金剛流の金剛龍謹さん(京都)がzoomを通して、先生として登壇してくださいました。

田中さん、山口さん、佐藤さんは、100年以上続く全国の老舗和菓子屋の跡取りにより構成されたグループ【本和菓衆(ほんわかしゅう)】のメンバー。
金剛さんは、30代から40代の次世代を担う若手能楽師にスポットをあてた【渋谷能】に出演しています。

代々続く日本の文化・伝統を家業として受け継ぎながら、新たな挑戦や試行錯誤を重ねている4名の先生方は、日々どんなことを考え、生活しているのだろう?

そんな疑問から、今回は、普段なかなか聞けない担い手たちの“ふつうの毎日”を伺いました。
このレポートでは、その中から一部お届けします。

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―繋がれてきた「伝統」と「挑戦」

「田中屋せんべい総本家」の田中さんは、まず今年のバレンタイン商品をご紹介くださいました。その名も「YES!SENBEI QUN」。代表銘菓「みそせんべい」に、最近流行りの「きゅん」の可愛らしい文字が焼印されています。
次にご紹介いただいたお菓子は「百人一首三部作」。こちらは、「かささぎの」「むらさめの」「しろたえの」と百人一首の名を冠した、チョコレートを使った3種類のおせんべいです。チョコレートのお菓子に百人一首の句を取り入れることで、より多くの人に日本の文化を知って貰いたい、という想いが込められているそうです。

「彩雲堂」の山口さんから今年のバレンタイン商品としてご紹介いただいたのは、地元島根の紅茶専門店とコラボしてつくった「T4U」というお菓子。4種類ある紅茶のフレーバーごとに瓶に分けられた錦玉(きんぎょく)がなんとも可愛らしい一品です。紅茶の種類によって色や味が違い、食べ比べする楽しさもあるお菓子です。

「乃し梅本舗佐藤家」の佐藤さんからは、まずお店の看板商品「のし梅」についてご紹介いただきました。のし梅とは、竹の皮に挟まった、細長い梅のお菓子のこと。代々受け継がれているお菓子で、今年でなんと200年になるそうです。そんななか、佐藤さんの「もっとのし梅を面白く受け取ってもらいたい」との想いから新たに生み出されたのが「玉響(たまゆら)」という、チョコレートの羊羹のうえにのし梅乗せた和菓子です。
他にも、のし梅をシロップにして料理のレシピ本とセットで販売したり、お酒と和菓子のペアリングを提案したりと、次々と新しい取り組みをされています。

能楽師シテ方金剛流の金剛さんは、2歳のときから能のお稽古を始めて、以来30年程能楽師として活動されています。五流派ある能のうち、唯一東京ではなく、京都に拠点を置いていることが金剛流の特徴。来月「渋谷能」で披露する「内外詣」という能は、金剛流にしかない珍しいものだそう。舞台活動以外にも、学校の巡回公演をしたり、大学で非常勤講師をしたり、若い人への普及活動も行われています。

―「継ぐ」ということ。
それぞれのお仕事を「家業」として継ぐなかで、皆さんどんな想いを抱かれているのでしょうか。

ゆくゆくは宗家となる立場である金剛さんは、術の伝承が第一でありながらも、渋谷能などで他の流派と舞台と共にするなかで「自分の舞台はこれでいいのか」と考えることもあるといいます。
自分自身が持つ体格や声質といった「個性」がある。そのなかで「もっとこういう表現をした方が良いのでは」と考える部分と、「変わらず大切にしたい」というふたつの相反する想いがある、と言います。守るところと変えていくところのバランスを図りながら、変えてみたり戻してみたり試行錯誤を繰り返しているそうです。
金剛さん曰く、能とは『正解は無い、それが奥深い』。

また、この「正解が無い」ことは和菓子にも共通して言えることだといいます。
和菓子屋さんにも、能の「流派」と同じように生まれたときから「お店」があります。

佐藤さんは以前、「継ぐこと」を「受け継いできたお店というハコに、同じ情報を詰め込んで次の代に繋ぐこと」だと思っていた、と語ります。だから「継ぎたい」とは全く思わなかったそうです。しかし、修業先で修業するうち、同じお菓子にこだわる必要は無く、その時代、土地ごとに目の前のお客さんが喜んでくれるものを造っていければ良い、と気づいたそうです。

 佐藤さん『銘菓として残っているものは、削がれていく中で一番“すごいもの”だからこうして残っている。その凄さを再評価してもらう仕事が出来ていれば良い。変わっても変わっても、残り続けるものが僕らの本質。』
 田中さん『逆にいえばどんどん変えてもいい。勝手に残るから。あかんな、と思ったら戻せばいい。変わらないことの方が怖い。自ずと変わってくる。』

能も和菓子も長く続く文化でありながら、いまだ「正解は無い」。
「継ぐカタチ」にこだわりを持ち過ぎず、伝統を包容しながら変化し続ける。
新しさを生む担い手たちの頭の中が少し垣間見えたお話でした。
同時に、大きな時代の変遷を得ながら、何百年も日本の文化として残り続けている「能」や「和菓子」は、日本人の“本質”なのではないかとも考えさせられました。

―五感で感じる。昔の暮らしに想いを馳せる。
更に話は「影響を受けたり、ヒントにしていることは?」というテーマへ。

金剛さんは、武道と能には親和性があると考え、身体の使い方を学ぶため「居合」を学んだことがあったそうですが、そのとき先輩から「本当に影響を受けているのは、日ごろ触れている無意識のものなのでは」と指摘を受け、腑に落ちたといいます。
現代は、洋風文化が身の回りに当たり前にあります。和室がない家も増え、床文化からイス文化になったりと、生活の下地が変わっていくなかで、無意識のうちに影響を受けている部分があるのでは、と気づいたそう。

暮らしの変化に影響を受けているのは和菓子も同じ。
山口さんは、最近の気づきとして、「灯り」と「時間」のふたつの発見を共有してくださいました。
 山口さん『蝋燭の灯りのもとで見る和菓子と現代の蛍光灯のもとで見る和菓子は、また違って見えるんじゃないか』
『着物を着ているときの足の運びは全然ちがう。昔の人の歩幅はすごく小さい。時間の流れも違うんだろう』
・・・なるほど。昔の人たちの生活をベースに視点を変えてみると、共通しているものでも見え方、受け取り方がまた変わってきます。

佐藤さんは、自然のなかからお菓子づくりのヒントを得るといいます。
同じ景色をみたとき、葉の色づきの違いを気付けるかどうか。
そうやって自然の起伏を受け取ることを『生きているときの感度』という言葉で表現されていたのが印象的でした。
季節の和菓子をつくるにしても、その季節のその場所の温度感を実際に体感した人がつくる和菓子と創造でつくる和菓子は何かが違うはず。こうした経験がお菓子づくりに活きてくるそうです。

―「仕事」とは。
最後、「仕事をどう捉えている?」という質問に対して、

金剛さん『あまり「仕事」と考えていない。楽しんで打ち込めている、有難い仕事』
山口さん『むしろ仕事場じゃない、無意識のところでアイデアが出てくるもの』
田中さん『次世代に繋いでいくことが一番大きな仕事で、お金を稼ぐとか、会社を大きくするとか、良い暮らしをするのは二の次と思っている。』
佐藤さん『自分はお菓子を作るというちょっと特殊な技能を持っている。作れない人の代わりに造っている。仕事とはその「ありがとう」の対価。』
とそれぞれお答えいただきました。生活、生き方そのものなのだなあ、と実感…。
みなさんの言葉の端々から、自分自身が「楽しい」と思ってお仕事をされている、その熱量が伝わってきました。
言葉通り、終始笑いの絶えないあたたかなオンライン授業となりました。

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家業として受け継がれている「能」や「和菓子」。
授業を通して、代々引き継がれてきた伝統や文化に新たな要素を取り入れることで、新しい価値を生み出し、次世代へ繋げようと試行錯誤をされている担い手たちの姿が垣間見えました。
と同時に、今後ますます進化しもっと身近になってきそうな「能」と「和菓子」ふたつの未来になんだかワクワクしてきます。
自然のなかの気づきを大切にしてみたり、今の当たり前の暮らしを昔の人の視点から見てみたり、まずは気軽に挑戦してみて戻してみたり。
私たちの日常をちょっと楽しく、ちょっと軽くするようなヒントがたくさん散りばめられた授業でした。

(レポート:小野多瑛)