シブヤ大学

授業レポート

2017/11/8 UP

まちの小さな企業を訪ねて@金属加工
〜ものつくりの地平を広げて〜

「今日ここにいらっしゃる皆さんの人数は、ちょうどうちの従業員の人数と同じです。うちの従業員はたった7人しかいません。7人で10のプロジェクトを回しているのです」

授業はそんな先生の言葉から始まりました。
7人で10のプロジェクトなんてどうやってどのように仕事を回しているのだろう。
皆さんそう思われたのではないでしょうか。この疑問はこの後の授業の中で解消されていくこととなりますが、
同時に私たちは、自らの得意分野に限らず様々な分野に挑戦していこうとする
西川さんの仕事への向きあい方に強く心をうたれていくこととなります。



今では現在様々なプロジェクトに携わられていますが、
仕事を始めた当初からこんなにもハングリー精神があったわけではなかったそうです。

大きな転機が訪れたのは、リーマンショック後に売上減に直面した時。
会社で所有している機械は老朽化し、従業員も高齢化していく中で、
安定した供給者を求めている取引先の企業にとって魅力となるものがなくなっていきました。

「何をしてもダメなときは、視点を変えてもっと何かを頑張らなければいけない」
 そう考えた西川さんは、自分に関係のなさそうなセミナーにも足しげく通い、
そこで出会った人々とのつながりが、徐々に西川さんの仕事観に影響を与えていきました。

自分の会社だけでは達成することが難しければ、同じ目的をもった仲間を作ればいい。
協力し合える仲間が増えれば、どんどん仕事の幅が広がっていくのではないか。
「できないからチャレンジしない」ではなく、「できないならみんなでやろう」
西川さんの考え方は徐々に変わっていきました。

ここでキーワードとなるのが、「マスターマインド」。
「マスターマインド」とは、二人以上の同じ目標を持った人間の集まりのことであり、
また、それらの人々の間での波長の合った思考のバイブレーションのことを意味しますが、
この言葉は授業の中で繰り返し使われ、数々のプロジェクトを行う中で
西川さんの考え方の基礎となっていることがよくわかりました。
 
転機が訪れた西川さんにとって、最初の成功例かつ失敗例となったプロジェクトがINUプロジェクト。
ここから授業は第二章に入っていきます。

INUプロジェクト

 INU(I need you.)プロジェクトは、
「障害を持っている人も一緒に何かを楽しめる空間を作りたい」そんな漠然とした動機からスタートした
プロジェクトだといいます。具体的には、車椅子使用者用のボーリング投球機の開発をするというプロジェクトです。
 当初試作版が完成した際には、需要が少なく、日の目を見ることはありませんでした。



しかし、それから暫くの年月がたったある日、とあるNPO法人(障害者支援団体)の目にとまり、
是非一度それを使って皆でボーリングを楽しんでみたいと連絡が入ったそうです。
これまで、新しいプロジェクトを始めたものの、失敗に終わっていたと思っていた西川さんは大変驚かれたといいます。
後日、投球機を使って障害を持った子どもたちが生き生きとした顔でボーリングをしているのを見て、
西川さんはとても感銘を受けたそうです。子どもたち、保護者、支援をしている人たち、そして自分たち…。
何気ないきっかけから始まったこのプロジェクトは、
「技術がこれだけの人を笑顔にすることができるのだという達成感」に変わったといいます。

そして、また、このプロジェクトから西川さんは大きな教訓を得ることとなりました。

○「ものづくり」+「サービス」
ニッチな分野のものづくりに携わる時、必ずしも成功に終わるとは言えません。
需要がなく、せっかく作成したものの、日の目をみることなく終わってしまうこともあります。
そんな時大切なのは、現状に満足するのではなく、色々な方向で今後の展開を検討していくこと。
現在、次世代投球機の開発だけでなく、障害を持った子どもたちと保護者が一緒に楽しめるサービスを提供するという新たなステージがすでに動き始めています。
INUプロジェクトの今後がさらにどのように拡大していくのかとても楽しみです。

交場プロジェクト
 このプロジェクトのきっかけは、東京都の産学連携デザインイノベーションにあったといいます。
東京藝術大学の学生からの「これ、作れますか?」という提案を受けて、
西川さんが技術的な指導や支援をしながら、
完成に向けて共に取り組んできた中で出来上がってきた数々の作品は今やあらゆる方面で称賛を得ています。



このプロジェクトの中で、キーワードとなるのが

○「あるもの」と「あるもの」をつなげていくこと
○共生すること
だそうです。

 学生たちは高い企画力とデザイン力を持っています。
一方、西川精機製作所には、それを実現するための高い技術力があります。
どちらか一方のみでは完成しないアートが、
これら二つを混じり合わせることで完成度の高い作品が出来上がるのです。

プロジェクトSAKURA
 きっかけは、西川さんのアーチェリー経験だったそうです。
外国製のアーチェリーが主流となっている中で、
かつての日本ブランドを生き返らせたいそんな思いで始められたといいます。

 「B to C へのチャレンジ」
ここでもまた、キーワードとなるのが、「人とのつながり」です。
ゼロから作り始めるにあたり、競技の専門家、個々の技術の専門家など
西川精機製作所にない部分を補てんしてくれる人たちがいたからこそ徐々に形になってきました。




「大企業では、受注100本単位では市場性が無いと捉えられる一方で、
西川精機製作所のような中小企業では、100本では仕事になり、1000本では事業になる。
中小企業だからこそチャレンジできるニッチな産業もある。そんなニッチな分野にチャレンジしていきたい」
という西川さんの言葉がとても印象に残りました。

1つ1つのプロジェクトには毎日関わることができるわけではありません。
曜日を決めて、ものによっては年間で少しずつ進んでいくプロジェクトもあるそうです。
 しかし、どれも「楽しい」からチャレンジできる。「楽しい」から続けられる。
西川さんは繰り返しそうおっしゃいました。
 無理難題であっても、何らかの形でリアクションできるように、
試行錯誤を重ねながら完成に向けて取り組んでいく。できないという形にはしないのだ。
出来る中での最良のスペックのものを作り上げる。



 仕事論ではなく、正に人生論だなあと感じました。
2時間にギュッと凝縮された仕事に対する西川さんの熱い思いを堪能でき、
とても濃い時間を過ごすことができました。

(レポート:谷口理沙、写真:松田高加子)