シブヤ大学

授業レポート

2009/10/20 UP

キャットストリートの“知られざる深イイー人たち”

原宿表参道キャンパス文化祭の裏ツアー
「キャットストリートの美味しい散歩」に参加しました。

この授業は、キャットストリートにあるガレットレストラン「La Fee Delice」のマネージャー、MASAさんと一緒にキャットストリート・隠田商店街を散歩しながら、この地にまつわる昔話や、商店を営む方たちの人柄に触れる、ディープなツアー。
先生を務めたMASAさんは、ガレットのチャームがついたシルクハット型の赤い帽子をかぶり、ご自身でペイントして仕立てたワンピースを着こなし、手には不思議な差し棒を持ち、まるで魔法使いのような出で立ち。
その横にはフランス語の達者な小さなアシスタント、MASAさんの愛娘ワットちゃんです。
MASAさとワットちゃん手作りの段ボール製のバス運転手となり、参加者はそれに乗り込み「いざしゅっぱぁーつ!」みんなで足並みをそろえ、バスは動き出し、ツアーは始まりました。

沢山のノラ猫が住み着いたことで「キャットストリート」と呼ばれている通り。
江戸時代には渋谷川の水流を利用した水車があちこちにあり、その光景は葛飾北斎の富嶽三十六景に描かれました。東京オリンピックの年に渋谷川は暗渠となり舗装され、細い道に小さな建物が並びます。戦後の混乱の中、われ先にと早いもの勝ちで取った敷地に、家を建てて住むことができたらしいです。

やがて緑色の日除けが目立つ八百屋さんが見えてきました。
毎日必ず腹まき姿で店に立つ御主人は、昭和30年代に田舎から集団就職で上京し、青果店で数年修行した後、独立して店を始めたそうです。
最初は店舗を持たず、トラックに野菜や果物を積んで売っていたそうです。
当時、原宿には庶民の台所を支える八百屋はありませんでした。
そこに目をつけた御主人。原宿での商売は勝算ありと見込んだ通りの結果に。
当時の平均月給は1万円でしたが、トラック八百屋の1日の売上げがその数倍だったというのです!
現在の店舗を持つまでには、沢山のご苦労があったと思います。
でもいろんな人からの温情を受け、それに対して粋な行動で恩返しをしてきた御主人。
なぜか今では雑誌の企画で、有名な俳優さんとの対談も経験されたそう。
MASAさんから聞けば聞くほど、御主人のすごさに驚きでした。
詳しいエピソードは、ながーくなるので、お店でMASAさんをつかまえて直接聞いてくださいね。

八百屋さんを後にすると、現代的なお店の並びに「えー!こんなところにお米屋さん!」。
ひょっこり老舗のお店があるのにびっくり。銭湯も数年前まであったそうです。

さらに段ボールバスは路地を進み、電器屋さんへ。
店内に入ると御主人の趣味で収集された、電子回路の基板が壁に何枚も貼り付けられていました。
なぜか「忍者」と書いてある帽子をかぶった陽気な御主人が「あれがインテルだよぉ」と。
生徒さんは皆、基板にはめられた生インテルをマジマジと見つめていました。
店の奥には一族の家系図が貼り出されていて、それも皆さんマジマジと見ていました。
最後に御主人の一発芸を見せてもらい、お店をあとにしました。

次に見えてきたのが、豆大福が有名な和菓子屋さん「瑞穂」。
ご家族でお店を切り盛りしています。
人気に左右されず、儲けることは考えない謙虚な仕事ぶり。
人気の豆大福は、午前中でほぼ完売!
「貴重な豆大福は当日に食べるように!お餅と同じで、時間が経つと硬くなります」とMASAさんからの注意事項がありました。

次にMASAさんは、以前この通りで商売をされていた、履物屋さんの御主人の話を始めました。
履物屋のおじいちゃんはとても物腰がやわらかく、この通りに立って通行人の方へいつも笑顔で挨拶をされていたそうです。
ある日MASAさんは思い切っておじいちゃんに話しかけました。
「今日はお天気がいいですね」
おじいちゃんがMASAさんへニコやかに言葉を返しました。
「あなたのおかげです」と。
おじいちゃんの返した言葉に、私たちは感激しました。
今ではほとんどおじいちゃんの姿を通りで見かけることがなくなってしまったようですが、
若いころは天皇家に出入りし、乗馬用ブーツを作っていた人でした。
穏やかで自然と高尚さが滲みでているおじいちゃん。
この街で偶然に会えたらラッキーだし、もし会えたら私も話しかけてみたいと思いました。

どんどん進んでいくと、MASAさんの顔なじみの商店の人が次々と声をかけてくれます。
段ボールバスも通行人に大ウケです。写メ撮られまくりでした。

さて、なんやかんやと周り、出発点の「La Fee Delice」に戻ってきました。
お店はもともと一軒家を改築。
MASAさんがフランスへ行き、現地の人たちの協力を仰ぎ、お店を立ち上げるまでのエピソードを聞きました。
お店の中は、MASAさんと同じで不思議な異空間。
アート・フランス片田舎・おもちゃ箱が融合したような感じ。
ディスプレイはもちろんMASAさん作。
手作りのシードル(リンゴの発泡酒)とガレット(そば粉クレープ)や小麦粉のクレープをみんなで堪能しました。
かなりヤバイぐらい美味しかったです。
MASAさんの放つ言葉や表情は本当にステキです。
この裏ツアーが終わるころには、みんな彼女に魅了されていました。

古い面と新しい面が混在し、たくさんの人が行き交う原宿。
普通に通り過ぎているだけでは、知りえないエピソードが山盛りに隠れているのです。
今まで話すこともなかった街の人たちに触れることができて、すごくあったかい貴重な体験ができました。

もし興味をもったなら、ぜひMASAさんに会いに行ってみてください。
つたないレポートを読んでいただき、ありがとうございました。

(ボランティアスタッフ : 神野 恵美子)