シブヤ大学
誰もが働ける社会を作る ソーシャルファームを知って、考えて、働きたくなるワークショップ

ソーシャルファーム(Social Firm)という存在をご存知ですか?

誰もが楽しく働くことができるような職場。挫折があっても、失敗があっても、困難があっても、障害があっても、働きたいと思っている人は多い。そうした人々が働くことができる場所が「ソーシャルファーム」です。

でも、ソーシャルファームは特別な場所じゃないんです。どんな会社でもソーシャルファームになることができる。

このワークショップは、ソーシャルファームとはどういうものか、どんな会社が取り組んでいるのか、どんな人がどんなふうに働いているのか、どうやってソーシャルファームになれるのか、さまざまな人々が楽しく働くことができるソーシャルファームの思想と実践を知り、未来の社会を考え、作る場所です。

第3回テーマソーシャルファームのリアル(働く人の目線から)

2024年2月29日(木)19:00-21:00 ヒカリエ8F クリエイティブスペース 8/

3回目は「ソーシャルファームのリアル」と題して、実際に日本でソーシャルファームとして認定されている企業で働く方のお話をうかがいました。来てくださったのは、東京・銀座にあるIT企業ディースタンダード株式会社(以下、Dスタ)で働く、WさんとNさん。お二人ともエンジニアとして、アプリの開発やシステム開発を手掛けてバリバリ働いておられますが、引きこもっていた時期があったのだそう。Wさんは、大学を卒業して内定を取り消されたことがきっかけでどんどん内向的になっていき、半年ほど無業状態が続いた後に、「育て上げネット」というNPO法人の就業支援を経て、Dスタに入社して4年。もうお一方のNさんは、大学卒業後、飲食業界に就職したものの、疲れ果ててしまい、30歳目前にして退社。3年間無業状態だったそうです。Wさん同様、「育て上げネット」を経由してDスタに入社して8年目になるそうです。

ナビゲーターの近藤先生からの問いかけは、「ソーシャルファームであるDスタで働く前と働き始めた後では、“働く“ということに対する捉え方が変わったかどうか」。

Wさんは、「以前は企業に対して“怖い“というイメージを持っていた。仕事といっても何もできないわけだから、怒られるだろうかとか人間関係は大丈夫だろうか…と、楽しくないものと思っていた」そうです。しかし、インターンを経てDスタに入ってみると、「自分と同じような境遇で自分よりランクの上の仕事をしている先輩に出会って“あ、こういうふうになれるんだな“と思った。雑談や仕事終わりの飲み会などで親しい仲間も増え、働くことは楽しいことだと感じるようになった」ことで、「仕事はもちろんだけれども、仕事だけじゃなくて、人との関わりの中で、居場所を感じられる」ことが大きな変化だったと振り返っていました。

Nさんは、以前の職場と比べると、Dスタは「家族のような社風」だと言います。小関社長が働く側=自分たちの目線まで降りてきてくれること、「育て上げネット」卒業の先輩が自分より長く引きこもっていたにも関わらずキラキラ輝いて見えたこと……。

近藤先生はこの話を聞いて、「ロールモデルがいること」、「コミュニティのような形で付き合ってくれる会社であること」がキーワードではないかと指摘。Dスタでは、毎月の親睦会、“Commune(コミューン)“という少人数のグループの集まりなど、「上手に出会えるような仕組みがある」(Wさん)もあるそうです。Nさんによれば、Communeとは、5〜8人のグループで月1回、リアルでもリモートでも食事会や飲み会をしてくださいという福利厚生の一つ。「親睦会は人数が多いので、初めての人は話しづらく接点が持ちにくい。でも少人数だと溶け込むのが早いので、親睦会の前に小さいコミュニティで知り合いを増やしてから、というフロー」だそうです。しかも部署内ではなく、「この人とこの人を喋らせたいな」と、担当のNさんが組み合わせを半期ごとに変えていくのだそう。他にも個々人の趣味を活かしたサークル活動もあり、「クライアント先に出向いて仕事をしているからこそ、自社に戻ったらフラットな関係であることが他の会社とは違うのかも」とNさんはおっしゃいます。

会場からは、「IT業界にいる人がぎゅうぎゅうになって仕事をしていることを良く聞くが、そうした働き方はどう調整しているのか」という質問には、Wさんからの「正直言って、営業さんとか案件を取ってくる方がこちらのことを親身になって聞いていただけるので心配していない」と。「ステップアップの希望やキャリアアップの相談などを営業さんがかなり親身になって聞いてくれるし、親睦会では他の人がどう頑張っているかという情報も行き交うので、“ちょっとおかしいな“と思ったらちゃんと相談できるので全然心配していない」という言葉に、質問者も「会社をすごく信頼しているんですね」と感心した様子。

「家族のような雰囲気をもたらしている根底にある価値観は」という質問には、Nさんから「弊社のモットーは“寂しい人をつくらない会社にしたい“ということ。私たちもそうですが、過去に挫折や失敗があって入社した社員が多くいます。だからと言って、過去を詮索することもなく、”この先を一緒に歩んで行こうよ“という会社の”色“のようなものが小関社長や池田取締役から滲み出ている。それに引っ張られるようにして、社員たちも同じように寂しい人をつくらないように自分から声をかけに行ったりする。自分も先輩にそうされているから、みんなそうしていくのだと思います」。

グループワークで意見交換をしたのち、発表してもらった意見は次の通り。

「親睦会とかクラブ活動とか普通の企業でもやっていることなのに何が違うんだろう。やはり芯の部分で社員みんなにそのマインドがあるということが違うのかなと話した」
「本当にすごいなと思ったのは、“こういう構成要素をこういうふうに組み合わせたら、こういう誰もが働ける社会をつくる“ということを含んだ形でしっかり会社運営ができているというところ。感激しながら聞いていた」
「居場所としてのDスタさんと、そこにつなげる育て上げネットさんとの関わりがすごく大事だと思った」「極端な言い方をすると、いまは“激務フルタイムか無職か“みたいなところがあるような気がするが、中間の選択肢というものがもっと世の中に増えていくといいのかなと話した」
「居やすい、安心して働ける居場所とはどういうところなのか、なにか共通点はないか、と話し合い、何らかのチームを組むとか、社内にいろんな選択肢––––労働時間や勤務形態だったりがあるというのが全体として安心できる会社になっていくんじゃないかな、などと話し合った」。

最後に近藤先生から、「本当に今日は素晴らしかったですね。本当にお礼を申し上げたいのは、WさんとNさんがご自身のリアルな経験から始まっていま感じておられることを最初に率直におっしゃってくださったことです。本当に、働くことってこういうことだったよね、と腑に落ちますよね。企業ってこういうもんだよね“という暗黙の枠組みがかけられ、どんどん追い詰められているけれど、そもそも本当は「誰かとともに働く」ということ。結局ソーシャルファームって、“哀れな人を助ける”みたいなものではまったくない。“働くことを通じて私たちが人間性を取り戻していく営み”なんだということを今日はっきり示していただけたなと思います」。

今回「働く人の目線」からのリアリティを感じることができました。こんなにも社員が誇りに思っているような会社の社長はどんな思いを持っているのか––––次回は反対側の「雇う人の目線」から小関社長のお話、そして働く人とDスタをつないでいる育て上げネットの目線も併せてうかがう予定です。とても楽しみですね。