シブヤ大学
誰もが働ける社会を作る ソーシャルファームを知って、考えて、働きたくなるワークショップ

ソーシャルファーム(Social Firm)という存在をご存知ですか?

誰もが楽しく働くことができるような職場。挫折があっても、失敗があっても、困難があっても、障害があっても、働きたいと思っている人は多い。そうした人々が働くことができる場所が「ソーシャルファーム」です。

でも、ソーシャルファームは特別な場所じゃないんです。どんな会社でもソーシャルファームになることができる。

このワークショップは、ソーシャルファームとはどういうものか、どんな会社が取り組んでいるのか、どんな人がどんなふうに働いているのか、どうやってソーシャルファームになれるのか、さまざまな人々が楽しく働くことができるソーシャルファームの思想と実践を知り、未来の社会を考え、作る場所です。

2024年 第1回テーマ「世界のソーシャルファーム、
日本のソーシャルファーム」

2024年9月12日(木)19:00〜21:00

ソーシャルファームは、障害や病気、引きこもりなど、さまざまな理由から働くことに困難を抱えている人たちが従業員の方々とともに働ける会社のことを指します。 2023年度はソーシャルファームの概念と東京都のソーシャルファーム認証企業で働く方と経営者のお話を聞き、とても感激したのですが、今年度の全4回の授業もまた違う角度からソーシャルファームを考え、また働く人のお話・経営者のお話をうかがっていきます。

今年度の第1回は、「世界のソーシャルファーム、日本のソーシャルファーム」というテーマで国際協力機構(JICA)でODA(政府開発援助)に携わっている松本勝男さんのお話をうかがい、その後参加者はグループに分かれて意見交換を行いました。40名の参加者の中には、昨年度も来てくださった方も初めて来られた方もいます。

“世界”には多様な国々があり、さまざまな取り組みがある

松本勝男さんのお話でまず印象に残ったのは、「“世界”といった場合、ヨーロッパやアメリカなどの先進国を思い浮かべるかもしれないが、世界には約200の国々・地域があり、途上国の割合が全体の7割、約140カ国ある。”世界“と言う場合には、先進国だけではなく、そういった国々の現状も考えなければいけない」という松本さんの言葉です。
では、日本ではどうか。

松本さんによれば、世界全体で就職できない人の数は統計上で平均7〜10%。ただ、ILO(国際労働機関)が改めて試算した「ジョブギャップ率」ではさらに高く、世界で働きたいのに働けない人が約4億200万人もいるとのこと。松本さんが駐在していたインドでは、20〜25歳の若者の失業率は20%に達しており、「失業の状況は国によって異なり、特に多くの途上国で深刻な問題となっている」との話がありました。

SGDsの17の目標の8番目に雇用の是正が掲げられているのも、世界的に達成されていないからであり、特にコロナ禍で貧困層の雇用が途絶え、経済が回復できない国々では、貧困率もここ2年ほど上昇している。また、就業形態も農村部から都市部に移動して正式な仕事に就けないと、食べていくために路上で床屋や物売りなどの商売を始める場合が多い。これをインフォマール雇用と言い、日本、アメリカ、ヨーロッパなどでは労働者全体の2割以下なのに対し、アフリカ、南アジア、インド、アラブ諸国では7〜8割がインフォーマル雇用なのだそうです。旅行をすれば、露天商などは異国情緒あふれる風景のように見えますが、こうした仕事は政府の統計には載らないインフォーマルな雇用形態なので、失業しても保険金をもらえないし、怪我しても労災が出るわけでもない、非常に脆弱な環境が常態化している……途上国の“働きづらさ”の現実にはっとさせられました。

松本さんによれば、ソーシャルファームという概念自体はヨーロッパから始まったもので、雇用から排除された人々に社会参加してもらって社会の統合を図るという「労働統合」という考え方を基盤に成立した経緯があります。すなわち、社会課題をビジネスの手法で解決する社会的企業において、「労働統合を目的とした企業体」と位置付けられます。国によっては支援制度や認証制度がある一方で、そのような制度がない国もたくさんあります。

「ただ、制度も支援もない状況の中で、いろいろな活動を通じて雇用を促進している団体やNPOがいくつもある」と松本さんが紹介してくださったのは、マレーシアやインドの事例です。

なかでも興味深かったのは「インパクトソーシング」。民間企業が会計や経理などの仕事を外部にアウトソースする際、アウトソース先としてソーシャルファームを選ぶというもので、アウトソースする側の企業からすればコスト削減や業務の効率化を図れるし、社会貢献にもなる。サービスを提供する側は商業的利益を得られ、雇用の拡大もできる。被雇用者である貧困層や障害者の人々の収入も向上し自己実現もできる。地域社会にとっては、税収が増えるので町のお店が増えるという経済効果も期待できます。

例えば、インドのNPO法人「AMBA」では、知的障害者の人々のための作業プログラムを独自につくり、研修カリキュラムを組んでスキルをつけてもらって雇用しています。さらに、インド全国にある300以上の知的障害者の支援団体にも同じカリキュラムを提供しており、AMBAが受注した業務をそれらの団体に分配する仕組みをつくっているのだそうです。AMBAの取り組みは成果を上げており、国連からも表彰されたそうです。インパクトソーシングは、いまやインド、フィリピン、アフリカ等多くの国々で拡大しており、世界で注目される仕組みになっています。

会場からもやはりインパクトソーシングの仕組みや訓練カリキュラムの開発などに興味を保たれた方も多かったようです。「今後日本では、現行の制度とソーシャルファームをどのように融合していくのがよいか」「働き方意識を変える必要がある」「多様性という考え方が海外と日本では違うんだろうか?」「障害者と一緒に働ける場をつくるための研修とかが必要では?」「ソーシャルファームは企業単体でやるのではなく、外部の支援機関と連携することが大事では?」「海外では宗教の影響もあるのでは?日本の文化ではどうか」「働く人のゆとりが大事ではないか」などなど、さまざまな意見が出ました。

会場からの意見を受けて、近藤先生から、「日本には障害者に対する支援制度は50年前にできましたが、それ以外の困難を抱える人に対する取り組みはまだまだです。課題もいろいろ見えると思いますが、松本さんがあげてくださった事例のように制度がなくてもやっている人たちがいる。日本でも同じです。“やるんだ”と思ってやってきた人たちが東京都のソーシャルファームの認証を受けています」というお話がありましたが、インドや東南アジアの国々で制度がなくてもビジネスの仕組みを活用することで継続的な支援を実現している事例を拝見すると、ソーシャルファームは“みなで働くことができる”という気持ちがあれば、どこでもできる可能性があると感じます。

「大事なのはそういう場が生まれるということ」と近藤先生。「源泉にあるのはパッションですね。インフォーマルな形の中でパッションに基づいてやってきたことが、結果として制度に繋がったということだと思うんです。こども食堂の広がりなんて、まさにそうですよね。どこにも制度がないのに放っておけない。行政に『なんとかしてください』じゃなくて、『私たちがそこを用意して関わる』という気持ちで生まれたものがいま全国9,000か所以上ですよ」。

ソーシャルファームの取り組みも、経営者の皆さん、働く人の皆さんの経験を共有することで、きっともっと広がっていけるものだと強く思いました。