シブヤ大学

授業レポート

2018/2/26 UP

家族になるって、なんだろう。
〜養子縁組から考える家族のかたち〜

渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>で開催された今回の授業、
まずは第1部として養子縁組について基礎知識を学ぶ講義から始まりました。

第1部の先生は、文京学院大学人間学部人間福祉学科教授の森和子さん。
幼児教育に携わっていた森先生ですが、「子どもの問題は親子・家族の視点から捉えていかないと改善が難しい」と
感じ、家族や親子の問題を学べて実際に福祉の現場で援助できる所で仕事をしたいと
児童相談所で仕事をするようになりました。
そこで乳児院や児童養護施設から里親家庭に委託され、
家庭生活の中で生き生きと変わっていく子どもたちの姿を目の当たりにしたことから、
より多くの子どもたちが愛情のこもった家庭という居場所を得ることができるよう活動を始められたそうです。

講義では、日本・海外それぞれの家族の考え方、養子縁組制度についてなどをお話頂きました。

日本では実親と暮らせない子どもは4万5000人、
その約85%が施設養護、里親及び養子縁組(家族養護)は約15%なのだそうで、「養子縁組は児童福祉の重要なサービス」というその認識は低いそうです。
また、不妊の問題を抱える人や問題意識を持った人の中でも養子縁組を選択する人は非常に稀で、
その理由としては「ほしいのは自分と配偶者の子どもである」という調査結果もあるそうです。

日本の家族の考え方として、「家族=血が繋がっている」という認識が強いこともあり、
このような現状があるのではないかと感じました。

次に海外の家族の考え方について、スウェーデン、カナダ、オーストラリア・ニュージーランド、
イギリスの紹介がありました。

例えばスウェーデンでは遺伝子や血縁といった自然のつながりより、
日々の生活をともにしたつながりが親子のきずなとして大切にされていて、
「家族のあり方についてまじめに試行錯誤を続けてきた国」と言われているそうです。

日本と海外の家族の考え方を学んだ後、里親制度・養子制度と意義についてのお話がありました。

里親制度…ある期間養育し可能な場合は実親家庭へ子どもが戻る
養子制度…法律上の親子

これらの制度の意義は、子どもが健全に育つためには特定の大人の安定した信頼関係が必要であるという考えから、
実親に代わって血縁を超えて子どもの家庭養護とパーマネンシーを保証する制度ということだそうです。

ここで乳児院を紹介する動画の紹介がありました。
子どもの成長には「特定の大人の安定した信頼関係が必要」というお話がありましたが、
それがどういうことかを映像としてみることができました。

映像では、乳児院では一人の職員さんが複数の子どもの世話をしている様子が紹介されていました。
何人もの子どもたちがだっこをしてもらおうと集まるものの、職員さんを一人占めすることはできず争ったり泣いたりとまさに紛争戦でした…。



森先生からは「だっこが嫌いな子どもは誰もいないけれど、
乳児院の子どもたちにとってだっこは決して心地良いものではない。
なぜならだっこが競争になっているから。だっこしてほしいときにいつでもだっこしてもらえるわけではない」
というお話があり、とても胸に迫るものがありました。
子どもの成長には1対1で関わる大人が必要であること、
そうすることで自分に自信を持ち人とのコミュニケーションを学んでいくということを学びました。

その後、養子縁組をした場合の重要なポイントとなる「真実告知」のお話がありました。
真実告知とは、実親ではないということを養子に伝えることです。
ここで印象的だったのは、養親が養子に対してどのように家族になったのかを肯定的に、
物語のように語るというお話でした。「愛されている」ということが伝わるように養子に話をすることで、
子どもは何度もその物語を聞きたがり肯定的に受け止められるようになるそうです。

家族のあり方は血縁関係だけに限らず非常に多様です。
里親、養子、精子や卵子提供による子ども、同性カップルなど、
様々なバックグラウンドを持ちながらも「家族」として深い絆でつながっている人たちはたくさんいる、ということを改めて学びました。

第2部では、漫画家の古泉智浩さんが先生となって、
ご自身が養子縁組を行った経緯や現在についてライフヒストリーを語っていただきました。

養子縁組というと、どこかシリアスな印象を持ってしまうのですが、
古泉さんはとっても明るくざっくばらんに語っていただき、非常に楽しくお話を聞くことができました。

古泉さんはずっと子どもが欲しいと願い、6年間に及ぶ不妊治療を行ったそうです。
しかしなかなか子供には恵まれず、養子を考えるようになったそうです。

養親になるための研修にどのように臨んだか、
子どもを預かってからの子育てについてなど、楽しくお話をして頂き、
「養子は特別なことではない」「子供を持つための選択肢のひとつ」という印象を持つことができました。



第3部の参加者ディスカッションでは、
「養子縁組についてのイメージ」「あなたが考える家族とは」などについて意見交換をしました。

参加者の皆さんの参加のきっかけや意見を聞いていると、みなさん様々な想いを持って来られたんだなと感じました。


日本では家族といえば血がつながっているという意識が強く、実親の権利も強いのだそうです。
このような現状が、自分だけを見て愛してくれる大人を求めている子どもたち、
子どもを欲しいと願う大人たちのミスマッチを生んでいるように私は感じました。

また、日本の養子縁組制度は、配偶者を持つ人にしか養子を持つ権利はありませんが、
何らかの事情で事実婚状態の異性カップル、婚姻が認められていない同性カップルなど様々な事情を抱えながらも子どもを持ちたい、家族になりたいと考えている人はたくさんいると思います。
かつての日本では、実親が育てられなくなった子どもを
周りの大人が協力して育てるということもありましたが、
現在は家族制度はきちんとしすぎたためか?、なかなか難しいくなっています。



まずは養子縁組制度の認知度を高め、
子どもを持つ手段のひとつとしての認識が広がっていくことが大切なのかなと思いました。

(レポート:富岡侑子、写真:松田高加子

古泉智浩さんの本

うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門


うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました