シブヤ大学

授業レポート

2007/10/15 UP

植えた物は刈らねばならぬ。

と、いうことでシブ大ツーリズム第3弾は、5月末に植えた稲を収穫しに再び「NPOえがおつなげて」の小黒夫妻の待つ山梨県北杜市須玉町増富へ。

小雨の中、元気良くバスから飛び出し稲を植えた田が見渡せる高台に登った僕たちが見たのは、踏み荒らされた、そして食い荒らされた稲たち。

小黒裕一郎さんの話によると、数日前に猪の親子が田に入り、体に付着した虫を泥で洗い流すついでに米を食べてしまったとのこと。以前は彼らも米に見向きもしなかったそうだけど、他の食べ物が減ったせいか、最近では他の田でもこのような被害が目立つとか。

無下に責めれない住処や食べ物を奪われてしまった野生動物と、愛情を注いで育てた作物を荒らされて農業に対する情熱を失ってしまう高齢者農家の気持ちの板ばさみで切なくなる。お互いにとっていい解決策は何だろう、鎌で稲を刈りながらそんなことをずっと考える。

稲刈り自体は終始とても明るい雰囲気で進行。雨でぬかるんだ土に深く足を突っ込みながら、絶妙のチームワークで作業はどんどん進む。何かに取り憑かれたかのごとく一心不乱に稲を刈る人。稲を十束ずつ脇に抱えて縛る人。それを転ばないように大股で田の隅に運ぶ人。植えた稲の列があまりにもまっすぐじゃないので、それにつっこむがごとく笑い声は絶えなかった。

時計がお昼を回ったところで作業を中止し、場所を移動してお昼をいただくことに。今回は小黒彩香さんが用意をしてくださった、箱膳をいただく。

蓋を開けると優しく立ち昇ってくる豊かな香りと共に現れたのは、いくつもの小鉢に盛られた、小黒さんの「えがおファーム」で採れた野菜を使った色とりどりのお料理。発芽玄米に、おひたし、煮物、お味噌汁。「必要な物を必要な分だけ」がコンセプトの箱膳では、食べ過ぎることも無く、栄養バランスもとてもよい食事をゆっくり頂けることを学んだ。量はそんなに多くないのにお腹は満腹感で満たされ、お膳の高さから自然と食べる姿勢も良くなる。食べた後はお湯を注ぎ、最後に残した漬物で器を拭くという昔ながらの環境に優しい後片付けも実施。このおかげで、昔は毎日のように洗剤をつけて洗わなくってよかったんだそう。この箱膳、銀座でも体験できるらしく、早くも「行ってみたい!」と興奮気味の参加者さんも。

一息ついて、小黒さんの笑顔ファームの見学。3ヘクタール(野球場3面分)ある農地の中には、高齢者農家から「もう体のことを考えると農業ができないから」と譲り受けた土地も結構含まれるそう。

確かに、25歳の僕でも「まだ上があるの?」とため息が出るほど段々になっている農地の一番上まで行くのは結構な運動で、これでは70歳80歳の方々じゃあきつすぎるだろう、と実感。高い場所にある農地から見捨てられ、数年も経たないうちに雑草だらけになり農業ができなくなってしまう。一度こうなってしまうと開墾するまで本当に手間がかかるらしいので、最近都心部で増えている家庭農園に熱中している人たちに何とかしてこのような恵まれた場所を貸し与え、お互いにとって良い結果を生む方法は無いのかな、と考えさせられる。

雨の中でも元気な僕たちは引き続きサツマイモの収穫に。これは小学校時代にやったことがある参加者も結構いて、スムーズに進む。地中に埋もれる大きいサツマイモが沢山姿を現すたびに歓声が上がった。

作業が終わり、温泉に向かう頃には雨はすっかり止み、空には虹が。ただ楽しく学ぶだけでなく、色々と考えさせられることの多いツーリズムであった。

(ボランティアスタッフ 望月崇)

【参加者インタビュー】
1.菅野孝一さん
「会ったばかりの人たちと協力して作業をし、自然の素晴らしさを味わえたのはとてもよい経験でした。」

2.藤原䔈さん
「稲刈りといい、秋を感じました。子供と小さい頃に一緒にやったことを、(現在の)子供と年がさほど変わらない人たちと一緒の作業でしたが、皆さん本当にフレンドリーで年の差を感じさせない素晴らしい経験でした。」

3.伊原亜由美さん
「フルーツ狩りは娯楽だけれども、稲刈りは生活に繋がると実感しました。農業の現実を聞いて色々考えさせられます。ご近所の方達が小さな土地で家庭菜園をしているので、なんとかして両者を結べないかと思います。」