シブヤ大学

授業レポート

2007/8/6 UP

「お箸は持ち主の魂がうつる道具」

食文化に対して珍しいほどこだわりがある日本人なのに、なぜ毎日使うお箸に現代人は頓着しないんだろう。

箸専門店「夏野」店主・高橋隆太先生のそんな問いかけから始まった今回のMOTTAINAI学科。授業はまず、「お箸について知る」ことから。授業と言ってもとてもアットホームな感じで、柔らかい雰囲気でした。

赤ちゃんが母乳以外の食べ物を初めて口にするときに行われる儀式「お食い初め」でお箸が使われるように、日本人にとってお箸はとても身近な存在。中国人を含め世界人口の3割がお箸を使いますが、家庭で誰がどのお箸を使うか、というのが決まっているのは日本だけなのだとか。古くは少なくとも5世紀ごろから日本では使われていて、形もピンセット形など、様々な形があるそうです。

お箸でおそらく一番身近な物の一つ「割り箸」。近年環境によろしくないと言われがちですが、必ずしもそうではないこと。確かにコンビニなどでもらえる中国製は、木を割り箸を作るために切り倒しているので水害などを引き起こすそうですが、国産の物は既に切り倒された木の余った部分を使うのでエコなんですね。

そしてお箸といえば切っても切れないのが「漆器」。なぜなら先生曰く、お箸とは漆器を凝縮した物だからなのだそうです。そういえば色の美しさや形へのこだわりなど、共通点がたくさん。漆器は傷つきやすい、洗うのが大変というイメージがつきまといますが、実は違っていて、本来は軽くて落としても割れないなど機能面で優れいているだけでなく、漆を塗りなおすことによって何世代にも渡って使える「MOTTAINAI」の精神にとってもマッチした食器なんですね。

ところが最近は和食屋さんに行っても落胆してしまうほど質の低い食器が使われていることが多く、高橋先生のお店「夏野」でも漆器を買っていかれるお客様はそう多くないそうです。

「食文化は豊かなのに、消費社会の中で食器の質や種類が乏しくなってきている。」と残念そうに語る先生が印象的でした。

さあ、そんなお箸ですが一体どこに「こだわれる」のか。色?素材?柄?

マニアはそこだけに留まらず、「箸先の形」「長さ」「重さ」から始まり、「重心」や「しなり」まで見る、と先生。

「自分に合うお箸とは」の説明が一通り終わったところで、いよいよマイ箸作り。
まずは「木の棒」を自分の手に丁度合うサイズに切り、箸先はひたすら机に置いた紙やすりに押し付け擦ります。

シャリシャリシャリシャリシャリ…。

作業が始まってからというものの、教室には紙やすりの音しか聞こえません。時々途中経過を同じテーブルの人に伝えるときに会話が漏れる程度で、生徒さんの眼差しはお箸に注がれていました。どのくらい熱中されていたかというと、出たおがくずで自分の服が汚れているのに気づかないくらい。先生がコツを教えに各テーブルをまわったのですが、視線は先生にちらっと移すものの、手は休めない。箸先は一面ずつ削る作業を繰り返し全ての面が均等になるようにするのですが、気づいたら削りすぎて箸先がかなり細くなっていたという方もいらっしゃいました。

箸先を整えるのがひと段落したら、次は持つところの角を丸くしたり、飾り(模様)をつけたり、頭の形を工夫してみたり。柔らかい木だったので、これも主にやすりとカッターを用いて行います。 持ちやすい様にくぼみを入れてみたり、箸頭を両親をモチーフにした形にアレンジしたり、はたまたカッターでランダムに削って模様をつけたり。

こだわりのお箸を作る作業は延々と。時間をオーバーしても完成する人は遂に現れず、最後は家に帰ってから仕上げるという「宿題」がでるほど。楽しんでいただけたようで、キットに含まれていた数膳分の材料を使って家族や友達の分も作ります、とほとんどの方がおっしゃっていました。最後に全員集合写真を撮る時、作ったお箸を手に皆さんとても満足そうな顔をされていました。

そうそう、授業中におっしゃられた「レストランに行ったときに、隣の席の人が何気なくマイ箸を出す、そんな場面に出くわせれば」という夢。

その夢も、もうそろそろ叶えられそうですね、先生。

(ボランティアスタッフ 望月 崇)


【参加者インタビュー】
1. 水島さん(主婦、参加生徒の中で一番短い19cmのお箸を作成。)
「家にあるお箸は少し長いので、自分の手のサイズに合うものを作れてよかったです。この授業のおかげで、お箸を持ち歩くということに目覚めました。」

2. 五十嵐さん(学生)
「お箸を作れたばかりでなく、文化的な背景を学べてとても有意義でした。」

3. 篠田さん(公務員、作品が先生の「お気に入り」に指定されました。)
「お箸だけでなく、漆器にも興味が出てきました。こういった授業を小学校や中学校でやっていただけたら、食文化を育む意味でも素晴らしいですね。」