シブヤ大学

授業レポート

2016/4/6 UP

市民の力で社会を変える!
~コミュニティ・オーガナイジングについて一緒に考えよう~

レポート 「市民の力で社会を変える! ~コミュニティ・オーガナイジングについて一緒に考えよう~」


市民の力で、社会は変わる。


今、日本中でコミュニティづくりが盛んです。既存の地域、学校、職場などに加えて様々なコミュニティがつくられてきました。コミュニティづくりに関わって、困難に直面し、その難しさを実感している人たちも多くいるようです。


「困難を乗り越えるため、どのようにしたらいいのだろう」と考える人たちがコミュニティ・オーガナイジングの手法を知ることにより、解決策のひとつになるのではないかとの思いで授業を聞きはじめました。


 


以下は、授業内容の抜粋となります。


□ コミュニティ・オーガナイジングとの出会い


(先生の鎌田さんが、何がきっかけでコミュニティ・オーガナイジングをやっているのかが話されました。)


 


・子供の頃、遊びに行っていた近所の木がいっぱいある公園に、ある日工事が入り遊具は立派にできたのですが、慣れ親しんだ愛着のある木々が切られていまい、子供心に、なぜ大人たちは普段利用している私たちに相談なくことを進めてしまうのか、何かおかしいとの思いをもったこと。


・中学に入る前には、似たような環境破壊が世界中のあちこちで起こっていることを知り、将来は環境関係の仕事をしたいと思ったこと。


・念願が叶い環境コンサルタントになり企業への環境アドバイスが主な仕事でやりがいもあったのが、環境や社会問題というものに光を当て、多くの関係者を立ち上がらせて行く力はNPOなどの市民セクターにあることにEUやアメリカで市民発の政策が通っていることを調査して気付いたこと。


・これについて勉強するためにアメリカに留学した時に、市民自らが立ち上がって、力を合わせ、自分たちの問題を解決する運動の起こし方であるコミュニティ・オーガナイジングに出会った。



□ コミュニティ・オーガナイジング(Community Organizing、以下CO)とは


 


COは、市民の力で自分たちの社会を変えていくための方法であり、考え方である。オーガナイジングとは、人々と関係を作り、物語を語り、立ち向かう勇気を得て、人々の資源をパワーに変える戦略をもってアクションを起こし、広がりのある組織を作りあげていくことで社会に変化を起こすこと。


普通の市民が立ち上がり、それぞれが持っている力を結集して、コミュニティの力で社会の仕組みを変えていくのが、COです。市民主導で政府、企業などさまざまな関係者を巻き込みながら、自分たちのコミュニティを根本からよくすることを目指します。


ハーバード大学ケネディスクールのマーシャル・ガンツ博士が提唱したものです。


 実例としては、キング牧師の黒人公民権運動、インドのガンジーそして2007~2008年のアメリカ大統領選挙におけるオバマ陣営があります。


COは、「先行き不透明な状況の中、人々が目的を達成できるよう責任を引き受けるリーダーシップ」と言うこともできます。リーダーシップと言うと、 カリスマ性のある限られた人にだけ与えられた特別なものと思われがちですが、オーガナイジングでは、人は誰でもリーダーになれると考えます。


子どもの頃に何度も転びながら自転車の乗り方を覚えたように、行動を起こし、何度も失敗しながら学んでいきます。


「スイミー」の話を例にとると、一人ひとりの力は小さく弱いが、一つの目的に合わせて使っていくことで大きな力が作れます。スイミー自身は黒い魚で仲間外れになっていましたが、最後は自分が黒いという個性を生かして大きな魚の目になりました。このように一人ひとりを尊重することも大事にしています。


 


□ COを活用した事例紹介 


・LGBT成人式@埼玉(https://www.facebook.com/lgbt.saitama/)


2015年5月のジェンダー問題に関心をもった人を対象としたワークショップから生まれた活動です。自分が生きていく場所で、ありのままの自分を自由に表現したいと思っている人。また、そういった友人や家族を応援したい人。みんなが集まって「成りたい人になる」ことを祝福しあい、「あらゆる性をもつ私たちはここにいる!」ということを実感できるようにしたい。


そんな思いを込めて、2/6(土)にLGBT成人式@埼玉が開催されました。発起人の方は今まで自分がリーダーとして活動したことはなく、ワークショップや実践伴走を通じて「出来るかも」と思えたそうです。


 


・ちゃぶ台返し女子アクション(https://www.facebook.com/chabujo/) 


鎌田さん自身が取り組んでいる活動。社会でいわれる「女性らしく」ではなく、すべての女性が「自分らしく」生きられる社会を作ることを目指し、社会を変えるために、抱え込んでいる悩みや問題意識を声に出そう!という活動。日本の社会は、自分の意見を気兼ねなく言える機会が少なく、特に女性は思いを「はっきりと声にできない」と感じることが多いのではないでしょうか。今の社会の中で子育て、介護の負担、その中でも仕事をしなくてはらならいと女性にしわ寄せがきているという考えと、やはりこの問題を解決するには、先ず女性自身が声を上げていくことが大切だと考え活動しています。


何が「自分らしく」生きる上でバリアになっているのかそれを明らかにするために「ちゃぶ台返しアクション」と「アクションリサーチ」をしています。ちゃぶ台返しアクションは女性同士で何をガマンしているのか、何故ガマンしているのか語り合い、それぞれの叫びたい声を見つけて、みんなでちゃぶ台を返しながら叫ぼう!というアクションです。アクションリサーチは女性同士の対話形式のインタビューを通じて女性がどんなことに問題を感じているかを話し、女性を抑えるバリアを明らかにする取組みです。今後は明らかになったバリアを解消して行く行動を起こします。


 


□ 日本におけるコミュニティ・オーガナイジングの浸透について


 


「議論をする」ということを教育の中で経験してきていない日本人は批判的な議論が苦手で、批判的な意見を受けると「自分が否定された」と思いがちです。ユダヤの教えに「真実は議論の中にある」、という言葉がありますが、意見の異なる人たちが議論を交わすことで、真実が見えて来る、そういう理解が日本でも根付いてほしいものです。


日本ではマイノリティが声を上げると叩かれる傾向にあります。多様な意見が必要という理解が高まれば、マイノリティの意見も尊重されるのではないでしょうか。


□ コミュニティ・オーガナイジングの手順


(いよいよ、具体的なCOの手順の説明です。5段階の手順を踏むようです。)



1.ストーリーテリング(パブリック・ナラティブ)


 


人が行動を起こす時、そこには必ずストーリーが生まれます。また、人が動くためには、まず心が動かされるものです。


・Story of Self:なぜ自分が行動を起こしたか、自身のストーリーを語って聞き手の共感を呼ぶこと。


・Story of Us:聞き手と自分自身が共有する価値観や経験といった“私たち”のストーリーを語り、コミュニティとしての一体感を創り出すこと。


・Story of Now:いま行動を起こすこと(今でしょ!!)についてのストーリーを語ることで、共に行動する仲間を増やすこと。


これらが有機的に組み合わされた、人の心を動かす物語を、パブリック・ナラティブ(公で語る物語)と呼んでいます。



2. 関係構築


 


自主的なボランティア活動を継続的に行なうためには、メンバー同士の強い関係を構築することが鍵となります。金銭関係や雇用関係がないボランティア活動では、共通の目的を持ち、互いに関心を持ち合い、成長し学び合える関係であることが必要です。


さまざまな関係構築の方法がありますが、COでは特に「一対一で話す」ことによって関係を構築していくことが重要となります。


3.チーム構築


活動を推進していくためには、コアとなる数人から10人程度のチームが重要です。多様性のある性格、スキル、ネットワークを持つ人を集め、共通の目的のもとに、相互補完しながらリーダーシップをチームで


発揮することのできる組織を構築します。


 


4.戦略立案


 


課題を解決し、社会のシステムを変えるためには、ステークホルダー(利害関係者)を分析し、自分たちの置かれている状況と、自分たちの持っているリソース(時間やお金、スキル、ネットワークなど)をどう使って状況を変えていけるか、創造的な戦略を立てることが不可欠です。


日本では、特にこの部分が弱いと感じています。


5.アクション


 


社会課題の解決は少人数ではできません。アクションを共に起こすコミットメントを作っていくこと、楽しく、かつ実際に社会が変えられる、やる気が出るアクションを設計することが欠かせません。


 


オーガナイジングはリーダーシップの一形態です。オーガナイザーは他の人々がもつリーダーシップを見出し、仲間に招き入れ、伸ばしていく。また、そのようなリーダーシップの周辺にコミュニティを形成し、コミュニティの持っているリソースからパワーを醸成する。それは、同志(共通の関心事のために、結束することができる人達)となるコミュニティをオーガナイズすることになる。(※スノーフレーク・リーダーシップ)


※スノーフレーク・リーダーシップ(コミュニティの広がりが雪の結晶に似ているため、こう呼ばれる)


リーダーシップの実践とは、他のリーダーを成長させること。そして、今度はその人がさらに他のリーダーを成長させる。順番に行われるこの実践を延々と続ける。


□ ストーリーテリング(パブリック・ナラティブ)の実例


大学院生のJames Croftさんがマーシャル・ガンツ博士の授業を取り、パブリック・ナラティブを語る実習の動画で、ちょうどその時期にLGBTの学生がいじめにあって毎週のように次々と自殺するという事件があった。それに対して自分が何かしたいとの思いでスピーチした内容です。


 


6.12 Seconds - James Croft's Harvard LGBT Bullying Speech


https://www.youtube.com/watch?v=LM-fxPrSZZ8


 


Story of Self、Story of Us、Story of Nowを意識して聞いていただきたい。


時間の関係で、ストーリーテリング(パブリック・ナラティブ)が中心の話となりましたが、もっと知りたい方のためへの情報提供として、COJではホームページ(http://communityorganizing.jp/)から次の資料をダウンロードできますのでご活用ください。


 


・コミュニティ・オーガナイジング・ワークショップ 参加者ガイド


・オーガナイジングノート ~オーガナイジングとは何か?~


・      社会変化を導く ~リーダーシップ、組織、社会運動~


・      コミュニティ・オーガナイジング実践ガイド(2015年度実践事例集)



-----


以上が授業の概要となります。


 


なお、レポーター自身が解りやすい動画(下村健一さんと鎌田さんの対談を挿入した動画)を見つけましたので共有します。(https://www.youtube.com/watch?v=Kj-xDiRfd-I)


 


・下村健一の「知ってる?この話」【第10話】市民の力を束ねる手法「コミュニティ・オーガナイジング」ってなんだ!?


 


(レポート:竹田憲一 写真:榎本善晃)