シブヤ大学

授業レポート

2016/2/29 UP

人に会いに行く旅をしよう。@埼玉県 ときがわ町


“ときがわ思いの人々”と出会う旅。

今回の人に会いに行く旅は、埼玉県のときがわ町。

「埼玉県」から想起されるもの、
それは、時に都会的なものであったり、ベッドタウンとしての役割であったり。

「地方」「移住」「人の温かさ」
こうした言葉とは少し離れた印象があるのではないでしょうか。

ときがわ町は、都心からバスで2時間ほど。
古くから守られてきた自然や街並み、慣習が息づく町でありながら、
そこには「よそから来た人」を前向きに受け入れる地元の人々と、
受け入れてくださった町で生き生きと活動する人々の思いが交わる素敵な風景がありました。

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1日目:2016年2月20日(土)

9:30 渋谷出発!

20代から50代まで、普段の生活では出会うことのない方々が続々と集まり、さあ出発!

旅の一つ目のアクティビティ。
お隣の方同士でインタビュー、そしてその方をみなさんに他己紹介。
朝一で難易度が高い…!と思いつつ、参加した理由、お仕事のことなどなど…話があちこちで盛り上がります。

そして、現地コーディネーター野村さん出題の、○×クイズ。
温泉の源泉は熱いもの…と思いつつ、25度という冷たさ?でも源泉と呼べるそう。
そして、人口1万2千人のときがわ町には、なんと94万人もの観光客が来ているんだとか。

何が人をときがわ町に惹きつけているのでしょう…?
期待が高まる中、バスはときがわに向かいます。

11:45 ときがわ着~温泉めぐり@四季彩館「都幾の湯」

冷たい雨が降りしきる中、旅の始まりの一風呂。

四季彩館は、古民家風のたたずまい。
長い廊下の先にある温泉は、アルカリ性で美人の湯と呼ばれています!
入った途端に肌がつるつるに…!!

素敵だったのは日本庭園を眺める足湯。
温泉上がりに足湯に集い、一同とてもリラックスできました。



13:00 昼ごはん@高柳製麺所

ときがわ町は、サイクリストが集う町。
自転車専用の駐輪場が目をひく、町のうどん屋さんでお昼ごはん。

肉うどん、きのこうどん…どれも太くこしのあるうどんです。
地元のお野菜のかきあげなど、思い思いのトッピングを楽しみました。



14:30 ときがわへ移住し農業を営む小堀利郎さん@ときがわブルワリー

バスに揺られ、町から一気に山間部へ。
窓からは、梅の花や、柑橘類が実る木々が見えます。
ブルワリーは自然に囲まれた幼稚園の跡地にありました。

移住先が決まる前にもかかわらず
ビールをつくりたいと思いから機械一式を買ってしまったという小堀さん。

そんな小堀さんに、じゃあ場所を貸そうと提案したのが
時に小姑?!のようにアドバイスをしていたという西澤さん。

1700年代に建てられた家に住まい、
800年代からときがわに根付いていた一族であるという西澤さんは、まさに町の名士。

“「どっぷりつかっている人間」はよそものを受け付けない”のではなく、
“村(※合併前は都幾川村)出身である”ということに誇りを持ち、
“村へおいでよ”という気持ちだと語る西澤さん。
町を守るだけでなく、活性化させていきたいという思いが伝わってきました。



さて、日本最古のゆずの栽培地域としても知られるこの町で
果物の原液を用いたビールづくりを目指していた小堀さんですが、
“ビールにしなくても原液でおいしいじゃないか”という一言をもらい
まさかのブルワリーなのにジュース生産へ方向転換。

一個一個丁寧に絞るゆずのジュースは果実そのまま。
まとめて機械で絞る大手企業の製法とは異なり、
一本一本にぎゅぎゅっとおいしさが詰まっています。

ゆずの華やかな香りが部屋いっぱいに広がる中、みんなで乾杯。
商品名「柚子の贅沢」の通り、本当に贅沢な一品です。



移住してきた小堀さんと対照的に、
Uターンで就農した藤田さんのお話もうかがいました。

田舎が嫌で逃げるように東京に出たものの、
とある住込みの仕事にて、家庭菜園で自給自足の生活を送る経験をして、
そんな生活もありだな、と気づかされたと言います。
“娘は保育園に行かず畑に一緒に来て、ずっと家族でいる時間が長い”という藤田さん。

“豊か”な都会に住んでいながら、夜遅くまで保育園に子どもを預けざるを得ない家庭も多い今、
“豊かさ”ってなんだろう…と、ふと考えてしまいました。

お話の後は、たき火で「焼き芋」ならぬ「焼きネギ」を堪能。
1人丸々1本、ネギをいただきます…!
外側の皮をバナナのようにむくと中は白くやわらか。丸かじりすると、とっても甘い…!
ネギにかぶりつく子どもにびっくりしましたが、納得のおいしさです。



16:30 新規就農支援でときがわを支える―農業組合法人ときがわ 田中さん、柴田さん

まず案内された場所、そこは農業機械の倉庫。
コンバイン・トラクターといった機械がずらっと並びます。
といってもどれも比較的小型のもの。

農協に持ち込むと機械化が進みすぎて、
「○○さんの家のお米」だけで精米できない。
そんな小さな個別のニーズに小型の機械で対応しているそうです。

そして、新規就農者で機械が買えない人にもこうした機械を提供し、
農業を続けやすくするサポートをしているんだとか。

“お金もうけとは別に、もう60過ぎたからボランティアだから。”
“新規就農の人を増やして、地元の経済を活性化させたい”
そう語るお二人は就農者の住宅支援から販路拡大まで何でも応援しているとのこと。

貴重なお話をありがとうございます、と私たちがお礼をいうはずが、
自分たちの活動を発信する機会をありがとうございました、と言われてしまいました。

ときがわで移住・就農を考えているみなさん、
ぜひ田中さん、柴田さんを頼ってくださいね!!



17:20 和菓子の老舗、前澤屋

最後に立ち寄ったのは、ゆずを使ったおまんじゅう、塩飴…
おいしそうなお菓子が並ぶ老舗前澤屋さん。ご主人が明るく出迎えてくださいました。



“なんとか人を呼びたい、でも緑と清流以外ここは何もない。だから、まず川を魅力的にしよう”

花菖蒲を町の観光資源にと考えたご主人、花菖蒲を植えるボランティアの輪がだんだんと広がり、
木道があった方がいいだろう、と町を巻き込む活動に展開したそうです。

伝統の和紙をお店の蛍光灯のカバーにしたり、
いわゆる外から来た人が運営する玉川温泉(後述)にも老舗のお菓子をおいてみたり、
なんとも“町思い”なご主人でした。

ゆずのおまんじゅう、ごちそうさまでした。

18:00 夕ごはん@Trattoria il Cielo

夕ごはんは、かつて日本橋で出店していたという
ご主人がUターンしてオープンした、小さな、それでいておしゃれなイタリアンのお店でいただきます。

外には大きな看板がありません。



“看板や情報をばんばん出して、人を集めるような町じゃない。”
“町全体の文化的教養を高めて、子どもたちが誇りに思える町にしたい。”

商売だけでなく、町全体を考えてこのデザインにしたそうです。
そんなご主人こだわりの料理は上品で、また食べたくなるものばかりでした。

20:00 温泉&懇親会@玉川温泉



オート三輪ミゼットが目をひく温泉の入り口。
扉をぬけると昭和に一気にタイムスリップ。

掲示物、売店に並ぶ竹とんぼ、瓶サイダー…
平成生まれの私までなぜか懐かしさを感じる、レトロで庶民的な温泉です。

子どもたちから高齢の方まで、わいわいと温泉につかります。
こちらもアルカリ性、さらさらとした温泉でした。
露天風呂は大きな岩風呂で、いつまでも入っていたいくらい。

そんな大衆浴場の一角にはちょっと異次元?な空間もありました。
「木の図書室」と呼ばれる空間は、そこだけ時代は平成。
移住、地方、スローライフといったテーマの雑誌に囲まれたモダンでおしゃれな空間。



こちらも何時間でもいられそう…!

お風呂あがりには、小堀さん、藤田さんや、
明日お話をお聞きする山崎さんもいらっしゃって懇親会。

参加者同士も、語りあいながら、なごやかにあっという間に時が過ぎました。
今日はこちらも老舗、町田屋旅館に宿泊。
明日はどんな旅になるのでしょうか…?

2日目:2016年2月20日(日)

7:00 町田屋旅館のご主人のお話-ときがわと町田屋旅館の歴史

“1300年前に…”といった言葉が何度となく飛びだすほど歴史があるときがわ町。

近代では岩崎弥太郎といった歴史上の人物とのつながりがあること、
旅館の障子にも使われている特産の和紙が太平洋戦争で使われた過去のお話など、
町田屋旅館の細部にまで歴史が感じられます。



町田屋旅館自体が、町として守っていくべき建物。
古い慣習やものを守らなければならない立場にありながら、
この春にはおひなさまに合わせてカフェをオープンするからぜひ来てほしいと
笑顔で話してくださいました。

7:30 朝のときがわ散歩。

静かな町を玉川温泉までお散歩。
昨日と打って変わって抜けるような青空にめぐまれました。

古い石碑、満開の梅の木、川のせせらぎに囲まれた道をぬけると、そこは町の中心。

スーパーのチェーン店と、町に馴染んだ物産店と、おしゃれなイタリアンのお店。
そして、空き家や空き地のままで何も手が加えられていない土地。
これらが入り混じった風景は、今まさに変化しているときがわの縮図なのかもしれません。



8:15 朝風呂&朝ごはん@玉川温泉

朝からのんびりと一風呂。
昨晩と同じ温泉ですが、天気と時間が違うとまるで違う温泉に来たかのよう。
朝日につつまれ、夜の活気が一段落したお風呂はまた格別でした。



朝食は地元のお豆腐と、町の物産店の手作りお惣菜とごはんをいただきます。
お豆腐はふわふわ濃厚でとても印象に残りました…!

10:00 朝のときがわ散歩その2

おなか一杯になったところで、地元の関根さん親子と共に玉川温泉の裏山散策へ。
地元の人にあいさつしながら、庭先を通らせてもらいながら見たのは、きれいな梅の花。

あぜみちを歩きながら、おいしい空気を吸って、写真をとって、
自然のエネルギーをみなさん吸収していました…!



11:30 温泉めぐり@おがわ温泉、花和楽の湯

旅も終盤、いったんときがわ町を離れ、隣町へ。
のれんをくぐると。
そこには昭和レトロとはまた違った、まさに「癒しの空間」が…!
温泉の種類も多様で、岩盤浴あり、館内は浴衣でのんびり…
女性陣は特に非日常の空間にテンションがあがりっぱなしでした。



温泉という場所上、写真があげられないのが残念すぎます…笑

13:30 うどん@やすらぎの家

今日のお昼もうどん。
ですが、昨日よりもっとひらたいおうどんです。
野菜の天ぷらに舌鼓。




 

14:45 温泉から地域活性化―温泉道場代表の山崎寿樹さん

年200回温泉に入り、全都道府県制覇したという山崎さんの前職は、
中小企業の支援・再生を手がけるコンサルティング会社。

いつか起業しようと思っていた矢先、
今にもつぶれそうな温泉再建の話が舞い込みます。

“エリアで温泉がひとつなくなると経済圏に与える影響は大きい”と語る山崎さん。

山崎さんがこだわったのは、「来店動機をどのようにつくるか?」

“温泉だけでは動機が生まれにくい、町全体を魅力的にして動機に結びつけないと”
と考えた結果、

「ぶらっと、ときがわ」という町の素敵なパンフレットも、
山崎さんの温泉会社で作ってしまいました。

いきなり移住はあう、あわないというリスクも伴う、
今は会社があり、町に受け入れられ、応援してもらえていると語る山崎さん、

これからは、移住のハードルを低くして、なくしてしまう、
シェアハウスや温泉を囲むコミュティをつくっていきたいそうです。


16:00 都市と自然の二拠点で生きる―小埜(おの)勝久さん

最後に訪れたのは、小埜さんのご自宅。
壁一面がガラス張りというモダンな建物です。

もともとは都心部に住む建築家だった小埜さんは、
都心とときがわの両者を行き来しながら生活しています。

人生の大半を東京で過ごしたという小埜さん。
仕事柄見えてきた都市の脆弱さ、そして自転車の縁で知ったときがわ。

人が少ないからこその濃いお付き合いがあり、
ホタルや鹿に出会う自然があり、暮らしやすさがある。
慈光寺の1300年の歴史など、京都奈良クラスの歴史がある。

なにより、外から来る自分を受け入れてくれる環境があったことが大きかったそうです。

友人の湊さんもまた、池袋とときがわを行き来する生活をしています。
こちらに来てから体調がよく、自然のエネルギーをもらえるのだといいます。



お二人とも、なにか町の役にたちたいと、
建築や英語といった自分の得意分野を生かす仕事や、
ときがわ町の人々の通院や買い物のお手伝いをしながら、
町での生活をより生き生きと楽しんでいる様子が伝わってきました。

17:00 ふりかえり

あっという間の二日間。
“今の生活でなにかに挑戦したいな”
“せっかくのご縁だから移住しようと思う”
“何が自分にとって豊かだと言えるのか考えさせられた”
“またときがわ来ます!!”
それぞれ1分間じゃ語りつくせない、気づきがたくさんあったようです。

ときがわには確かに、温泉であったり、自然であったり、
“地域資源”と呼べるものがたくさん溢れています。

しかし、それらを実際に地域活性の資源として生かしているのは、
地元の人であり、よそから来た人であり、
両者が互いを受け入れ、ときがわを思う、素敵な土壌があるからこそだと思いました。

「ときがわ思い」な人たちに会いに行った今回の旅。
会う人会う人の言葉の端々から伝わってくる、町を思う気持ち。

普段、自分の生き方や、住んでいる町、故郷のためを思うことがあるだろうか。
個人的には何度もはっと振り返る瞬間がありました。

東京からちょっと足を伸ばせばときがわはすぐそこ。
ぜひ、訪れてみてはいかがでしょうか。



(レポート:梶 文乃)