授業レポート
2015/3/30 UP
「被災地」で生きるということ
―岩手県大槌町の楽しい日常から―
【私の「まなび」】
・復興、まちづくり、ビジネス、身近な人との関係、どこにおいても”共感力”が不可欠であること
・生きるために必要な力は「正しい答えを出す」ことではなく「決断する」ということ
・自立とは一人で生きていくことではなく、支え合う人をたくさん見つけていくこと
【先生の「ことば」】
「メディアで報道されていない被災地の現状を知ってほしい」
「津波が人を変えるのではなく、人が人を変える」
「まちづくりではなく人づくりに取り組んでいる」
「大槌ではみんなが真剣に支え合い生きている。だからこそ、居心地が良いし人間として成長できる場である。」
「丸裸になった自分に残るものはなんですか?私は”信頼”です。」
【授業の感想レポート】
2011年3月11日、あの震災から4年が経ちました。
まだ4年、もう4年、、皆さんはどんなことを考えているでしょうか。
「日々の生活で被災地や震災のことを考える機会が少なくなってきたので。」
そんなことをおっしゃられる参加者の方も何人かいらっしゃる中、今回の授業が始まりました。
〜授業の流れ〜
まずはじめに、岩手県大槌町の現在の状況、そして『一般社団法人おらが大槌夢広場』の活動内容について、最後に「クロスロード」と言われる正解のない答えを出すワークショップを災害時を想定してグループで行いました。
▼大槌町ってどんな場所?
大槌町は岩手県の県庁所在地/盛岡市から車で約3時間も離れており、同じ岩手県内でもまったく県民性が異なるそうです。
そんな大槌町が震災で有名になったのにはいくつか理由があります。
①地震に加え津波、火災をうけ街の中心部が全滅したこと(商業地浸水率98%、津波・火災により3割の方が行方不明)
②町長をはじめ、副町長を除く7名もの役場の管理職の方が亡くなり、復興を取り仕切る人がいない状況がしばらく続いたこと
震災後、仮設住宅が建てられ多くの人がそこで暮らし始めましたが、現在も人口の半数が仮設住宅で暮らしており、このデータは2年前とほぼ変わっていないようです。
新しく住宅を建設しようにも、資材と人件費の高騰によりなかなか手が出せず、また大槌町は震災前から県内でも平均所得が最下位ということもあり、他の被災地と比べ仮説住宅からの移行が難しいそうです。
新しく住宅を建設して良い場所は被災していない土地と決められているため、役場や病院など社会インフラへのアクセスが難しく、地面のかさ上げなどいわゆる”復興”は進んでいても人の暮らしを回復させる意味での”復興”はまったく進んでいないのが現状だと神谷先生は述べていました。
こういった面はなかなかメディアでは取り上げられず、もともとの土地柄に絡んだ課題も多い為そういった現状を知ってほしいとお話しされていました。
▼『おらが大槌夢広場』を通して見えてくる”まちづくり・ひとづくり”の課題
大槌町は震災後、町民主体の「おらが大槌復興食堂」で一躍有名となりました。
ですが、すべてがうまくいっていたというわけではなく、そこからはたくさんの課題が見えたそうです。
・出る杭はうたれる
田舎の土地柄、新しいことに挑戦する風土は十分になく、むしろ失敗をすぐに叩かれてしまい、自分だけでなく家族や親戚まで非難の対象となるため、なかなかやってみたいことがあっても現実におこすには難しい。
・大槌人の課題
”知識がない、自信がない、新しいことに挑戦しない”
大学に行く人はほぼおらず、高校卒業後の進路は町外や県外の専門学校が主流。(※ただ、町内に残るという選択肢もほぼないそうで残ることの方が逆に不思議といった感覚がある。)
「大槌なんて」というのが口癖で、自分たちの土地に自信がない。
・大槌町ならではの良いところ
電話やメールをつかわず、お互いに顔を合わせて話をするのが良し。その分、ことが進むスピードは極端に遅いが、人の関係性がなによりの強み。
そんな町民性がある大槌町で 『おらが大槌夢広場』を運営していくのは多くの苦労があったそうですが、「人の津波がきたこと」によって町民の意識が徐々に変わっていったそうです。
今までは同じような生き方をしている人に囲まれ暮らしてきた大槌の人々ですが、ボランティアで訪れる多くの人の多様性や価値観や人生、考え方に触れ、個人が成長していったのだと神谷先生はおっしゃっていました。
「私たちはまちづくりではなく、人づくりをしているんです。だから、事務局の活動理念も”人は人で成長する”ということを大事にしています。」
▼ワークショップを通して「共感力」を育む!
では、個人の成長に欠かせないキーワードとはなんでしょうか?
神谷先生はズバリ『共感力』だとおっしゃいます。
コミュニケーション能力、聴く力、人間力、リーダーシップ、想像性、伝える力…
これらすべては共感力によって培われ、これは大槌町の人だけでなく日本人全体に欠けていることだそうです。例えば、ビジネスシーンや親しい友人関係、家族においてあなたはしっかりと相手の話に耳を傾け共感してから発言、または決断できているでしょうか?
コミュニティーにおいて必要なのは共感力にもとづき、みんなの納得感を得た上での決断だそうです。そうでなければ自分の意見を反映されない人は非協力的な態度をとって当たり前です。
神谷先生はこういった共感力を育むワークショップを大槌町を通して多くの人に経験してほしいと活動を続けています。
最後に、まとめとして神谷先生がなぜ大槌町で暮らし続けるのかを話してくださいました。
自立とは一人で生きていくのではなく、支え合う人をたくさん見つけていくこと。 Give & Takeの関係だということ。真剣にお互いがお互いを支え合い、みんなで生きていくこと。それが大槌町では自然に行われていて、その分すごく居心地がよく、生きている感を得ているのが大槌町にとどまる理由だそうです。
”被災地の大槌町”ではなく、”一地方のふつうの場所”としてもっと大槌町を知ってほしいと神谷先生は述べます。大槌町に来ることは、皆さんにとっても町民にとっても成長につながるそうです。
「震災がおき、家もお金も仕事も失ったとき、そんな丸裸のあなたに残るものはなんですか?」
そんな問いに神谷先生は「信頼関係です。」と自信を持って答えてらっしゃった姿がとても印象に残りました。
皆さんもぜひこの問いに自分なりの答えを見つけてみてはいかがでしょうか?
(写真:内田靖子 / レポート:加藤白峰)