シブヤ大学

授業レポート

2015/3/30 UP

不器用でいこう
~「押忍!手芸部」部活・ロボぐるみ〜

「既製品を改造!自分にしっくりくるものをつくろ♪」                                            


この日は「押忍!手芸部」の部長である石澤彰一さんと一緒に「ロボぐるみ」をつくる部活動を行いました。


部長が登場したとき、そのファッションに目がくぎ付けになりました。見たことのない形の赤い帽子とかばん。そしてバーバリーのコートを着ているみたいだけど、裏地のチェックが表に出ている…あのコートいいな、どこに売ってるんだろう、なんて考えているうちにみんなで輪になって自己紹介が始まりました。


お互いの自己紹介が終わると、部長が自分のケータイを取り出して「はい、みんな撮るよー!」と早速の集合写真撮影。「え、いきなり!?」とちょっとだけ戸惑いながらもみんな何だか楽しそう。一気に部活仲間感が生まれました。


教室の真ん中にテーブルを入れ、みんなでロボぐるみの材料を広げます。部活動だから、準備も部員がやるのです!材料は布、綿、ボタン、毛糸など。でもよく見ると便座カバーやトランクス、ハンドモップ、靴下、手袋なども…そんな材料の山を見ていると、部長のつくった2匹のロボぐるみが机の周りを歩いていました。「これは見本じゃないからね」と言う部長。いわゆる「手芸教室」では縫い方や完成品の見本がある場合がほとんどですが、「押忍!手芸部」は違います。自分の好きなものを使って、好きな縫い方、留め方でつくっていいのです。「手芸をする時に、好きにやっていいよって言われるのは初めて」と戸惑う方もいたようですが、部員のみんなが自由につくっているのに後押しされ、どんどん手が動いていきます。 



■破壊は創造の原点!?


 ロボぐるみは、既製品の電池で動く犬のおもちゃのメカ部分をベースに使います。だからその犬の毛皮を剥ぎ、頭を取るところからスタート。ぬいぐるみの毛皮を剥ぐ、頭を取るってショッキング…でも、躊躇してもやりはじめると楽しそう。あっという間にプードルが無機質な機械になりました。機械になると、しっぽや頭、足の部品が丸見えになり、動く仕組みが見えてきます。それを見ていた西武渋谷店スタッフの方がひとこと「破壊は創造の原点ですねー」と言っていました!?何やら、解体は暴力的な行為ではなく「知る」行為であり、知ることから新しいものがつくられるのではないか、とのこと。確かに、今まで「動くぬいぐるみをつくるなんて考えたこともないし無理!」って思っていたけど、皮を剥いで中身を知ると、一からつくるのは難しくても買ったものを自分の好みに合うように改造はできるなぁという気持ちになってきます。知ることで、つくることへのハードルが低くなっていくのかもしれません。



■出来栄えはどうでもいい。自分の個性が出せればいい。


 おもちゃのメカ部分がむき出しになったら、そこに自分の好きな布や靴下、モップなどの材料を使って自分だけのロボぐるみをつくっていきます。針と糸を持ったのは小学生ぶりだという男性部員は、ボタンをボタン穴に通さないで縫い付けていました。それを見た部長は「いいねーかっこいいねー」と近付きます。「正しいボタンの付け方」っていうのが頭にある人には思いつかない発想だなぁ…ルールはなくて、自分の思うようにつければいい。縫い方の上手い下手はどうでもよくて、それを自分が気に入っているかが大事なんだなぁと実感しました。


 約一時間後、みんなの作品が出来上がってきました。色も形も素材も全部違うから、元々同じプードルだったなんて思えません。材料の片づけをしてから、みんなでお互いの作品を紹介し合いました。そして、教室の脇にあった車いす用スロープを使って、みんなのロボぐるみを一斉に歩かせてみました。みんなわが子を見るように、自分のロボの歩く姿を見つめています…なんだかおもしろい。


■作ると同時に捨てていること


 授業の最後に部長は、片づけられてビニール袋に入った布の切れ端や毛糸などを指さして話していました。


「今日つくった作品をこれから家に持って帰るけど、持って帰らない作品もあるってことを意識してほしい。」


つくる楽しさや嬉しさに気を取られて意識していなかったけれど、確かに袋は大きく膨れています。つくると同時に、選ばなかった方は捨てていること。選ばなかったものも作品になる可能性があったこと。それは沢山のものをつくってきた部長ならではの言葉だと思いました。その話のあと、改めて授業の最後に部長へ拍手を送りました。その時、参加していた小学生くらいの男の子が、自分のロボぐるみを椅子の上において、立って拍手をしていた姿が印象的でした。



■一人でつくるけど一人で終わらない


 授業が終わると、部長が何やら箱を出してきて「これはみんなにお土産」と言って袋を一つずつ配り始めました。それは朝顔の種。部長が育てていた「BUCHOOW」という朝顔が種をつけたので、それをみんなに分けてくれるとのこと。


「みんなも花が咲いて種が出来たら配ってね。」


それがとっても素敵だと思いました!一人でつくったロボぐるみだけど、その楽しさやおもしろさを、朝顔の種と一緒に、周りの人たちにも分けて広めていきたいです。


後から聞きましたが、冒頭に書いた部長のコートは、ご自身でリメイクして裏地を表にしたそうです。既製品を使うだけじゃなくて、それを改造して自分にしっくりくるものをつくっているんですね。私は手作りって今までほとんどしたことがないけど、上手くなくても自分が気に入るものを身につけたいな、やってみようかな、と背中を押された一日でした。


 
(レポート:中野恵里香)