シブヤ大学

授業レポート

2014/10/22 UP

世界を見つめる映画館(ミニシアター)
ル・シネマから映画の旅に出よう

世界を見つめる映画館(ミニシアター)ル・シネマから映画の旅に出よう



オープン!ヴィレッジ最後を飾る6限目のテーマは、Bunkamuraル・シネマ。
先生はプログラミングプロデューサーの中村由紀子さん。村人に支配人の岡田重信さん、聴き手に日本大学芸術学部映画学科教授の古賀太さんをむかえての授業です。

プログラミングプロデューサーとは、上映する作品を選ぶ仕事。中村さんはル・シネマ開館以来25年間、この仕事を担当しています。

先生からの質問で授業がスタート。「映画業界で働いている人?」の問いかけには手が挙がりませんでしたが、「月に一度は映画を観る人?」には、ほとんどの方が手を挙げ、「週に一度以上観る人?」にも多くの方が手を挙げていたので、映画が本当に好きでこの授業に参加したということが伝わってきます。

年々増え続けている複合映画館、シネマコンプレックス(シネコン)とミニシアターの違いは何でしょう? シネコンは新作、話題作を多く上映しますが、ミニシアターではその映画館ごとのコンセプトに合わせた作品を選び、上映しています。シネコンが映画館の85%を占める中でル・シネマが大切にしていることはホスピタリティ。例えば、ル・シネマで上映していない作品を観たいというお客様がいた場合、近隣で上映している映画館を案内する。このようなホスピタリティが映画業界全体のためになると岡田支配人。

他のミニシアターとル・シネマの大きな違いはBunkamuraの施設であるということ。オーチャードホール、シアターコクーン、ザ・ミュージアムを併設しているため、それを活かした作品の見せ方をすることができます。例えば『カミーユ・クローデル』公開時のこと。この作品はフランスの女性彫刻家でロダンの弟子、カミーユ・クローデルを描いたものですが、上映にあたって隣接する東急百貨店でカミーユ・クローデル展を開催しました。なるほど、このような取組みはBunkamuraだからこそできることですね!

そしていよいよ中村さん自身のお話。まずはル・シネマのプログラミングプロデューサーになったきっかけについて。それまで映画会社に勤めていた中村さん、そこで働くうちに「自分も心に残る作品を選ぶチャンスがあったらいいな」という気持ちがわいてきたそう。そんな時、ちょうどル・シネマのプログラミングプロデューサーにならないか?という話があり、決断したとのこと。

次に25年間でル・シネマの転機となった出来事の話。
「それは監督をきちんと紹介するようになったこと。他のミニシアターがそういう流れになっていた中で、そういう作品に出会った。それがパトリス・ルコント監督の『髪結いの亭主』。観た時に温度が伝わってくる、誰かに伝えたくてたまらなくなる作品でした」

休憩をはさんで後半は海外映画祭について。映画祭というと表彰式のイメージが強いと思いますが、期間中に映画の売買も行われます。映画が公開されるまでの流れは、海外作品の場合、買付け→配給→興行です。カンヌの場合は12日間で約800本の映画が上映されるので、気になる作品をチェックしてくる。いいなと思う作品はだいたい同じ、あとはどの配給会社が買いそうか。配給会社の人に、買っていただけたらル・シネマで上映しますと伝えたりもします。
ミニシアターと配給会社の関係性は近いのですね。二人三脚という印象を受けました。

こうして買付けが終わっても、上映されるまでにやらなければならないことはまだあります。そのうちの一つが日本版タイトルの決定。例えば原題が “20FEET FROM STARDOM” という作品。直訳するとセンターステージまで20フィートですが、そこから『バックコーラスに恋して』→『バックコーラスは夢のステージ』と検討を重ね、最終的に『バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち』というタイトルに決定しました。このタイトルならどういうストーリーなのか良く伝わりますね。

最後に生徒のみなさんへのメッセージ。
「ミニシアターは敷居が高いという方たちにも来ていただける作品選びをしていくので、まずは来てほしい。1本の映画に様々なかたちで関わる人との出会いがあるのがこの仕事。映画は出会いをくれる宝物。みなさんにとってもきっと出会いがある。世界が広がっていく、映画館がその一歩になればと願っています」

私も映画が好きでよく観に行きますが、その作品が私たちの元に届くまでの裏側を知ることができておもしろかったです。これからは、携わった方たちの想いを感じながら観ることができそうです。ミニシアターに足を運ぶ人がもっと増えると良いなと思いました。

授業レポート:鹿沼 茉希子