授業レポート
2014/6/2 UP
ある親子の物語 〜性同一性障害のパパの生きる道〜
“家族”ってなんだろう?
この授業は“当たり前と考えていたことをもう1回丁寧にとらえなおす”そんな時間でした。
今回の先生は前田良さん。前田さんは産まれながらにして、体は女性。だけれど心は男性。育つにつれて戸籍上の性別と本当の性別が違うという自覚を持ち、戸籍を男性へ変更した経験を持つ方です。そんな前田さんが裁判で闘うことになったのが“家族のかたち”についてのことでした。
日本では、自分の生まれながらの性別に違和感を持つ人が戸籍上の性別を変更することや、性別を変えた人が異性と結婚すること(例えば前田さんのように女性から男性に戸籍を変えた人が女性と結婚すること)は認められています。しかし、出生届を出した後で、奥様となった女性が産んだ子供であっても戸籍上の父親になることはできない、と言われてしまいました。というのも、生物学上子供と父親の血のつながりがないことがあきらか=戸籍上の父親にはなれない という理由です。
“そういうきまりだ”と言われれば受け入れざるを得ない気がしそうなところですが、前田さんや弁護団の方々としては、戸籍を変えることができて、結婚もできるのに、なぜ戸籍上の父親になることができないのか?という筋の通らない点をもとに裁判を闘ったそうです。
しかし、権利を勝ち取る為にたくさんの資料を裁判所に提出したにもかかわらず、1審2審は敗訴になってしまいました。周りからは「認められないのは当たり前」という声もあり、前田さんや弁護団の方々も一時は「最高裁までいって負けてしまうと戦う場がなくなってしまう、いったん裁判はやめたほうがいいのでは?」と考えたそうですが、その時に前田さんはまだ先があるのにあきらめることはできない、と思ったそうです。
それは、前田さんの中にある考えからでした。
お子さんには“最後まであきらめないことの大事さ”を伝えたい。
まだ先があるのにもし途中でやめてしまったら、将来子供に「なんであきらめたの?」と聞かれた時にきちんと答えることができない。だから結果が良くても悪くても最後まであきらめない。そう考えていたそうです。
弁護団を率いる山下さんとともに挑んだ最後の挑戦、最高裁ではついに勝訴を勝ち取ることができました。それとともに前田さんより前に同様の訴えをしていた45件も認められることになったそうです。
授業の中で前田さんが、今4歳になる子どもが「パパとママのこどもでよかった」と言ってくれて…ととても嬉しそうに、泣きそうな顔で話をされる姿は、お子さんを大事に思うパパの姿そのものだなと思いました。“家族”は法律としてはきまっていることがあって裁判で戦って勝ち取らなければならない場合もあるけれど、前田さんの授業を受けて“家族”って何?ということを素直にとらえなおしてみると、それは当人たちの強い気持ちや大事に思う心のつながりのことなのだろうなと感じました。
また、授業の後半にVTRとして流れたインタビュー映像の中で、前田さんの奥さんは、裁判で認められたからといってまわりからすべて認められたわけではない。子供が幼稚園に行き始めて家族以外の他者と関わる今からが大変。とおっしゃっていました。
逆に今はまだ前田さんのようにトランスジェンダーを公にして生活する方は少ないのではないかと思います。きっと幼稚園で会うほかの子供たちも、親たちも初めてトランスジェンダーの家族と会うという機会になるはずです。
自分に置き換えてみると、これからの人生の中でどこかで出会うかもしれない人・家族にはいろいろな形があるということを心にとめておきたいと感じました。
(ボランティアスタッフ:やまだあき)