シブヤ大学

授業レポート

2013/7/23 UP

大人のウッドクラフト ~黒檀の箸と組木コースターづくり~

■レポートその1 (ボランティアスタッフ・大竹悠介)

シャカシャカシャカシャカ・・・
渋谷区道玄坂にある東急ハンズ本社、普段は役員会議室として使われている一室に木材をやすりで磨くリズミカルな音が聞こえます。
作業台の前には一心不乱にお箸と向き合うシブヤ大学の学生達。
今日の授業は真剣….だけれども、和気あいあいとした雰囲気で行われました。



1978年の渋谷店オープン以来、シブヤの街で様々な商品を発信してきた『東急ハンズ』。シブヤ大生の中には頻繁に足を運ばれる方もいらっしゃるでしょう。今回の授業は東急ハンズのCSR(企業の社会的責任)事業の一環として実施されました。
先生は東急ハンズ渋谷店で働かれている大場さん(通称:監督・木材担当)、山下さん(通称:棟梁・工房担当)、金井さん(通称:親方・道工具担当)の3人。それぞれ、木材や道具のプロフェッショナルです。

午後1時に授業がはじまって、まず始めに「監督」から木材についてのレクチャーがありました。木は光合成をして育つこと、木を輪切りにすると「外樹皮」と「内樹皮」に分かれること、その間に「形成層」と呼ばれる細胞分裂の盛んな箇所があること。外側は水を通す辺材で、中心に近いところは木を支える芯材だということ。なんだか、中学校時代の理科の授業を思い出します。当たり前の様ですが、木材を知ること=木を知ることなんですよね。

次に道工具のプロフェッショナルである「親方」から大工道具の話を聞きます。親方曰く、日本には西洋にはない独特の考え方があるそうです。それは、「道具は自分用に仕立てるもの」とう考え方です。みなさん、御自宅の(一人暮らしの方は御実家の)食卓を思い出してみてください。お父さんにはお父さんの、お母さんにはお母さんのお茶わんや湯飲みがありませんか?大工道具も同じで、職人さんひとりひとりに専用の道具があるんです。自分に使い良い様にカスタマイズして、世界に一つだけの道具を使います。親方は自分の金づちや鉋(カンナ)を手に説明しました。
そして、最後にMy鉋で鉋がけの実演をしてくれました。さーっと1.5メートル程の角材の表面を滑らせると、するするっと鰹節の様な鉋くずが出てきました。その厚さ約15ミクロン。会場からは「おーー!」と歓声が上がりました。そして、鉋をかけた後の角材に触って更にビックリ!つるっつるなんです!東急ハンズの方によると「親方がかけた木材はハエも滑るほどにつるつるになる」とか。これはもう、神業です。



さて、座学が終わっていよいよ制作に入ります!
前半は「組木コースター」を作り、後半は「黒檀の箸」を作ります。1日にふたつも作るとは、なかなか贅沢な内容です!

まずは、「組木コースター」です。
6人一組のテーブルの上には色も模様も違う立方体の材料が8種類並びます。明るいブラウンの木材、焦げ茶色に黒い斑点が入った木材、紫イモの様な色の木材、世界中から長い旅を経てこのテーブルに集まりました。学生の皆さんは材料を手にとって、思い思いのデザインを決めていきます。誰ひとりとして全く同じデザインの人はいません。それでいて、どの方のデザインもとっても素敵でした。
デザインを決めたら、木工用ボンド(小学校の図工でよくつかいましたよね)で材料と材料とをつなぎ合せていきます。型にはめて材料同士を圧着させてボンドが固まるまでしばらく待ちます。

待っている間に「黒檀の箸」を作ります。
テーブルの上には、黒檀の材(おおまかにお箸の形をしています)と、お箸を削る為に三角形にくりぬかれた作業台(治具)。ちなみに、この作業台はこの日の為に東急ハンズの方々が作ってくれたそうです。下準備の細かさに、ただひたすらに感謝です。そして、手のひら大の小ぶりな鉋。ひとりずつ、材を作業台にセットして鉋がけをします。もともと四角い材の角を削って八角形のお箸をつくります。最初は糸昆布の様な黒い鉋くずが出るばかり。段々と鰹節の様な鉋くずが出てきます。

ちょうどいい細さまで削れたら、今度は紙やすりで形を整えて磨いていきます。ここもさすが東急ハンズ!荒さの違う3種類の紙やすりを使い分けてかけていきます。本格的ですねぇ!ここから先は細かい粉が出るのでマスクをしての作業がつづきます。シャカシャカシャカシャカ・・・・・

デフォルトの長さは「男性用の長め」なので、糸のこぎりを使ってお好みで長さの調整もします。ここで耳より情報!人によってお箸のベストな長さも違います。親方によると、「手首の筋から中指の先までの長さ+3センチ」が理想だとか。

作業開始から3時間半。黒檀のお箸はまだまだ完成しません。先生方によると「これで終わりってものはない」「こだわりが強ければいくらでもこだわれる」とのこと。更に磨きたい人は紙やすりを持ち帰って家で作業を進めることになりました。

次に「組木コースター」の仕上げにかかります。
型から外したコースターに紙やすりをかけてツルツルにしていきます。お好みで角も削ります。表面が磨けたら、最後に油(ワトコオイル)を塗って完成です。やすりがけで出た粉で白っぽくなっていたコースターの表面が鮮やかに発色します。パッと花が咲くように。学生の皆さんは隣の方のコースターを覗きあって、お互いに感心していました。



午後1時から午後6時までの長丁場の授業でしたが、あっという間の5時間でした。楽しい時間は過ぎるのが早く感じるものですね。
そして、単に楽しむだけじゃなく、プロの方のサポートがあって、木についても道具についても作り方についても勉強になった授業でした。東急ハンズのみなさん、本当にありがとうございました!


■レポートその2  (ボランティアスタッフ・清水久美子 )

1.木について学ぼう
知っていたことを改めて知るという新しい感覚がありました。
光合成によって木は成長し、年輪を刻むこと、など、頭ではわかっていたことも、
実際に木を見て触って、その木を自分たちは使うのだという関係性を持つことで
そのことは自分とは無関係な事象ではないのだと気付きました。
自分も「木が存在している世界の一部なのだ」というつながりを感じられたことは
私にとってとても意味のあることだったと思います。

2.工具について学ぼう
道具が人に属していることは日本独特の文化である、というお話はとても興味深かったです。
「誰々の茶碗」「誰々のお箸」という道具への愛情を、私たちは知らず知らず持っていたと
気が付かされました。
常々、日本人の道具に対するこだわりは世界に誇れるものだと思ってきましたが
その根本には、そういった「自分と道具」という関係があるからかもしれません。
ハンズの方の道具に対する深い愛情にも、深い尊敬の念を抱きました。

3.黒檀の箸と組木コースター作り
まず感動したのは、ハンズの方が事前に作ってくださった道具です。
組木コースターを組み立てるアクリル板、カンナで削る際にお箸を固定する板といった
カスタマイズされた道具によって、誰もが一定のレベルで工作を完成できるように
工夫してくださっていました。
組木の配色や、やすりのかけ方、お箸の削り具合など、細かいところまで
相談にのって下さり、とても心強かったです。
ハンズの方が醸し出す「その人がこだわりたいところまでこだわってもいい」という雰囲気が
あったように思います。
参加者の方全員が5点満点をつけられたのは、そうした自由な雰囲気で
自分が満足いくまで作ることができたからではないでしょうか。

4.授業を終えて
自分で作ったコースターとお箸は宝物になりました。
とても愛おしく、買ってきたものとは明らかに愛情の持ち方が違います。
道具に愛情を持つことは、その道具が関わる世界に愛情を持つことにつながると感じています。
教えてくださったハンズの方、授業をコーディネートして下さった方、そして木とその生産者の方へと
世界がつながっているのを感じます。
小さなことですが、それは大切な感覚なのだと思います。
この授業に参加できて、その時だけではなく、その後に続く素敵な時間を持つことができました。