シブヤ大学

授業レポート

2013/6/26 UP

蔦屋書店の旅行コンシェルジュというお仕事~旅を仕事にする生き方~

代官山のオシャレな新名所、蔦屋書店。
ここは、ただの本屋さんではありません。緑豊かな敷地とガラス張りの建物外観からして、セレブが集いそうな雰囲気。実は、世界の雑誌が並ぶ「マガジンストリート」と、「人文・文学」「アート」「建築」「クルマ」「料理」「旅行」の6つの専門書店、音楽や映画、文具のフロアからなる文化のセレクトショップなのです。ですから、お店のコンセプトに合わない本は、一般書店で扱っている本であっても、置いていないことがあります。そして、代官山 蔦屋書店には、あなたを本や映画、音楽の世界に案内する、コンシェルジュがいるのです。
この授業の先生は、3号館1Fの旅行書コーナーでコンシェルジュを務める、森本剛史さん。世界100か国を旅してきたという森本さんが、あなたの質問・リクエストから、豊富な経験を元に、旅の本をセレクトしてくださいます。今回の授業は、その代官山 蔦屋書店の2号館2階にある美しいラウンジ、Anjin(アンジン)で、お茶をいただきながら行われました。

森本さんがこの仕事に就くきっかけとなったのは、2010年8月の、新聞広告。
「急募。代官山を面白く出来る人」という言葉に惹かれ、37年間のフリーランス生活から、高い競争率を勝ち抜いて、蔦屋書店に就職されたそうです。
森本さんは、「自己実現」を大事にする人。
森本さんがなりたいと想い描いていたイメージは、「異文化体験の面白さを伝える伝道師」。
フリーランスのライター兼カメラマンとして多くの旅の本を執筆してきた森本さん。今度は、お客さんにマンツーマンで旅の面白さを伝えるこの仕事を通して、また一歩夢に近づくことができました。
お店に立っていると、「好きなイタリア映画の舞台となったヒマワリ畑はどこ?」、「香川のおいしいうどん屋さんはどこ?」などなど、様々な質問が飛び込んでくるそうです。

現在64歳の森本さんが旅に目覚めるきっかけとなったのが、高校3年生の時にベストセラーとなった、小田実さんの「何でも見てやろう」。当時のこの本は、今の私たちにとっての「深夜特急」(沢木耕太郎)的な存在だったそうです。
英語好きの森本さんは、立教大学に入学し、万博の年にヨーロッパへ旅立ちました。
当時は1ドル360円の時代。ガイドブックが無かったり、1回の渡航ごとにパスポートを作成しなければいけなかったりと、現在と旅行事情はかなり違ったようです。そのような時代に海外に旅に出るということは、相当な覚悟の要ることだったに違いありません。
当時のヨーロッパへの最安経路は、横浜から船に乗ってハバロフスクに渡り、それからモスクワを経由して向かうというもの。森本さんはモスクワからヘルシンキに渡ると、ヒッチハイクでヨーロッパを旅しました。
ヒッチハイクで学んだことは、「人間万事塞翁が馬」。これは、人生における幸不幸は予測しがたいという意味だそうです。ヒッチハイクで自分よりも前に車に乗せてもらった人が、途中で降ろされてしまい、何時間も後から出発した自分のほうが先に目的地に辿り着いた、なんてこともあったそうです。

バックパッカーとして世界を旅する中で、巡り合った旅仲間たち。彼らは、安宿で再会するたびに、各自のノートを持ち寄って、旅の情報を交換したそうです。ガイドブックのない時代、旅仲間から得る、安宿情報や危険人物情報、美味しいもの情報は、貴重な情報源でした。
そのようにしてヨーロッパをヒッチハイクで9か月旅した後、アフリカ、イスタンブールを経由してネパールまで陸路2か月の旅を続け、ハードでハッピーなその中で、旅をマスターしました。

帰国後、バックパッカー仲間と飲んでいる時に、自分たちのノートを集めてガイドブックを作ろうと話が盛り上がり、本当に作ってしまったのが、「おまえも来るか!中近東」という本。文章もイラストも自分たちで書いたこの本は、なんと3000部作って完売してしまいました。この時に東京から九州まで書店を巡って営業したのもいい思い出だそうです。
その後、次々に旅行ガイドブックが登場し、有名な「地球の歩き方」などが刊行されますが、初期の「地球の歩き方」は、一般バックパッカーの投稿によって成り立っていたため、怪しい情報も多く、「地球の迷い方」と呼ばれたりもしていたそうですよ。

大学を卒業した森本さんは、原宿のPR会社で3年半働いた後、会社を辞めて夫婦で旅に出ました。前回の旅で行けなかった東ヨーロッパと中南米を廻り、帰国後は物書きになると決めて、ネタを集めました。こうして積み重ねた旅の経験が、旅ライターというキャリアに繋がっていきます。

たくさんの旅をしてきた森本さんですが、なんと、旅先で危険な目に遭ったことは一度もないとのこと!
危険に遭わないコツは、現地に溶け込むことにあるようです。例えば、やばそうな雰囲気の場所では、危険のなさそうなおじさんとまず仲良くなり、そこから現地に馴染んでいくそうです。
ただ、盗難には一度だけ遭ったことがあります。某一流ホテルでシャワーを浴びているときに、ボーイが鞄を漁っていたのです!それからは、ホテルの中でもシャワーを浴びるときでも、貴重品は必ず身に着けることにしました。

最後に、森本さん流の、旅を楽しむコツを。

1. 一番高い所へ上る。
→街を俯瞰で見ることで、街の成り立ちや歴史を感じることができます。

2. 地図を描く。
→自分でイラストを描き、住所や電話番号、ランドマークを書き込むことで、頭にインプットすることができます。

3. 人が集まる所へ行く。
→例えば市場。どんなものが、どれくらいの値段で売られているか、どんな人が働いているのかを見ることで、その社会を垣間見ることができます。

 “面白いものをキャッチする能力のある人は、どこへ行っても楽しむことができる。”
 “嫌な思いをしたときは、「授業料」だとポジティブに考えを切り替え、その次にどうするかを考える。”

夢を叶えるためには、夢を出来るだけ具体的にイメージすることが大切です。鮮明なイメージを描き、それをノートに書き留める。森本さんはそうやって、世界一周する、物書きになる、カメラマンになる、青山に事務所を持つ、など、今までに多くの夢を実現させてきました。そして今後は、グアテマラでスペイン語を学ぶ、ハワイに住む、といった夢の実現を目指しているそうです。

旅先での貴重な経験や面白いお話、数々の名言を伺いましたが、ここに書くととても長くなってしまうので、これを読んで森本さんのお話をもっと聞いてみたいと思った方は、是非、代官山 蔦屋書店に足を運んでみてくださいね。
そして、素敵な本と出逢い、あなた自身の旅を楽しんでください。


(ボランティアスタッフ 田中万里子)