シブヤ大学

授業レポート

2013/1/22 UP

「これは慈善事業ではありません。貧困問題を解決する一番効果的な”投資”なのです。」

眠れなくてお母さんに絵本の読み聞かせをしてもらいながら、すやすやと眠りについた経験。皆さん幼少期に一度は経験したことがあるでしょう。

でも、これって「当たり前」な状況ではないのです。
ネパールをはじめとするアジア、さらにはサハラ以南のアフリカでは「学校の図書館に本が全くない」という光景が広がります。
1998年、マイクロソフトの幹部社員(当時)だったジョン・ウッド氏は休暇で訪れたネパールで、「本を読める環境にない子ども達の現状」を目の当たりにし、ショックを受けました。
翌年、友人や知人から集めたたくさんの英語の児童書を持って、前年訪れたネパールの村に届けたことがきっかけとなり、ジョンは会社を辞めてしまいます。そして、これを生涯の活動にしようと「ルーム・トゥ・リード」を設立しました。

今回のThinkCollegeは、ルーム・トゥ・リードジャパン事務局代表の松丸佳穂さんをお招きして、ルーム・トゥ・リードの活動内容や、いま私たちに出来る子どもたちへの支援を中心にお話しいただきました。

「本がない人生は考えられない。」
松丸さんは幼少期に両親からたくさんの本を与えられ、読む喜びを実感していました。
さらに、父親の仕事の関係でルーマニア、ロシア(旧ソ連時代)、イギリスと転々と暮らしていた背景もあり、途上国を取り巻く教育環境を人ごととは思えなかったそうです。
そんな松丸さんは、一般企業の広報や編集などの職を経て、2010年1月にルーム・トゥ・リード初の日本人職員として採用され、日本事務局を立ち上げました。


【ルーム・トゥ・リードの活動】
世界の問題を解決する1つの手段として「子どもの教育」があります。
「子どもの教育」を充実させるには2つのアプローチがあり、それは、
●読み書き能力の向上
●教育における男女格差の是正
です。

もし読み書きが出来なかったら、
母親は薬の使用説明書が読めず誤服用が起きたり、契約書が読めず騙されたり、マイクロファイナンスの申し込み記入が出来ないために働くせっかくのチャンスをつかめません。

もし、女子の教育が見過ごされたら、
自分で職業や人生の選択をすることも困難になります。また、彼女たちが母親になったとき、子どもたちに教育の機会を授ける重要性を理解することができません。

そのため、ルーム・トゥ・リードでは
●初等教育の間に読み書き能力と読書習慣を身に付けること
●女子が中等教育(日本の高校課程)を修了すること
を目標にアジア、アフリカの国々で子どもたちの支援を行っています。


【ルーム・トゥ・リードが組織を運営する上で重視していること】
ルーム・トゥ・リードが、学校や図書館・図書室の建設、現地語児童書の出版、女子教育支援をはじめとする多くのプロジェクトに携わりながらも成果を出している要因として、いくつか挙げられますが、今回は次の2点をご紹介します。

●Sustainability(持続すること)
現地へ「全額支援しない」ことを方針に活動していること。現地の地域コミュニティの人たちにも参加してもらいながら、プロジェクト(学校や図書館など)を完成させていきます。全体の2割前後の金額を負担してもらい、お金では難しい場合には労働力、土地や資材等を提供してもらいます。いずれは、現地の人たちで自立的にプロジェクトを運営してもらわなければなりません。そのため、持続可能性を視野にいれながら、自立の支援を行っています。

●Scalability(拡大すること)
「学校を1~2校つくろう」で終わる活動ではないので、拡大すること、支援を増やしていくことはとても大切です。ルーム・トゥ・リードのユニークなところとして、100%ボランティアで運営される「チャプター」という拠点が世界57箇所にあり、1万人を超える無償のボランティアサポーターが在籍し、各地で資金調達活動を実施しています。支援者を増やすことで、支援できる子どもの数も増えます。


【楽しみながら社会貢献】
ルーム・トゥ・リード・ジャパンでは、ファンドレイズ(資金調達)と啓蒙活動を行い、何百人ものボランティアサポーターやプロボノサポーターが支援を行っています。
彼らを中心にたくさんのイベントが実施されています。

例えば「Beers for Books」という、ビールや飲み物を1杯飲むと途上国に1冊の本が送られる支援。

どのイベントも共通しているのは「楽しみながら社会貢献が出来る」ということ。
松丸さんは「イベントそのものに魅力があって、結果的にチャリティにつながっている。また、寄付先も明確、というのがうまくいっているイベントの特徴」とおっしゃいます。
チャリティを全面に押し出した企画よりも、身近に出来る行為の方が、寄付する習慣が根付いていない日本において、長期的な支援につながるのだなと感じました。


【さいごに】
ルーム・トゥ・リードは「2015年までに、1000万人の子どもたちに教育の機会を提供する」ことを目標に活動を続けています。活動当初は「2020年までに~」だったそうですが、活動を進めていく中で5年!前倒しにしたとのこと。

また、ルーム・トゥ・リードは寄付された金額のうち、84%がそのまま現地への支援に使われるそうです。これは、米国にて最も効率的な運営を行っている慈善団体(なんと上位3%)として、慈善団体の独立系評価機関チャリティ・ナビゲーターより、6年連続で最高評価の"4つ星"を獲得しています。

この授業の最後に松丸さんはこうおっしゃいました。
「これは慈善事業ではありません。貧困問題を解決する一番効果的な”投資”なのです」
ビジネスの世界で培われたスキルを、社会のために使う。そして、数字としてそれが現れている。そこが本当にすごいと思いました。



(シブヤ大学インターン:矢永 奈穂)