シブヤ大学

授業レポート

2012/11/28 UP

東京ではない地方で暮らすということ。

今回の授業は、東京を離れて地方で暮らすことについて、現在山形で活躍されている渡辺監督と加藤さんを講師に迎え、渡辺監督の映画鑑賞の後、場所を移してお二人とのディスカッションという二部仕立てで行われました。


●「よみがえりのレシピ」より:自然と人間との共生関係をあらためて

第一部は映画「よみがえりのレシピ」の鑑賞。会場は立ち見の人があふれるほどの超満席でした。

高度経済成長以後、急速な勢いで消滅しつつある日本古来の在来作物。「よみがえりのレシピ」は山形の在来作物と、その種を守り継いで行く人たちに焦点をあてた物語です。(11月30日まで渋谷ユーロスペースにて公開・その後全国順次公開です)

自然と人間との共生関係、とは、アフタートークでの渡辺監督の言葉です。野菜や植物は、勝手に育ってくれて、人間がただそれを食べるだけ、というテイク(享受)だけの関係ではなく、いただく代わりに、育て、手入れし、守って行くこと、それが自然と人間とのギブ&テイク:共生関係であり、食育でもあるという、映画の中で描かれている大テーマです。

在来作物は、育てる手間がかかるわりに大量生産に向いていなかったり流通において日持ちしなかったりし、農家としてはなかなか儲けが出ないことも減ってきた大きな要因の一つとのこと。つまり私たちがシステマチックで合理的に生きようとして、そのラインに乗るものだけを選んできた結果です。ただ、現代の状況ではそんな選択があったこと、つまり在来作物があることすら知らない人の方が多いのも事実です。今回、この映画で在来作物のことを知ったことにより選択肢は増えました。手軽にスーパーにある、というものではありませんが東京都内のレストランでもいろいろな地方の(もちろん東京のものも)在来作物を使った料理を出すところも増えているとのこと。機会があれば是非いただいてみたい=その価値に対価を払うことで、守り続けて行ってもらいたい、と思う気持ちが芽生えました。

「よみがえりのレシピ」というタイトルは、映画の中で在来作物を活かした料理でその活性化がはかられていることにもよるのですが、在来作物について気付きをもたらせてくれた映画自体が「よみがえりのレシピ」である、とも言えるような気がしました。


●地方では、暮らしと仕事が一緒

第二部は、Uターンで山形に映像作家として暮らす上記渡辺監督と、Iターンで山形にてエネルギー資源開発を進めるべく邁進している加藤さんに、地方に住むことについてお話を伺いました。


●きっかけ

渡辺監督は、よみがえりのレシピを撮るにあたり、現場で制作を進めるべく実験的に拠点を山形に移されました。当初は一時的な動きのつもりだったものの、実際に制作を進めて行く過程で市民プロデューサー制など、山形の人々のサポートを得ることができ、東京でなくてもやって行けるという実感を得て本格的に山形に事務所を構えています。

加藤さんは、東京でバリバリと仕事をしていたサラリーマンでした。しかし仕事をがんばればがんばるほど評価は上がるのに、自分が大切にしたい家族との関わりがどんどん減って行く虚無感を感じます。そんなとき、地方で農業を始めていた元同僚を訪ね、そこでは「仕事と暮らしが一緒」だという発見をします。仕事場と家庭が近く(あるいは同じで)、仕事に対する姿勢を子供たちが自然に見ることができ、子供たちは農業に自然にとけ込み、家畜や野菜の命をいただくということを実感できる、そんな暮らしです。東京では、仕事は仕事、家庭は家庭という区別が当たり前だったのに、そうではない暮らし方があることを目の当たりにし、東京を離れてみることを決意されました。


●変化:家族との時間、「社会関係資本」の重要性、おもしろい人たちとの出会い

地方に移り住む前後の1日の時間軸を、お二人に見せていただきました。特に加藤さんは、1日の2/3以上が仕事だった東京時代に比べ、山形に移られてからは家族との時間・自分のプライベートな時間が、朝も夜も大幅に増え、とても充実されているようです。

また、お二人ともにおっしゃられていたのが「社会関係資本」の大切さの実感。つまり、お金では買えない・替えられない、まわりの人々との関係のことです。それが財産=資本である、と。暮らしと仕事が一緒である分、ただのビジネスライクな関係という訳でなく、それを超えた深いつながりが持てることが魅力と笑顔でお話しされており、なんだかとてもうらやましく感じました。

さらにとても興味深かったのが渡辺監督の「面白い人たちにすぐ会ってしまう!」というお話。加藤さんも「そうそう!」とすぐさま同意されました。
仮説ですが、東京はモノも情報も人も集まりあふれシステムが完備され、そこにいる自分はいつも最先端の中におかれていて、情報をわざわざ取りに行かなくても・人とつながらなくても、何となく社会とつながっているような気になって、結局新しい情報や人に直接的に出会えていないのではと考えされられました。でも地方ではそうではない。だからこそアグレッシブな姿勢があるもの同士が出会いやすいのかな、と。さらに上記のような仕事以上の関係を築きやすいことが良い循環を生んでいそうです。
民宿の女将さんしかり、レストランのシェフしかり、はたまた東京から遊びにやってくる人も、山形では東京にいるときとは違うナチュラルで腹を割った関係が築ける、というお話にもとても感銘を受けました。面白い人との出会いや社会関係資本にはfacebookも大活躍している、とのことです。


●でも地方に仕事はあるのか?「仕事は見つけるものではなく、つくるもの」

授業参加者から不安の一つとして挙ったテーマですが、地方に住むにあたっては、仕事を見つけるという姿勢ではなく、仕事をつくるという姿勢が大切とのこと。見つけようと思っていると「見つかる」まで何もできなくなってしまうことに。そうではなく、例えば、東京ではなくその地方に行く理由となった原因を解決するシステムをつくる等(たとえばシングルマザーとして、子供と一緒の時間を今より増やしたいから東京を離れて移住したい、でもシングルマザーだからより不安と思ったのなら、同じ境遇で移住を考えている人たちを受け入れる施設を開いてみる等。「なにか問題と感じることがあるとき、他にも同じように感じる人たちはきっといる」とは加藤さんの言葉。)、方法はいろいろ。もちろん、最初から一人で始めるということではなく、その地方の人々のサポートを得られるような関係を謙虚に作りつつ、同じ課題を抱える人を仲間として協働して始めることだってできるはず。その土地でお金が巡る仕組みを作ることで地方の可能性をもっと広げることができる、と加藤さんは力強く仰いました。


●とにかく一度、遊びに行ってみてください!

地方へ移ろうか迷われている参加者への、お二人からの最終的なメッセージです。
上記の仕事に対する姿勢もそうですが、受け身ではなく積極的に動いて、その場に行って感じてみることがまずは必要、と。好きになってしまえば早い!


<今回の学び>
地方だからできることというのはその地理・物理的な問題というより、人と人とのつながりを感じながら人間らしく仕事と暮らしを進めて行ける新しいライフスタイルのことだということ。
(お二人のお話を聴くにつけ、すっかり山形に遊びに行く気満々です。)

(ボランティアスタッフ:岩渕美香)