シブヤ大学

授業レポート

2012/4/18 UP

『想いを伝えることが、社会とつながること』

絆。
2011年の漢字に選ばれた言葉です。
Facebook、UstreamなどのSNSコミュニケーションが発達し、
「社会とつながっている感」が生まれたはずなのに、
自分の存在価値を見直すことが多くなった気がします。
『Social Senshing ~社会を観る力~』とはどういうことか、
今回の授業では、社会と様々な側面で接点をもつ6人のゲスト講師からそのヒントを得る時間でした。

■第一部:人の見方、感じ方に触れる
6名の講師の活動を15分ごとにプレゼンテーションを受けました。その内容を紹介します。

・井上岳一氏(ソーシャルセンシングラボ主催)
企業活動とは別に、個人的に2011年5月よりSocial sencing Laboという会を開いて、社会人がいまどういう風に社会を感じているのか、Social Sensingとは何かについて討議し、知見を一般に共有する活動をしています。その活動で得た意見を共有させて頂きました。

社会を観る前提として、「つながりを持っている」「関わりを持っている」こと、
つまり「関係資本」が鍵になると井上氏は言います。
しかし、なぜいま社会を観る力が必要なのか。それは現場感の欠如が関係していると指摘します。今は暮らしのレベルが安定し、深く考えなくても豊かな暮らしができてしまう受動的な社会の中に慣れてしまったのではないか。だからこそ震災後、戦後と同じで、将来何が正しいことなのか不透明な次代になったいま、より自分達から情報を取捨選択しなくてはならないという持論を持ったのです。

つまり、会社や学校だけでなく社会と関わり合う場を持ち、
その場でどう考えどう動くかという「現場感」を取り戻す。
自分がどう思うか、どう感じるか、社会とのかかわり方を吟味することが必要で
「自分自身の言葉で語れること」がSocial Sencingなのではないかと井上氏は教えてくれました。



・土谷貞雄氏(「無印良品」くらしの研究所コーディネーター)
新しい常識で家を作ろうという考えを持ち、公共デザインを考え直していく「あしたデザイン室」という活動をしています。もちろん個人的な活動です。また、丸の内100%リサイクルというテーマを持った3*3ラボという活動も行っています。自分が暮らす街、家でどのように暮らすのか、という視点を持って自分で考える暮らしを提案しています。

また土谷氏は、独自の視点で無印良品のWEBでコラムを書いています。そこで「洗濯機はどこに置くのでしょうか」というコラムを書いたところ、思いのほか読者から反応があり、反応を受けた続編を書いたことでまた反響があったそうです。同じように、モノを販売する会社なのに「モノをもたない暮らし」というコラムを書き、逆にお客様から多くの肯定的な反響を得ました。

モノの価値ではなく、「どう暮らすか」という視点の提案が顧客にウケるのはなぜか。
暮らしの目線で見えてくることは、モノ単体では考えられないという結論に至り、一つの考え方が生まれました。それは、中心からではなく、境界線から中心を浮かび上がらせるという考え方。どのような暮らしをしたいかを、色んな視点から判定していき、それを円で結び自分の理想の暮らしをつくるというものです。
これは目から鱗の発想です。したくないこと、したいことから決めていくやり方は自分自身を振り返る手法としても役に立ちそうです。
暮らしには「成長と拡大」とは別の指標があり、それは成熟という言葉に置き換えられるという土屋氏の話に、考え方にも同じようなことが言えると感じました。



・今敏之氏(王子ネピア、千のトイレプロジェクト責任者)
ネピアという会社で働くことで、紙にまつわる活動をはじめた今氏。
うんちからの気づきと出会いを創出する「うんち教室」を開催しています。一見ふざけているように見えて、真面目な活動なのです。小学生が話題にしやすいうんち。汚いものとして見えるうんちを、食育の活動として、人間にとって重要なものという視点を幼い頃から理解してもらう授業を行っているのです。口から取り入れる食べ物は清潔であるし、排泄がきちんとできないと体にも良くないということを伝えています。

また、千のトイレプロジェクトという東ティモールにトイレを作る活動をしています。
東ティモールではトイレの数が少なく不衛生な環境に陥りやすく、5歳未満の死亡率が多いそうです。それというのも、公共のトイレをつくるという概念がなくトイレと衛生な環境が結びつくとは住民の考えにはなかったのです。そこで話し合いの場を設け、水がある場所と家がある場所をマッピングしてトイレの重要性を住民に説いていきました。その成果もあり活動をしてから09年から10年にかけて、農村部では120名から64名に減少と活動の成果を出すことができたそうです。
最初は企業内でも懐疑的な活動に見えたそうですが、地道な活動により社内評価も上がり、誇れる活動として社内でも認知されているそうです。

Social Sencing とは「出会い」であり、何事もやってみなきゃわからない!と今氏は伝えてくれました。



・塚原 成幸 氏(臨床道化師/日本クリニクラウン協会事務局長兼芸術監督)
臨床道化師として、ハーモニカ・パペット・赤鼻という三種の神器を装備して全国35箇所の小児病院を周っている塚原氏。Clinic(入院生活を送る子供たちに)+Clown(笑顔を育むピエロ)=ClincClownsとして、モニター越しではなく直接子供たちと対話をしています。

「人は楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる」という言葉を信念に、病棟にユーモアを届けています。とはいえ、ただ明るく振舞えばいいというわけではなく、実は、ライセンスが必要で、きちんとした知識を研修で備えてからではないとできないそうです。精神的に弱っている小さな子供、病院は静かなところと考える大人と、様々な人がいる病院であることを考えると当然ですね。

Clown Thinking というクリニクラウン流思考があり、
・「苦手は財産。不器用は才能」。面倒なことに笑いが溢れている。
・まず笑われてみる。→ そのことで自分の足取りが軽くなり自由になれる。
・本当に楽しいと思えることをやる。遊び心を忘れない。
の3つです。とにかく自分から一生懸命やってみることで世界が開けるという考え方だと感じました。CROWN(王様)にずっとなるわけではなく、自分から近づくことが大切だということを教えていただきました。




土谷 享(アーティスト/KOSUGE1-16)
住んでいる住所が会社の名前という土谷氏。小菅という地域に住み、昔からあるおすそ分けやお祭りの風習や文化に最初は戸惑いながらも、地域密着のつながりを楽しんでいるそうです。そして近隣住民のほどよい「越境」を楽しむことを提案しています。それが生活環境を楽しく、豊かなものにしていくと言います。地域の中にいかに継続的で人の温かみを残せるか、そんな活動を行っています。

例えば、等身大の紙相撲大会。実物の力士の大きさに作った紙相撲力士を作り、100人規模で土俵をたたく。一人の力ではなく、みんなの力で楽しく相撲を取る。応援という形をわかりやすく具現化した例です。また、名古屋市にある長者町の山車プロジェクト。愛知ビエンナーレの作品をつくることと、かつて繊維街として賑やかだった街を取り戻す地域活性の一つとして取り組んだそうです。09年にはやわらかい山車として、布団などの繊維をつかった山車をつくり、10年には固い山車として、しっかりとした木造の山車をつくりました。しかし、その過程は面倒なことばかりだったそうです。予算もさることながら、まずは制作場所。どこで作ることができるのか。そして、手伝ってくれる人。知り合いもいない土地で会期までに無償に近い形でどこまで手伝ってもらえるのかが課題でした。若い人を集めるだけでもやっとです。しかし、様々な人の協力を得て作品を無事完成させ、祭りを盛り上げることができたそうです。

そして嬉しい変化として、傍観者だった地域の年配の方が作った山車を継続して利用し、自らまたお祭りの準備活動をし始めました。面倒なことが多いけれども、想いが詰まったモノを作ることで関わる人を増やしていく。それが土谷さんの活動です。土屋氏のSocial Sencingとは「面倒をかけてみること」。人との関係をつくる一つの技のようにも思えます。



・柳本 浩市 氏(Glyph.代表)
独特の雰囲気をまとった柳本氏。幼き頃から社会に対しての疑問や関心を持っていたそうです。ノートにスニーカーの違いをイラストと共に書いたり、当時流行っていたロックの系譜を調べてまとめてみたり。
そんな感性を持つ柳本氏のSocial Sencingは「なぜ?を知るための好奇心!」だと言い切ります。なぜその行動をとるのか、なぜその結果になるのかと、物事に関心を持つことで社会との新しい関係と自分の中で見つけ出していきます。その際に気をつけるのは、カテゴリーの壁をなくすこと。一つの枠組みで考えないということです。

柳本氏が小学生と行ったワークショップで「おばちゃん観察」というものが面白かったので紹介します。
小学生を班分けして、スーパーで買い物をするおばちゃんを観察し、「どう売れたか」を検証していきます。何が売れたかはPOSシステムでわかりますが、それがどういう過程を踏んで売れたかはわかりません。それを検証しようというのです。
「見えるものの背後にある見えないものを観る」という柳本氏の真髄が面白くも良くわかる検証の仕方だなと思いました。
やり方は、大きな用紙に店舗の見取り図を書き、おばちゃん1000人が取った行動を観察し行動をグループ化していきます。それをシールで分類しマッピングしていきます。匂いを嗅いだか、すぐ買い物籠に入れたかなど、おばちゃんの行動をデータ化するのです。この検証は行動をデザインするという考え方につながっていき、新しいマーケティングや店舗設計に役立つといいます。確かにどう売れたかという視点は新しくて社会への提案だなと感じました。

最後に社会とのつながりを重視することで大事なことは、「楽をすること」だそうです。
自分が豊かと思えることを続けることが大切で、企業ならばそこに利益を見つけていくことが社会にとって良いことの連鎖につながるということを伝えてくれました。



■第二部 ワールドカフェ(自分の見方・感じ方を吟味する)
5名ほど、円になって思い思いに意見を交換しました。話した内容は、
6人の講師の話を聞いて感じたこと
あなたにとってのSocial Sencingとは「    」だ
来年、私は「  」をします。という宣言をする、そしてグループごとに写真を撮る。 です。

ここで印象的だったのは、自分自身にとってのSosial sencingとは?という問い。
社会を観る力ということですが、自分の言葉に置き換えるとなったときに
意外とまとまらなかったのです。
でも人と話すことだったり、社会に興味を持つことじゃないか、と意見はでます。
一言でいうと…、まとまらない。
そこで、感じたことは、この悩むことこそ、Social Sencingなのではないか。
社会に対してモヤモヤする。感覚をチューニングする。情報から何かを感じ取ることが一つの要素であると話をしていて思いました。
あなたにとってのSocial Sencingとは一言で言うとなんでしょうか。


■第三部 懇親会
協賛頂いたアサヒビールを中心に、ちょっとしたケータリングが会場内に入ることで懇親会がスタートしました。第二部で話せなかったこと、講師に聞きたかったことを生徒が直接聞く時間です。100人規模の「望年会」となり、会場はにぎやかに。通常のシブヤ大学の授業にはない、生徒同士、先生とのつながりが生まれ、終始笑顔で溢れていました。こういった場が生まれることも新しい社会とのつながりかもしれません。
人と人が出会うことで
「実は、こんなことしたいんだよね」「実は、こんなことに困っていて」。
そういった会話が社会を観る力を養うことなんだろうな、と第三部までを体感して感じました。


社会とつながることは、Facebookのいいね!ボタンを押すだけでもいいかもしれません。
でも実際に人に会って話をする。その積み重ねによって社会を観る力がついていくことに間違いはないはずです。今回の紹介いただいた活動で共通して言えるのは、各個人が感じている社会的課題に対して、「楽しく、継続的に、意義を持って」取り組んでいるということです。2012年は先生と同じように、気になることを実践に移してみませんか。


鈴木高祥