シブヤ大学

授業レポート

2012/3/27 UP

「あなたの普通がだれかの特別」ー。

「あなたの普通がだれかの特別」ー。これは、今回の授業で先生をつとめた村上浩輝さんがプレゼンのなかで幾度も繰り返した言葉で、授業の内容をまとめる一言を選ぶなら、きっとこれだ。


今回の先生は前述の村上浩輝さんと中村真広さん。
2人は渋谷でコワーキング・スペース(Co-working Space)「co-ba」を運営しており、母体の株式会社ツクルバの共同経営者でもある。コワーキング・スペースはここ数年アメリカやヨーロッパで流行の兆しをみせる、コミュニティを尊重した、シェアオフィスの形態の一種。日本でも去年あたりから数が増え、「co-ba」もそんななかで昨年12月にできた。

授業の前半は、村上さんから「co-ba」を作ろうと思ったきっかけや、そこで何が起きているかの講義。「co-ba」では、たとえば「確定申告がよくわからない」というクリエイターのAさんに、税理士見習いのBさんが知恵を貸すことがあったそう。いわゆる税理士の業界では「まだ見習いだから」と役に立たないと思ってた知識が、誰かの特別になっていく。その経験は確定申告を無事に終えたAさんのプラスになるだけでなく、Bさんの発見にもなっているそう。

ところで、筆者は29歳の会社員だ。なので、コワーキングなんてオシャレな言葉を聞くと、憧れと嫉妬の混ぜこぜで、つい斜に構えたくなる。「個人の弱さを、シェアしてごまかすなよ」みたいな悪態をついたこともある気もする。だからこそ、村上さんのプレゼンで「コワーキングは絶対解ではない」という言葉が聞けたとき、ある種予想外だったけど、とても嬉しかった。そうこなくちゃ。

授業の後半は中村さんがファシリテーターをつとめるワークショップ。シェアオフィスで交わされる交流のダイナミズムを、「他己紹介」をコンセプトに味わえるというもの。4人1組で、まず自分の提供できる「スキル」を付箋に書き出して視覚化。それを2人、4人と順に共有していく。そして次に「悩み」を共有し、全員がスキルを駆使して解決案を出し合う。

ところで、筆者は29歳の薄毛だ。なので、額の後退は著しい。初対面の方の上方に弧を描く視線が、会社生活での悩みになっている。それを相談したところ、人脈をたどり、どんな薬品が効くか教えてもらえた。また、筆者は29歳にあるまじき体毛の濃さにも悩んでいる。これに対しても沖縄への移住というソリューションを提案してもらえた。確かに時代はグローバル。世界へ目を向ければ自分のコンプレックスなんて泡だということに気づけて、とても嬉しかった。

そんな感じで和やかな笑いあり、真剣な悩みありで盛り上がっていたワークショップ。その証拠となるように、授業後の教室のあちこちで、ゆっくりと続いていた名刺交換が象徴的だった。

先生の村上さんは、7ヵ月目でリストラを経験、その後も不動産の仕事をしていて、オフィスと働き方を結ぶ線が「co-ba」のアイデアになっていた。後半の先生、中村さんも建築を学び、それを成り立たせているソフト面への興味が「co-ba」につながっているそう。「co-ba」はまるで2人の自伝のような場。後半のワークショップに参加していた村上さんが共有していた「悩み」は"「co-ba」における成長とは何か"だった。その答えは、きっとこれから、いくつもの普通に触れた特別なアイデアとして、見ることができるのだろう。


蛇足だが、この授業はシブヤ大学で1年間インターンをしていた狩野元彦さんの卒業制作でもある。授業タイトルは『自分の仕事をみがき直す。~日々楽しんで働いていくために~』。
4月から新たな職場に向かうインターン卒業生の仕事が、いろいろなことを乗り越えて、それでも楽しいと語れる日々であることを、心より祈るばかりである。

(ボランティアスタッフ:ライス舩元)