シブヤ大学

授業レポート

2011/12/21 UP

matohu と探す あなたの「無地の美」

「これらはすべていつも見ている物であった。しかし自分に『無地の美』という眼がなかったのだ」(※)

表参道の閑静な小路にたたずむ matohu のショップから、今回の授業は始まった。
受付をすませた参加者の方は、みな緊張した面持ち に見えたのは僕だけだろうか。
店内にかけられた matohu のコレクションの数々。
今回はその底流を織り成す「無地の美」で世界を見つめ直す、静かに大胆な そんな内容だったように思う。

TOWN DESIGN CAFEに移動して、デザイナーの堀畑さん・関口さんのお二人からお話を伺った。
「無地の美」、そう言われると少し難しく考えてしまうけれど、
堀畑さんが見せてくれたのは、一つのお茶碗の焼物。
表面には「貫入」とよばれる製造時のひび割れや、使い古されてあるシミが見られる。
「何もない」のではなく、無地の中に見られる偶然の線 濃淡 微妙な光のあたり方、、、
それらが織り重なって、「無地の美」は「そこにある」ようだ。
ふむふむ、
例えば、岩壁のこけ
例えば、ひび割れた木肌
例えば、冬の公園の芝生
例えば、年季の入った机の表面

再びショップに移動して、今度はそうした身近な「無地の美」をモチーフに製作された、
実際のコレクションを紹介していただいた。
お話を聴いたり、実際にそれらを纏いながら、
衣服の布地に込められた「無地の美」をそれぞれが感じていた。
それは授業の始まりに何となく店内を回っていた時とは、すこし違ったものだった。
コレクションの一つひとつに込められた「無地の美」、そして作り手の思いをじっくり味わうように、
僕たちは丁寧な時間を過ごした。

寒空の下 身近な「無地の美」を探しにお散歩、持参したカメラと共に、表参道の小路を探索した。
「果たして、これは『無地の美』であると言えるのか、むむむ,,,」
自信もおぼろげながら、それでもレンズを向けてみると、
四角に切り取られた何気ない風景は、まるではじめからそこにあった作品のようになるから不思議。
アスファルトにかすれて残る白線の痕、
まっすぐに伸びる小竹に光が差し込んで映る明るさと陰り、
岩壁に無造作に入る亀裂、、、
写真に夢中になって ふとふり返ると、
足早に通り過ぎていく人たちの中に、
かがんだり、アングルを吟味したり、撮った写真を共有したり姿がチラリ。
それぞれが思いおもいに歩いていた。
普段は気にも留めない風景に眼をやると、
何気ない風景がすこしだけ豊かになって見えた。
途中の柿の橙色に昼下がりの日差しが差し込む様子に、
皆さん足を止めて見入っていましたね。

四角いテーブルとお菓子と温かい飲み物を取り囲んで、
撮影した風景や今日の学びをみんなで共有。
すごい。
通ってきた道や眺めていた風景はみんな同じはずなのに、
撮影した写真はどれも異なるものだった。
それぞれの発見と眼のつけどころの多様なことに、無地の奥深さを思った。
もっと皆さんの写真を見てみたかったなぁ、
というところで二時間の「無地の美」をめぐる今日の授業はおしまいに。

今・ここにいるぼくの身の回りに、「無地の美」を探してみる。
木目の中に何度も使われて付けられた傷やシミが残るこのちゃぶ台、
日に焼けたり所々擦れた、凹凸のこの畳も「無地の美」と言ってもいいだろうか。
いつも当然そこにある世界を、少しだけ丁寧に見てみる。
毎日そこにあったはずなのに、
見えてはいなかった無地の豊かさに共鳴するように、
これからはバイト先までの道のりを歩いてみようと思う。

堀畑さん、関口さん、
そして授業に参加された皆さん、
素敵な時間をありがとうございました。

(※)当日配布のmatohuの資料より


(ボランティアスタッフ: 平松和旗)