シブヤ大学

授業レポート

2011/1/19 UP

フレンチシェフが魅せる、有明海の郷土料理のかたち。【ランチの部】

 「東京ローカルレストラン」
それは、“東京”にいながらにして“ローカル”の最高の食材を味わうことができるレストラン。
 しかし、このレストランは、特定の店舗を持っていません。1ヶ月に1回、都内の既存のレストランを会場にして、特製メニューが振る舞われるのです。まるで、渋谷区のいろいろな施設を会場として授業を展開する、シブヤ大学みたいですね。

<佐賀県太良町の“新”郷土料理>

 そんな「東京ローカルレストラン」。今日の“東京”の会場は、池尻大橋の「フレンチレストラン・オギノ」。なんと、2ヶ月先まで予約がいっぱいと噂の、大人気のお店です。このレストランのオーナーシェフ荻野伸也さんは、なんと現地に出向いて食材を味わって、今日のメニューを創り上げたそうです。そんな料理を味わえるなんて、何という贅沢!

 そして今回の“ローカル”は、佐賀県太良町。この地域の風土や食材について、「東京ローカルレストラン」のプロジェクトリーダー中原一歩さんが解説してくださいました。太良町は、佐賀県と長崎県の県境にある、有明海に面した港町。この有明海はなんと、最大6mという日本一の干満の差をほこり、太良町は「月の引力が見える町」とも呼ばれます。有明海がつくり出す栄養豊富な干潟では、ワタリガニや牡蠣、海苔などの豊かな海の幸が育つとのことです。
 特に牡蠣は、普通は養殖に2年ほどかかるのに、太良町で採れる「竹崎かき」は、半年ほどで出荷できる大きさに育つそうです。木枯らしの季節になると、有明海に面した国道207号沿いに、炭火焼の牡蠣を提供する小屋が現れるため、「焼き牡蠣街道」と呼ばれるほどだとか。
 この他にも、佐賀豚や太良みかん、太良わさびなどが、今日のテーブルに上るそうです。

実は、シブヤ大学では、2010年10月23日に「フレンチシェフと作る、未来の郷土料理」
という授業を行っています。このとき、佐賀県太良町の食材を題材に、このフレンチレストラン・オギノの荻野シェフと、“新”郷土料理開発のアイディアを出し合いました。今回の授業では、荻野シェフがその授業に参加した生徒さんの意見を参考にして創作した、新郷土料理のフルコースをいただきます。さて、どんな料理が出てくるのでしょうか。楽しみです。

<本日のメニュー>

 美味しそうな想像が膨らんできたところで、なんと、試食をさせていただけるとのこと!さっそく殻つきの牡蠣と、パンが運ばれてきました。いっせいにカメラを取り出す生徒さんたち。皆さん、スープまで美味しそうにすすっていました。

 いよいよフルコースが始まります。

前菜は、「金星佐賀豚の一口カナッペ」。
サクッとしたパンの上に、しっとりした口当たりの豚のパテが乗っています。少し内臓の味がしましたが臭みがなく、ちょっとスパイスの香りも感じる上品な味でした。

お次の魚料理は、一見すると、お菓子のムースのよう。緑がかったムースの上に白い泡と赤いトッピング。これが実は、「竹崎かきと有明海苔のクレーム 竹崎かきのタルタル 有明の海水とレモンの泡」という“新”郷土料理なのです。
下層の緑色のクレームを口にすると、牡蠣のコリコリとした食感と、海苔の磯の香が味わえました。そして上層のフワフワの泡。海水のしょっぱさとレモンの酸味が合わさって、とても爽やかな味。クレームと泡を一緒に口に含むと、この料理が「有明海」を一口で表現していることがわかります。

続いてのスープは「竹崎かにのビスク」。
真っ赤なスープは、なんと、蟹の殻を細かく砕いて利用しているとのこと。一口含むと、超・濃厚な味!海の幸を凝縮したこのスープは、まさに「海のエスプレッソ」。生徒さんからも「これ、バケツで下さい!」と思わず笑みがこぼれます。
ちなみにこれも“新”郷土料理。

さらに次は肉料理。プレートの上には「金星佐賀豚肩ロースのロースト・太良みかんを練りこんだ金星佐賀豚ソーセージ・太良わさびのソース」。
豚肩ロースのローストは、柔らかいけどしっかりしていて、臭みがなく食べやすい。フワフワ食感のソーセージには、なんとみかんの皮が練りこまれているとのことで、ほのかに爽やかな風味が広がります。ソースにはわさびが入っているはずなのですが、ツンとすることなく、食材を引き立てる隠し味になっていました。

ついに最後のデザート「太良みかんとチーズのミルクレープ」と「黒コショウのアイスクリーム」がやってきました。
みかんとチーズの濃厚クリーミーなスイーツに、黒コショウのピリッとしたスパイスが効いたさっぱり味のアイスクリーム。皆さんとっても満足そうな顔をしていました。

美味しい食事は、人を笑顔にする。今日はそれを実感しました。

<生産者の方々>

 最後に、遠路駆けつけてくださった生産者の方々から一言。

「竹崎かき」の生産者、大鋸勇哉さんは、牡蠣の美味しい食べ方を教えてくださいました。5月に種付けを行った牡蠣は、年明けが旬。有明の牡蠣は火を入れても身が縮まないので、炭火焼がいちばんだそうです。ラップをかけて、レンジでチンしてもいいとか。

「竹崎かに」の川島力男さんは、太良町で割烹料理店「ひさご」を営んでいます。地元では、炊き立てのご飯に蟹の身を山盛りに乗せた「ガネ飯」と呼ばれる漁師飯が味わえるとのこと。メスは、冬から春は卵を持っていて旬ですが、産卵後は美味しくなくなってしまうそう。オスは夏が美味しいそうです。

ほとんどの生徒さんはまだ訪れたことがない、佐賀県太良町。遠い町に想いを馳せながら味わった“新”郷土料理。生徒さんのこの一言が、この授業を象徴しているように思います。
「美味しい時間をありがとう。」


ボランティアスタッフ 田中万里子