シブヤ大学

授業レポート

2009/12/29 UP

素材の良さを活かしきる!それがプロの技

今回の授業は、和産和食を楽しむプロの技-第2回「味を引き出す、あぶら技」ということで、素材を和食の“天ぷら”でいただきましょうという調理実習の授業でした。
講師の近藤先生は18歳で「山の上ホテル」の「天ぷらと和食の山の上」で修行を始め、23歳で料理長になりました。20年間料理長を務めた後、1991年・銀座にてんぷら「近藤」を開店。
ミシュランガイドで2つ星の評価をいただいたお店です。

まずはみんなに天ぷらのイメージを聞くと、
「自宅ではあまりできない」、「作る人によって味にすごく差が出る」、
「油っぽい」という意見がありました。
近藤先生は「天ぷらは本来油っぽくないのです。月に数回天ぷらを食す90歳のお客様もいらっしゃるぐらいです。」「油っぽい天ぷらは、揚げる温度が素材に合っていないのです。」
「美味く揚げる3つのポイントは、ころもの具合、油の温度、揚げる時間なのです。」
そう伝えて実習に入っていきました。
いろんなプロの技を先生に教えていただきましたが、このレポートでは素人の私が知らなかった近藤先生ならでわの教えを抜粋して書かせていただきます。

○ころも作り
水500ccに卵2個を割っていれます。
かき回していると卵の白身が水に溶けこむように混ざります。
白身が溶けた状態になると黄身が細かく泡立ってきます。
表面の泡を少し取り除きます。
この特製の水と薄力粉を1:1で混ぜます。(200cc:200g)
泡だて器で粉をたたいて、水に溶け込むようにし、8の字を書くようにまぜる。
多少だまが残ってもいいので、粉を煉るように混ぜないこと。
お好み焼きのたねのような粘り気が出ないように混ぜる。

○油の温度の目安
ころもを垂らしてころもが
・底に沈んでゆっくり上昇すると160度
・沈んでスーと上昇すると180度
・すぐに上昇し、揚がる音が大きいと200度
油の温度が低いところもがカラっと立たない。
揚がり具合は見た目だけで判断せず揚げ音をよく聞く。
素材に熱が通ると揚げ音が変わってくる。

○大分産活車エビ
近藤先生がエビを下ごしらえすると、揚げてもエビは丸まらず真っすぐでした。
そのポイントは、お腹のほうに数ミリ切れ目を入れて、エビの側面を指ではさんで、身を押して、身の繊維を潰すとプチっと身がはじけます。切れ目を深く入れすぎないこと。揚げると深い切れ目からは熱が早く通り過ぎて、全体に均一に熱が通らなくなります。

○オーストラリア産アスパラガス
アスパラは根のほうが硬いため、手でしならせて自然に折れた上部を使います。
そうすると均一の硬さなので、熱も均一に通おり揚げることができます。
アスパラの水分がころもの中に閉じ込められ、食べると水分がジュワっと出て水々しく、アスパラガスの香りがします。

○茨城県産れんこん
れんこんのアクはとりません。なぜならアクにうま味があるからです。
有機や無農薬で大事に育てられた野菜はアクも美味しいと、私は聞いたことがあります。
1cmの厚みで輪切りにして揚げます。食べるとれんこんの繊維のサクサク感と甘さがあります。

○岩手県産原木しいたけ
原木で栽培した椎茸は、揚げ音も違うそうです。包丁で軸の部分を取ります。
揚げる時、軸がついていた側を下にして先に揚げていき、ひっくり返し反対側も揚げて、またひっくり返します。先に揚げていった軸側4割、丸みのある側6割という熱の通し方です。
食べると肉厚であわびのような歯ごたえと椎の木の香りがします。

○高知県産小玉ねぎ
160度でじっくり揚げて、玉ねぎの中心から2割程度なまの部分を残す。
10割熱を通しきってしまうと、うま味が半減してしまいます。
揚げ始めにジャーっと大きな揚げ音がするのは、玉ねぎの水分が勢いよく外に揮発している音です。
揚げ音が小さくなると、熱が素材に通ったことになります。
油の温度が低くすぎると、揚げ音が聞きとりにくく、音の変化に気づけないので注意。

○栃木県産ごぼう
斜めに4cm程度に薄切りにする。
ベッタリしたころもをごぼうに厚くつけて揚げると、食べる時に香りが伝わりにくくなります。そのため、ころもは弱めて使います。(ころもに水を足し薄める)

○岩手県産牡蠣
ごぼうとは逆に、ころもを強めて使います。(ころもに粉を足し硬めにする)
牡蠣の水分を逃がさないようにするため、しっかり粉をつけ、ころもをつけて揚げます。
温度が高すぎると身が破裂する、低すぎるとベタっと湿った揚がり具合になります。
油がはねやすいので注意。
素材がもつ水分量に合わせて、ころもの強・普通・弱を使い分けます。

○2年間かけて生み出した“さつま芋の天ぷら”
「焼き芋は美味しいのに、てんぷらにするとなぜ美味しくない…」
と思い、先生は2年間費やして完成させました。
さつま芋を7cmほどの厚みに切り、30~40分かけてじっくり揚げます。
油から引き上げて芋をキッチンペーパーで包み、あとは余熱でじんわりと熱を通す。
そうすることで焼き芋と同じような熱の通し方ができるのです。
お芋の糖分が表面に出てきてパリっと揚がるので外はパイ生地のように、中は焼き芋のようにしっとりホクホクの食感です。
いまやお店自慢の一品で、さつまいもの天ぷらのみを食べにくるお客様もいるほどです。

授業では野菜の天ぷらを習いましたが、昔は存在しませんでした。
いまでは普及している野菜の天ぷらを世に生み出したのは近藤先生でした。
江戸前の天ぷらは魚介のみでしたが、「それでは天ぷらの可能性や世界が広がらない」と思い、野菜を天ぷらの素材に取り入れるべく試行錯誤を始めたそうです。

野菜の特性を徹底的に研究し、野菜の水分量、うま味、甘み、香り、繊維、歯ごたえ、柔らかさなど、個々の野菜に合わせたころも、油の温度、揚げ時間を独自にあみ出しました。
野菜の特性を知っているから良さを引き出せ、一番美味しい状態に仕上げることができるのです。

先生は農場を訪ねて生産者さんと農法について語り合ったりし、その繋がりを大切にしています。
さらに先生は他の料理人の方との交流も大切にしており、「あの素材がうまく揚がらない。どうしたらいいのか?」と質問を受けることも。
「教えて欲しい人がいれば、私はどこへでも行きます」と自分の技を伝えることで天ぷらをたくさんの人に楽しんで欲しいという思いがあります。
こんなにりっぱで有名になられても近藤先生はとても謙虚で気さくな方でした。

今回の授業で、私は天ぷらの認識が変わりました。
揚げるというのは、熱い油が素材にしみ込み、調理されているのではなく、油の熱で素材がもつ水分を沸騰させ、蒸しあげて調理されているのだと思いました。

最後に、大切に美味しく育てられた野菜は生産者の手を離れ、料理人にバトンタッチされ、最期は料理となって人の胃に入る。
近藤先生の仕事は、「野菜の美味しさを最後までまっとうさせる」と私は感じ取れました。
“美味しい野菜を作る生産者の技”と“プロの技”が協力しあって絶品が生まれるのでしょう。
そして食べた人が「おいしい」って笑顔になれば、きっと野菜たちも嬉しいですよね。

普段あまり意識していませんでしたが、
ほとんど休むことなく手間隙かけて美味しい野菜を作ってくれている生産者の方、
プロの技で美味しい料理を作ってくれる料理人の方にあらためて感謝したいです。

(ボランティアスタッフ : 神野 恵美子)