シブヤ大学

授業レポート

2006/12/8 UP

       

お箸の「心」、いただきます。を、いただきました。会場は銀杏荘(いちょうそう)という「レトロ」「渋さ」なんて言葉が似合う宿泊施設。畳に座布団で受ける授業は生まれて初めてでした。
満席の会場に現れたのは、青山にある「銀座 夏野」店主高橋隆太先生。職業は、お箸屋さん。まずは、先生の自己紹介から始まりました。元WEBデザイナーという意外な過去を持ち、この仕事をはじめて7年だそうです。WEBのような画面上で完結するのではない仕事。そして誰もやってない仕事を求め、箸専門店を開くに至ったそうです。
授業は、まずグループワーク形式で始まりました。4人1組で座ったテーブルに配られたのは4本のお箸。「魚を食べるのに適したお箸」「麺類を食べるのに適したお箸」「漆塗りのお箸」「化学塗料を使ったお箸」。4本のお箸の正体を当てるクイズです。これがなかなか難しい。先生の回答チェックでは、高価な漆塗りのお箸を化学塗料だと回答していたグループもありました。魚を食べるのに適した箸は、先が細くなっているもの。細かな身までつかみやすいからだそうです。麺類には四角く角ばったものが滑らなくてよいそう。漆塗りと化学塗料は先生でもたまに間違えそうになるらしいです。難しいですね。でもそれはどちらも夏野に置いてあるすばらしいお箸だからですよね。さらに先生は、お箸は口に入れる道具なので、何から作られているかを説明しなければならないとおっしゃっていました。その言葉に僕は、プロ意識を感じました。
ここからはお箸に関する知識の勉強。まず、お箸が日本人にとって特別な道具であるというお話。「箸に始まり箸に終わる」という言葉がある。日本では子供が生まれて100日目に、お食い初めという式を行う習慣があり、その際に箸を口に当て覚えさせるそうです。そして、死を迎えたときには骨となった体を箸によって骨壷の中に入れられます。人生は箸に始まって箸に終わっているのです。そして、家庭で自分の箸が決まっているのは世界中で日本だけだそうです。これも日本人にとって箸が単なる道具ではなく個人を司るものとして扱われてきたからだそうです。
次にお箸のできる工程のお話。テーブルには、お箸ができていくまでの工程を順に追った標本がまわされました。1つの箸を作るのには数十の工程があり、この工程を速くても2~3ヶ月程度かけて作っていくそうです。これだけの手間をかけて作られるものが2000円くらいなら安いでしょ、と先生はおっしゃっていました。一同、納得の様子。先生が普段使っているお箸も、まわされました。細い端、太い箸、きらびやかな箸、繊細な箸。どれもすばらしいと思えるものでした。先生はこれらを気分やメニューに合わせて選んで使用しているそうです。1つの箸を使い続けるのではなく、複数をローテーションさせることで、休ませながらの使用ができるため寿命が何倍にも延びるそうです。
さらに普段使われている漆器も披露してくれました。漆器は英語ではJAPANと訳される日本を代表する工芸品なのだそうです。漆器というものは、傷がついても塗りなおすことで長い間使い続けることができる食器だそうです。使い捨てが当たり前になってきている社会で、ものの大切さを感じさせてくれる貴重な道具です。
 最後はマイ箸のお話。これは外食時にマイ箸を持参し割り箸の仕様を減らす行為です。最近、エコに敏感な人たちの間では浸透してきています。しかし先生はこのマイ箸をエコのための行動だけではなく、良い箸だから外食時も使うという様な、当たり前の行為としてとらえてほしいのだとおっしゃっていました。僕もこの考え方に賛成です。誰かのための行為ではなく、自分が素敵だと思うから持つという行為でなければ本当に根付くことは無いからです。日本中、どのお店に入っても箸を持っているのが当たり前な社会を想像し、ちょと楽しくなりました。
 授業の最後は恒例となってきた、先生と生徒の記念撮影。終了後も先生の周りを生徒が囲んで質問攻め。学習意欲の高さもシブヤ大学の特徴のひとつでしょうか。味のある会場で味のある授業。すばらしい時間、ご馳走様でした。

(ボランティアスタッフ 竹田 芳幸)