シブヤ大学

授業レポート

2009/6/9 UP

伝えたいこと・伝えて欲しいこと

目が見えない状況の中でクライミングをする。
果たしてそんな事はできるのだろうか?

この授業の前に僕が受けた率直な印象だ。

今日の授業はモンベルクラブ 渋谷店1Fに集合し、授業受付と靴の採寸後に店舗5Fに移動した所で先生である小林幸一郎さんのお話がはじまった。

【はじめに】
小林さんは簡単に自身の紹介後にその場の全員に自分が呼ばれていた「あだ名」を質問し、
発言の際にも「あだ名」を名乗るようにと言った。
なぜなら小林さんはみんなの顔がよく見えないので声で覚えるからと。

小林さんはその1人1人の「あだ名」に突っ込みを入れ沢山の笑いを取り、
直ぐに和やかな雰囲気にしてしまったのだ!

【講義】
小林さんがフリークライミングのイメージを質問すると、
・人工的に作られた壁を登るスポーツ
・自由に登っていく
・自然の岩も登るスポーツ
との声があがったが、対しこう語る。

ロッククライミングは、エイドクライミング(カンカンと杭を打って登っていくもの)と
フリークライミング(道具を持たず、命がけでもない)の2つがあり、
特にフリークライミングは人間が持っている腕力、感じて考える。考えたり、作ったり
の能力を総動員して行うスポーツであるとの事。

具体的には、
背が高い、低い、腕が長い、短い、目が見える、見えない、耳が聞こえる、聞こえない。
そういった個人の個性とは一切関係なく、誰にでも楽しむ事ができる、
こういう風にしなければならないというのはない。
それは自分のやり方で登っていくものであると。
つまり自分の力を上手に使った人がゴールに辿り着けることができるスポーツであると。
特に登れるように上達できた時に、その人のその能力を上手く引き出せたと感じられるのだととても力強く語ったのだった。

ここまででフリークライミングとは、誰にでも楽しめるようで、
自分自身が成長したときの達成感がとても大きいスポーツなんだなぁと
この時、既に胸躍る自分がそこにいるのを感じた。

【ワークショップ】
ハーネス(安全ベルト)、靴の説明後に授業で行うクライミングのルール説明となった。

ジャンケンで3人一組のチームに分かれた後に、各チームの名前を決めた。
(生徒ひとり一人のあだ名もそうだが、小林さんはとにかく名前にこだわる。
みんなが一体になる為の魔法と言った所だろうか。)

・チーム1 : フラッペ
・チーム2 : ノリの手羽先星雲

ルールは以下。
・3人一組のチームで1人ずつ順番に壁を登り、高さ約6メートル位の所に取り付けられている鈴を制限時間5分のうちに触ってくる。
・鈴を触れた人が多かったチームが勝ち。
・目隠しをして登り、チームの他の二人が、支援をしながらゴールを目指す。

2チーム6名の登山家達は店舗1Fのレジから商品陳列棚と言う名のジャングルを抜け、
階段と言う名の崖を下り、モンベルクラブ山脈を目指すのだった。

両チームのその誘導の仕方も様々だ。
脇を抱えるようにしたり、腕を持って手を引いたり、肩に手をかけながら進んだり。
(実際は腕を引かずに肩に手を乗せてもらい、相手に感じてもらって進むのが正しい。)

崖を下るだけで殆どの人は汗だくになっていたようだ。
見えない事がどれだけ怖いかという表れだろう。

少しずつ、両腕、両足を使って、他の二人の指示を元に登っていくのだが、
指示する側は見えていない事に対して慣れてないからか、

指示者「右手を少し上に掛けて」
登山家「少しじゃわからないよ。どのくらい?」」
そんなやり取りもあった。

もう一方のチームの苦労している様子や、自分自身が目隠しをして苦労した事、
また小林さんの

「自分が伝えたい事と相手が伝えて欲しい事のギャップを埋める事がとても重要だよ。」

と両チームへ共通のアドバイスもあった事で、
両チーム共に二人目以降は指示の仕方が格段に良くなり、
ゴール近くまで登れるようになった。

そしてノリの手羽先星雲チームは目標のゴールに辿り着くことができたのだ!

【振り返り & 質疑応答】
小林さんが生徒みんなに感想を質問した。

自分自身の感想は?
・客観的に見ているとつかみ易そうだが、つかめない感じだった。
・ストイックではなく、楽しく登れた。
・かっとつかめて、ぐいっといけたのが嬉しい
・恐れよりも、二人のアドバイスでどんどん登っていけた。
・登ったとき思った以上にすっきりした。

チームとしての感想は?
・もどかしい。
・どう言えばわからない。
・申し訳ないと思った。

みんなの感想から、小林さんはこう話す。

「自分がこういう風にしてもらえたら良かったのにと言う思いを元に
相手がどうして欲しいかを同じ視点に立って考えて欲しい。特に町中の障がい者、外国人、困った人に対して。」

「相手が困っている事、相手がして欲しいことを知る事が、フリークライミングのきっかけになる。」

「能力は個性であり、はじめは駄目でも工夫を凝らす事で、
その人の可能性を引き出せるもの。そして、それがフリークライミングである。」

「フリークライミングではみんな成長している。体がどう変わっても成長していける。」

フリークライミングとは、相手の事を理解しながら、自分自身も成長していけるスポーツ。
そしてそれはスポーツとしての成長も勿論、心も成長していける究極のスポーツである。

生徒みんなの爽やかな輝かしい笑顔を見て、そう確信させられる授業だった。

(ボランティアスタッフ 鈴木 貴博)