シブヤ大学

授業レポート

2008/12/9 UP

   

今回の授業の教室は、シブヤの街を出て、日本科学未来館へ!豪華なトークショーに加え、メガスターの上映も見られるともあってか、かなり高い出席率。未来館の笹木さんと岡山さんをナビゲーターに、トークショーの前半・後半・メガスターと内容たっぷりの3時間を楽しんできました。

生命の惑星「地球」の不思議 <トークショー前半>

トークショー前半は7人の先生方が1人ずつ登壇し、岡山さんの質問ともに進行するリレートーク。最初3名の先生は「マグマの海に覆われた原始の地球」「地球内部の活動」「海の誕生」といった、直接に実験したり観察したりできない研究の工夫などを話してくれました。地球内部の高温高圧の研究では、最も硬い物質であるダイヤモンドを2つギュッと押しつけ、地球内部の圧力に近い状況を実験室で再現します。ダイヤモンドは実験のたびに割れちゃうというから驚きです。

続く3名の先生は、原始地球の生命・大気・酸素がお互いに影響しあって今の環境を作り出した様子を語ってくれました。かつての地球の大気には酸素がほとんどありませんでした。光合成で酸素を吐き出す微生物が長い時間をかけて大気中の酸素を増やし、そして酸素が新たな生物進化の道を拓きました。生命と環境は相互作用し、地球の歴史を作ったのです。

最後の藤本教授のお話はいっきに地球の外へ。 “宇宙空間”に対する僕らの静かで冷たいイメージを壊し、空間いっぱいに磁力線が広がり、プラズマガスが吹きすさぶ、ダイナミックな宇宙像を描き出してくれました。興味深かったのは、ずっと昔に太陽系で起きた大きな磁場の変化と、地球で光合成生物が大繁殖した時期が近いというお話。宇宙の目に見えない変化が地球の微生物が影響していたかもしれないなんて意外です。

太陽系外の「地球」はどうやって探すか? <トークショー後半>

トークショーの後半は対談形式。先生方が協力して立ち上げた「生命惑星学」について、藤本教授が司会進行となり、地球惑星科学の丸山教授と井田教授が紹介してくれました。キーワードは「スーパーアース」「火星の太古の海」「酸素があると…?」の三つ。
 
大きさが地球の数倍ある岩石惑星を「スーパーアース」と呼びます。太陽系外の惑星は大きいほど見つかりやすいため、今見つかっている惑星の大部分は木星のような巨大なガスの惑星です。僕らの知ってる生命はガス惑星では生きていけないので、まだ20例ほどのスーパーアースは地球外生命を探す重要な研究材料です。地球のような惑星を探すうえで気になるのは、この“数倍の大きさ”を「地球と似てる!」と喜ぶべきなのか、「まるで違う」と嘆くべきなのかという点です。たとえば、生命にとって重要な海は、2倍大きいスーパーアースで存続できるのでしょうか?

そこで、公転軌道やサイズが地球に近い惑星「火星」に話が移ります。
最近の観測では、かつての火星に海があったとの考えが有力だそうです。となると、その海はなぜ今無いのでしょう。そもそも火星に海が誕生した仕組みも、現在の理論では上手く説明できず、未知の温暖化機構があったかもしれないといいます。火星の存在は、サイズ以外の要因が惑星の運命に大きく影響する可能性を示唆します。

最後のキーワードは、太陽系外の生命を探すうえで、大気中の酸素はどれくらい大切かという問題です。原始地球のような惑星で酸素が増えるには、たくさんの環境条件をクリアする必要があり、光合成生物の存在は重要なポイントになります。でも、だからといって「大気中の酸素が多い惑星なら、光合成生物がいる」と結論できるかはナゾ。宇宙線のような外部のエネルギーが惑星環境に大きく影響する場合、生命を探す挑戦は銀河全体の動きを考えなればならないかもしれません。

専門的な内容の30分でしたが、先生方の説明も司会者のまとめも非常にわかりやすく、ビシビシと脳細胞が刺激される驚きに満ちた対談でした。

『偶然の惑星』 <メガスター上映>

講演のあとはお楽しみのメガスター。今回上映される「偶然の惑星」は、対談で登場した井田教授が監修するプラネタリウム番組です。

メガスターの描く500万の星を背景に、立体的な音響とわかりやすいアニメーションを使って、地球誕生に必要だったさまざまな偶然を解説していきます。
たまたま正円に近い形になった地球の公転軌道。その外側を周って、無数の隕石を受け止める木星の存在。水が凍結も蒸発もせずに液体でいられる、太陽と地球のほどよい距離。月を誕生させた小惑星の衝突と、その月が安定させた地球の地軸など。こうした幸運がすべて重なった地球はすごくラッキーな存在に違いありません。でも宇宙には数えきれぬほど星があると思うと、この幸運だって一度だけじゃないかもしれない――かつて、神様だけが生み出せると信じた『奇跡の惑星』地球は、惑星科学が進歩によって、他の惑星より少し恵まれた『偶然の惑星』になったんだと思いました。
最後の数分間は、満天の星空に不思議な映像や音を重ね、余韻を演出します。まるでデタラメな方向に腕を振り回す“二重振子”の映像は、必然的な法則から思いがけない偶然が生まれて拡大する宇宙の不思議を象徴するようでした。

上映が終わると、閉館時間を過ぎて照明を落とした館内を歩き、授業の余韻覚めぬまま裏口から外へ。早くもまっくらになっていた秋の夜道で、お台場の夜空はけっこう広いとに気づきました。
講演から上映まで特別なプログラム盛りだくさんだった一日。未来館が初めての人もよく行く人も満足できる、深みのある授業でした。また行きたいと思います。

(ボランティアスタッフ 松本 浄)