シブヤ大学

授業レポート

2008/5/15 UP

「お疲れさま、今日私、用事があるからちょっと急いでるの」
「どこいくの?」
「恵比寿ガーデンプレイス」
「なにするの?」
「えっとね、ちょっと習字しに。」

…うーん。
この突拍子のなさ、シブ大らしくていいですね。

というわけで、今回は書道家の紫舟さんを先生にお迎えした授業です。
この授業は、先生の発案で2007年秋に始まった、Love Letter Projectの一環として行われたものです。自分の愛する人、大切な人へ、自分の手でLove Letterを書く、というワークショップから始まったこのプロジェクト。11月に行われる展覧会には、多くの人たちが、自分の手で書いた愛の手紙が、ここ恵比寿ガーデンプレイスに揃います。
そしてこの日の授業は、そのプロジェクト発のもの。母の日直前!ということで、お母さんへの愛のお手紙を書く、ワークショップです。

平日の夜という時間と場所柄のせいか、この日はお勤め帰りのオトナの方々の参加が目立ちました。
部屋に入ると、そこには広い空間いっぱいに並べられた手すきの和紙、墨汁、筆。そしてA4のコピー用紙がそれぞれに一枚ずつ。

授業が始まると、紫舟先生は、こう言いました。

「文字は、書く人によって伝え方が全く変わります。それは、うまい・へたじゃありません。たとえば同じ「命」という文字だって、若い二十代の人が書くものと、がんを患う患者さんが書くものと、伝えたい気持ちが違ってきます。だからそれを伝えるためのタッチも、おのずと違ってくるのです。だから今日は、お母さんに伝えたい気持ちをまずは抽出して、それを伝えるのに一番ふさわしいタッチを探して、書いていきましょう。」

それがこの日の授業の流れでした。
皆さんもぜひ、書いてみてください。お母さんにでも、誰かほかの、大切な人にでも。

まず先生は私たちに、7つの質問を出しました。
1、あなたのお母さんは、どんな人ですか?
2、今までで一番印象的な、お母さんの姿は?
3、お母さんにしてもらった、一番嬉しかったことは何ですか?
4、母の無償の愛を感じたのは、どんなときですか?
5、今、お母さんに一番感謝することは何ですか?
6、あなたが今、お母さんにできることは何ですか?
7、今、幸せだと思うことを書いてください。

その答えをもくもくと、A4のコピー用紙に書く生徒さん達。すらすらと笑顔で書いていく人もいれば、じっくり考え込む人、涙ぐむ人、さまざまです。
それから、手紙の下書きです。ここでも皆さん、本当に真剣です。同じ空間にいるのに、皆さんが向き合っているのは、間違いなく、それぞれのお母さん像でした。

さぁ、いっぱい考えて若干疲れが見える生徒さん達。いざ、和紙と向き合うときが来ました。
すると先生、
「では、今から「ありがとう」か「好き」という言葉を、10数通り、書いてください。、私が指示する書き方で、横並びで連続して書いてみてください。できるだけ隣の字(今まで書いた字)とはっきりと差が出るように大げさに書いてください。今書いた手紙を伝えるのにふさわしいタッチを、探していきます。」
①普通に書く、
②右肩下がりで書く
③細長~く書く
④太く書く
⑤まんまる~く書く
⑥マシュマロのようにふわっと書く
⑦激しく書く
⑧「この人激しい人だなあ」と思われるように書く
⑨筆をたたきつけるように書く(墨汁はね注意)、書き順をわざと間違えて書く
⑩書き順を巻き戻して書く(一語書き終わった、という状態から巻き戻し)
⑪親指と人差し指の先で筆のおしりを軽くつまんで書く

戸惑いながら、笑いながら、楽しそうに書いていく生徒さんたち。みなさん、自分で出会ったことのない自分の字と出会って、それはそれは嬉しそうです。

そしていよいよ、自分で選んだタッチで、お母さんへの手紙を清書します。個性あふれる字を書く皆さんが思っているのは、それぞれのお母さんのこと。自分の作品を見せ合う生徒さん達。どこか恥ずかしそうだけど、得意げです。
しかしこれはお世辞でなく、生徒さんたちみんんっっっなさん、いい字を書いてました。姿からは少し意外だったり、目に見えて「らしい」感じだったり。「うまい・へた」という基準をとっぱらうと、人って、こんなにのびのびと表現ができるんだ、と改めて感動してしまいました。

字を書くのには集中力がいります。仕事帰りに頭使って、へとへとのはずの生徒さんたち。しかしその表情は、なんだか幸せそうです。少し一息ついて、大切な人のことを考えてみる。その人を思う、あったかい時間が生まれる。Love Letterのもたらすパワーの強さを、改めて感じた授業でした。

(ボランティアスタッフ 天野咲耶)
【参加者インタビュー】
1.ウエダさん
Q.シブヤ大学ははじめてですか?
―二度目です。知人に噂で聞いて、先月初めて参加しました。

Q.なぜこの授業に参加してみようと思いましたか?
―習字を久しぶりにやってみたいなぁと思ったので。習ったことはありませんが。あと、やはり母の日前なので、母の日のプレゼントになればなぁと思って参加してみました。まぁ、ボツになりましたが(笑)。やっぱり、恥ずかしいです。

Q.左手で書かれていましたね。どうでした?
―左手で書いたのは初めてで、面白かったです。いろんな表現ができるんだなあという発見がありましたね。

Q.今日の授業を受けて、何かご自身の気持ちに変化はありましたか?
―時間があれば、もっと習字もやりたいですね。母に、便せんででも改めてきちんと手紙を書きたいとも思います。母だけでなく、他の人にも書いてみたいですね。

Q.今日の授業のご感想は?
―今日一日仕事してきたけど、これが一番集中できた。同じ手紙でも、メールよりも、筆を使って書くのは楽しいですね。筆だと失敗が許されないから、しっかり考えてから書くことができるし、程良い緊張感がいいですね。

Q.最後に、これからもシブヤ大学に参加してみたいと思いますか?
―テーマによっては、これからも参加してみたいです。

お勤め帰りのウエダさん。私の書いているすぐ前で書いてらっしゃいましたが、下書きの段階でじっくりと考えていた姿が印象的です。またタッチを選ぶ時もさんざん二人で一緒に迷いました。結果、本当に味のあるお手紙を書かれていました。素朴な言葉に、少し照れ屋そうな(?)ウエダさん「らしさ」がにじみ出ています。素敵なお手紙、ぜひお母さまに渡してみてほしいです。